アイビー

葉叶

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どうして彼は今にも泣きそうな顔をしてるんだろう?
別に着せ替え人形ぐらい彼ならどんな子でもやってくれると思うけど。
一瞬その光景を想像した瞬間チクリと胸が痛んだ。…なんだろ?

「なんでなん?僕の事嫌いやないんやろ?ほんならえぇやん。帰ろうや」

私はもう一度フルフルと首を振った。

「アイスも蜜樹が好きなの買ったるし、蜜樹が欲しいもん全部僕が買ったる。僕があげられるもんなら全部蜜樹にやる。
せやから……お願いやから僕と一緒に帰ろうや…お願いや、蜜樹…」

私にすがりつく様に私の胸に顔を埋めるつーくん。
どうして私なんだろう。
私じゃなきゃいけない理由なんてないのに。
そこまでする程の価値が私にあるとは到底思えない。

なんて答えればいいかわからなくて黙るしかなかった。
此処まで求められた事なんて今まで無かったし、縋りつかれたことだって勿論なかった。

「蜜樹……」

今にも泣きそうな顔で私を抱きしめるつーくん。
人生勝ち組の人が、負け組の私に縋り付く。異様な光景すぎる。

「……戻ったら私殺されるかもしれないから戻れない。
つーくんには沢山お世話になったし有り難いとは思ってる。
だけど、つーくんは人生勝ち組だからすぐに代わりの私が見つかるよ」

スッとつーくんから離れた。
私の代わりなんて何処にでもいる。
寧ろ、私という存在はいらない部類に入る。
特技がある訳でも美人な訳でもない。下の下の生物。
身も心も綺麗な頃にはもう戻れない。…夢を見るにはもう遅すぎる。

「人生勝ち組とかよくわからんけど、蜜樹の代わりなんて居らへん…居る訳無い。
それに、居ったとしても僕は蜜樹がいいんや、他は要らんよ。
てか殺されるって何?僕蜜樹に酷い事なんてせぇへんよ?」

「つーくんじゃなくて女の人に殺されるから。
つーくんはイケメンさんのモテモテさんだから私みたいな珍味?がそばに居るのを好まない人が居るんだよ。
大丈夫。つーくんはイケメンさんだから選び放題だよ。自信持って!」

大丈夫っ!と励ましていると、何故かポカンとした顔をするつーくん。

「……それじゃあ、殺されへんかったら蜜樹は僕の傍にずっとおってくれる?」

「んー……捨てられない限りは?」

特に私が出ていく理由はないし…
殴られる事もなく温かいご飯を食べて温かい布団で眠る生活。
今まで生きてきて初めてした生活。これが平和というものかと初めて知った。

「それじゃあ、僕が蜜樹を殺そうとする奴を殺すから一緒に帰ろ?
僕、今日蜜樹の為に美味しいアイス買ってきたんよ。
だから今日帰りがちょっと遅くなってん。」

今にも蕩けそうな笑顔で私を抱っこしようとするつーくんの手を思わず止めた。

「やっぱり僕とはおりたくないん?」

「ち、違くて…私汚いからつーくんの綺麗な服汚れちゃう」

足から血も出てるし道中コケたから泥とかついてるし、なんならまだあの男たちが出したモノが体に纏わりついてる気がする

「えぇよ。蜜樹の為ならどんなに汚れても全然えぇよ。
早く僕らの家に帰ろうや。足の怪我も早く処置せなかんしな。」

ヒョイッと私を抱き上げてとても嬉しそうに微笑むつーくん。
何でそんなに嬉しそうなんだろ。
でも、つーくんが嬉しそうだと少し胸があったかくなる気がする。

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