悪役令嬢の居場所。

葉叶

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番外編

オウガ国に行った後のミヤネ

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「んっ…朝……?」

起き上がると狼達も顔を上げた

「ごめん。起こしちゃったかな?まだ寝てていいんだよ」

頭を撫でるとまたスヤスヤ眠り始める狼のシンとシンの部下達。
シンはここに来てすぐにチナが僕につけた狼だ。
最初はどう接していいのかもわからなくてギクシャクしていたけど
チナさんの協力やシンからの歩み寄りによって一緒に寝るくらいには仲良くなれたと思いたい

僕は顔を洗う為部屋にある洗面所へと向かった

この国にも大分慣れてきた。
ここに来たばかりの時は、こんなにぐっすり眠る事が出来なかった
寝れない僕に付き合う様にチナさんやシン達が僕が寝るまでずっと付き合ってくれたし
何かしてないと落ち着かない僕の為に書類仕事をくれた。

ちょっとずつだけど、変われているのかな?

「ミヤネー!今日は何するー!
あ、勿論仕事は終わらせてきたよー!」

「おはようございます、チナさん」

「おはよう、ミヤネ!」

挨拶をすれば笑顔で返してくれる
作った笑顔じゃなくて…本当の笑顔で。
それが嬉しくて堪らない。

「それで、何する?
バーベキュー?鬼ごっこ?それともかくれんぼ?」

「鬼ごっこしたらずっと僕が鬼じゃないですか
今日はピクニックに行きませんか?とてもいい天気なので」

「ピクニックいいね!
それじゃあ料理長にお弁当お願いしてくる!
ミヤネも早く着替えるんだよ!」

目にも止まらぬ早さで居なくなるチナさん。

ここに来てから初めての事ばかりだ。
誰かと寝るのがこんなに安心するなんて知らなかった
誰かと穏やかに過ごす時間がこんなに幸せだなんて知らなかった
気持ちが一方通行じゃないのが…こんなに嬉しいことだとは知らなかった
こんなに幸せだなんて知らなかった

クゥーン

腰に擦り寄るようにして僕を見上げるシン

「心配してくれてるの?」

いつの間にか泣いていたようで慌てて涙を拭く

「大丈夫だよ
僕は幸せだなって思ったら嬉しくて出てきちゃっただけだからっ
今日はピクニックに行くんだ。シン達も行く?」

「それじゃあ、行こっか
早く行かないとチナさんがつまみ食いで全部食べちゃう」

つまみ食いと称して料理長の目を盗みご飯をよくつまむチナさん
料理長のご飯は美味しいから手が止まらなくなり半分くらいなくなってるなんてザラにある。
勿論その後料理長にこってり絞られてるけどね。

「ゴラァっ!このガキッ!またつまみ食いしにきやがって!今度という今度は許さんぞ!!」

「ふぉひほうふぁまぁー!」

口パンパンに食べ物を詰め込みリスの様になったチナさんがキッチンから飛び出してきた

「あちゃあ…遅かったか…」

料理長から楽しそうに逃げるチナさんを横目にキッチンに入ると所々穴あきなお弁当が置いてあった

「どうしようかな、これ」

僕はこれでも全然ご馳走なんだけど
料理長は納得しないもんなぁ…
でもまだ帰ってきそうにないし…

どうしようかと悩んでいるとクイッと服が引っ張られる

ガウゥ

「僕が作るの?
簡単なものなら作れるけど…」

料理長の料理には到底叶わないし…

ガウゥ!

「…わかった。つくってみるよ」

お前なら出来ると力強く頷くシンの頭を撫でて僕は昔乳母が教えてくれた料理を作った
王族として必要はないかもしれないけど、いつか必要な時が来るかもしれないからと簡単な料理を教えてくれた。
優しくて強い人だった。
僕の頭を撫でてくれる唯一の人だった。

だけど、乳母は美しすぎて優し過ぎた。
父が乳母を狙っているのに気づいた母によって乳母は殺された。
乳母はただ、僕の為に僕とちゃんと接してほしいと願っただけだった。
その懇願をしに行った乳母は父に犯され母に殺された。
愛されたいと思っていた人達によって僕を愛してくれた人が殺された。

忘れたくても忘れられない。
血塗れになった乳母を僕の前で笑いながら踏みつける母の姿を。
あぁ、もうすぐ乳母の命日だ…
彼女のお墓は王城の裏庭にひっそりと作った
伴侶とは死別し天涯孤独だった彼女には誰もお墓を作ってくれなかった
証拠隠滅の為に燃やされた彼女の薬指を盗んで僕はそのお墓に埋めた。
出来れば伴侶と同じお墓に入れてあげたかったけど
彼女の故郷が何処なのか、伴侶のお墓が何処なのか僕にはわからなかった。
ただ、死んだ後彼女が愛する人と再会してますようにと祈りながら彼女が好いていた椿の花を添えた。

「ミーヤネッ?何してるの?」

「っ!?えっ、あ、り、料理してます」

突然話しかけられ慌て過ぎて持っていたボールを落とす所だった…

「何作ってるのー?これいいにおいするー!」

「えっと…僕を育ててくれた人が教えてくれたたまご焼きです
甘目なので好き嫌いは分かれると思うんですが
彼女が作るたまご焼き僕好きなんです」

「へぇー!僕甘いの好きだから楽しみっ!」

フフッと目を細めて笑うチナさんを見てると荒んでいた心が少し和らいだ


いつか、僕が死んだ時胸張って貴方に会える様に僕は一日一日を大事にして生きていきます。
貴方とティアナ嬢が救ってくれた命を大事に。

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