元悪役令嬢は何でも屋になる。

葉叶

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新しい依頼 X-01

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「父様が母様を失って辛かったことは分かってます。
でも、僕だって辛かった。悲しかった。
それでも僕は…父様との距離を縮める努力はしました。
だけど、父様は家に帰ってきても書斎にこもってご飯も一緒に食べてくれなかった。
挙句にあの女達をつれてきて更に帰ってこなくなった。
僕と父様が最後に話したのは……母様が元気だった時ですよ?」

「それはっ……!」

言い返そうと頭を働かせても言葉は出てこない。

「あの女達が僕に何をしたか…知っていますか?
あの女達がこの家でナニをしていたか……父様は知っていますか?」

私の服を強く握りながら頑張って微笑むジルニア・ドンスター

「……っ」

「知りませんよね。
だって父様はこの家から逃げていましたから。
あの女は家に来てまず母様の形見を全て売り払いました。
肖像画は燃やされこの家に母様の肖像画は1枚もありません。」

「なっ!?そんな馬鹿なっ……!?」

驚愕しているという事は本当に知らなかったようだ。
普通なら気づきそうなものだけど…

「昔から仕えてくれた使用人も一人も残ってません。
全員殺されるか解雇されました。
皆僕を庇って死にました。父様は人が死ぬ時どうなるか知ってますか?
人の死体が何日で腐るか、何日で蛆虫に食われるか知ってますか?
僕は知ってます。何度も…何度も何度も何度もっ!あの女達が使用人達を殺しては僕に見せてきたからですっ!」

キッと父親を睨みつける。
 
「僕は…こんなにも恨まれる事をしましたか?
僕はただ母様と居たかった…っ
ただ…普通に生きていたかったっ!!
男から性欲をぶつけられず…拷問もされずにっ…生きていたかったっ!
ただ……父様に僕の存在を……認めてもらいたかった…っ」

「私はっ…お前の事を認めていたっ!
次期当主はお前だと決めていたんだ!」

「後からなら…何とでも…言えますよ。
彼等が来なかったら……僕の事思い出す事も無かったでしょ?
僕は……貴方が一番憎い。
あの女達よりもっ……貴方が憎いっ!
助けて欲しかった!誰よりも貴方に…っ助けて欲しかった!!
でも…過去を正す事なんて…誰にも出来ません。
だから、貴方の命……僕に下さい。」

儚げに哀しげに微笑むジルニア・ドンスターを見て
当主はツーっと涙を流した。

その涙が何の涙なのか私にはわからないし
もう理解することも出来ない。

前の二人と違って胸にナイフを一突きしてゆっくり当主が死ぬのを涙を流しながら見るジルニア・ドンスター。

私の服を強く掴む手を離し手を握って私達は当主の命の灯火が消えるのを見守った。

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