I 愛 哀

葉叶

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にー。

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それから毎日両親に喧嘩を売っては蘭に手当てされ花畑で過ごす日々。毎日幸せで堪らなかった。
此処では俺だけの蘭だ。
花の冠をあげれば、ありがとう藍ちゃんと笑う顔が可愛くてつい抱きしめてしまう。

そんなある日の事だった。
本当の父親を名乗る男が訪ねてきたのは。
母親はビクビクとしながら俺をやるからもう関わらないでくれと土下座していた。

「アンタが俺の親なの?」

周りにいかつい男を連れた俺に似た顔をした男に話しかけた。

「あぁ、そうだ。
お前の母親が金と一緒にお前も連れてトンズラこいてな。見つける度に引っ越してやっと捕まえたわ」

その話を聞いて定期的にした引っ越しはこの為かと納得した。

「アンタの所に行ったら此処を離れなきゃいけないの?学校は転校するの?」

親が如何なろうと正直どうでもいい。
俺にとってはそれよりも優先するものがある。

「あぁ、そうだな。
俺の家と此処じゃ遠いから転校だろうな」

「それじゃあ行かない。
もし無理矢理に連れてくなら俺にも考えがある。」

「ほう、考えか。」

面白そうに笑って僕を見る自称父親。
その顔がとてもムカつく。

「俺はお前達より小さいけど
小さいからこそ出来る事は沢山ある。
例えばお前達の玉を噛み千切る事だって出来る。」

今離れる訳にはいかない。
まだ彼女の心の中に俺がいない。
離れればあっという間に思い出へとなってしまう。
それじゃあ駄目なんだ。
もっと強く強く心に刻み込まなきゃ。

「アッハッハッハ
おい、武!聞いたか!?俺の息子らしい考え方だと思わねぇか!」

「昔の親父と同じ事言ってますね」

「それじゃあお前の気持ちが変わるまで定期的に勧誘させてもらうわ。
あ、監視置いとくから逃げられると思うなよ。お前達。」

母親達を威圧して俺の頭をワシャワシャ撫でて自称父親は帰っていった。

あの人が本当に俺の父親なら長くは待たない。
ありとあらゆる手を使って自分の元へと連れてくるだろう。俺だったらそうする。
それは困る。早く…早く蘭へ俺を刻みこまなきゃ…。





監視つきと言われたせいか、母親達は俺を殴ってくれなくなった。
それはとても困るから俺はフライパンで自分を殴ったりしてワザと怪我をして蘭と会った。
蘭は俺の怪我を見る度に綺麗な目からポロポロと涙を溢れさせる。

「ほら、これあげるから泣きやんで。」

シロツメクサで作った花の冠を頭に乗せれば

「ありがどゔぅううう」

笑おうとして変な笑顔で泣く蘭。

「どうしたら泣き止んでくれる?
俺、蘭が泣いてるのなんか嫌だ」

笑って欲しい。その気持ちは本物。
だけど、蘭の涙をもっと見たいと思う俺も居た。
もっともっと傷ついたら……蘭はどんな顔をするんだろう。

「あ、藍ちゃんっ…このまま居たら死んじゃう
そんなの嫌だよ…っ」

そう言って俺の手を握って顔を伏せる蘭

「俺が死ぬの嫌で泣いてるの?」

俺が死ぬのが嫌だと彼女は泣く。
俺の怪我を見て彼女は泣く。

「可愛いな、蘭は。
蘭、蘭のお願い俺が叶えてあげる。
だから俺の願いも叶えてくれる?」

それならば、次の段階へ進もうよ。蘭。

「蘭のお願いを叶えたらきっと少しの間離れ離れになる。
だけど、俺は絶対戻って来るから…だから俺を忘れないで。俺のこと待ってて?」

蘭の頬を流れる涙を拭いながら目を見つめた。

「…っ……待ってるっ……藍ちゃんの事っ…ずっと…ずっとっ待ってる…」

蘭は真っ直ぐ俺を見て何度も頷いた。

「約束だよ、蘭。」

俺は蘭を抱き締めてこみ上げる笑みを隠すのに必死だった。
これで彼女は俺を忘れない。わざわざ毎日怪我したかいがあった。
人間は辛く悲しい事ほど忘れないから。


俺は蘭と別れた後、監視役の人に父親の元へ連れて行って欲しいと頼んだ。
持っていきたいものは、いつも持ち歩いていたし家には僕の荷物なんてない。
父親の元へと向かう車の中で蘭と撮った1枚の写真をずっと眺めていた。
今日から当分会えない。どうか、どうか忘れないで。俺を覚えていて。
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