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異変は突然に

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 ユーリンにソフィアさんを任せ、俺はソフィアさんの弟を入れた空間に向かった。

「何かあると危ないから、スー君達はそっちで待っててね。」

 不安そうに俺を見上げるスー君達の頭を撫でて、空間を閉じた。

「さぁて、やりますか。」

 何があったかは本人にしかわからない。
それならば、本人に聞けばいい。とても単純で、そしてとても疲れる作業。
 彼の目元に手を置き、目を瞑る。

「''Memory''」

 俺のつぶやきと共に、俺の意識が落ちた。



ーー…


『ねぇたまっ』
『ジェフ、どうしたの?』
『あのね、ジェフね、ねぇたま、だいしゅきなのっ!』
『うふふ、私もジェフが大好きよ。そういえばジェフに見せたいものがあるの。手を繋いで一緒に行きましょう?』
『うんっ!』

姉様が大好き。
優しくて、可愛くて、いつもお日様みたいな香りがする姉様が好き。
これからも姉様が居るって、思ってた。
ガイ兄様と結婚しても、僕が会いに行けばいい。
そう思ってた。そう思ってたのに、何で?なんで姉様はいないの。



『ソフィアめっ!家の名を穢しよって!』

…う

『これじゃあ、恥ずかしくて外を歩けないわ。全てはあの子のせいよ』

…違う

『ミーシャ嬢を毒殺しようとしてたらしいぜ』
『あぁ、聞いた聞いた。女の嫉妬って怖いよなぁ』

違う……っ!!


どれだけ違うと、姉様はそんな事をしてないのだと言っても誰も僕の言葉を信じてくれなかった。
本人である姉様ですら、自分が悪いのだと罪を認めている。
なんで…どうして?どうして誰も気づかないの。
目の前で起きた事なのに、何で誰も気づかないの?

誰か姉様を助けて。僕じゃ力が足りない。
ガイ兄様は変わってしまった。
みんなみんな…変わってしまった。

あの女が来てから全部おかしくなった。

そのせいで姉様まで……っ。


【君の大切な姉様の元へいかせてあげようか?】


ーー…

 抑揚のない声と共に、突然意識の外へ弾き飛ばされた。

「…クソ…顔見えなかった」

 この魔法は、当人が見た物しか見えない。
本人が見えたと認識していても見えてなかった物は見えないのだ。
ぼやけていたという事は、認識阻害か何かをかけていたのだろう。

「それにしても、身内だから庇ってるという訳ではなさそうだったなあ」

 それよりも本当にわからないと言いたげで、絶望や悲しみが次々と波の様に押し寄せてきた。

「やっぱり、鍵はソフィアさんか。」

 それとも血族達なのか………。

「他の奴らも見ていくか。なんか少しは残ってるといいけど。」

 この魔法の弱点は、月日とともに薄れていく事だ。
本人が強く思っていた事は消えにくいが、昨日の晩御飯とかそんなどうでもいい事はすぐに消えていってしまう。
 別の空間へ行き魔法を使ってみたが、死に際の記憶や家族の姿なのか誰かと笑い合う記憶しか残ってなかった。

 家に戻り、自室に戻って、おでこに冷えぴたを貼る。
これで少しは頭痛が和らげばいいなと思いながら、邪魔な前髪をちょんまげにした。

「主人、平気?」
「ん?ちょっと頭使い過ぎただけだから平気だよ。ユーリン達は?」
「休んでる~」
「そっか。ラー君、ユーリンの相手しててくれる?少ししたらソフィアさんに話しにいくから。」
「ん。…主人、無理……だめ……だ、よ?」
「うん」

 ラー君を一撫でして見送り、スー君が持ってきてくれた濡れタオルを目の上に置く。
誰かが動いているのは間違いない。
だけど、何をしようとしているのかさっぱり分からない。
ソフィアさんがターゲットになっているのだろうけど、問題は何故ソフィアさんだったのかだ。誰でも良かったのか、ソフィアさんじゃないと駄目だったのか…その違いは大きい。

「…ピースが足りなさ過ぎるな」

 脳内Wikiに頼ろうにも、脳内Wikiは起きた事象を教えてくれても、その時に誰が何を思い何を企んだのか等はわからないし、量が膨大過ぎて曖昧な探し方では探しきれない。
薬草の名前を指定すれば薬草の場所やその生産方等はわかるが、こんな感じの事件という調べ方だといついつにどんな事件が起きたと膨大な量が検索に引っかかって脳内がパンクする。
 だから脳内Wikiに頼るには、もっとピースが必要になる。
【いつ】【誰が】【何を】、せめてこの3つの内一つでも埋まれば、まだ探し様はあるのになぁ

「はぁああああ……俺の快適ニートライフどこいったんだよ…ったく」

今世では、好きな様に生きてやると決めていた。
だから誰かに勝手に押し付けられた勇者なんぞになる気もなかったし、漫画のヒーローの様に舞台に立ち大暴れするつもりなんかもなかった。
俺は俺の世界で、俺が大切なモノだけを集めて、コッソリと気楽に生きていたいだけだ。

それなのに、なんでこうも厄介事に巻き込まれるのか。
これが力を持つ者の使命だとか言うのなら今すぐ返却したい。
自分もそれ以外の者も全部大嫌いな俺にとって、強制的にイベントを持ち込むこの力が、今は少し恨めしい。

「スー君、10分経ったら起こしてくれる?」
『了解!ゆっくり寝てね、主人。』

プルンっと1回跳ねて、俺の頭を冷たい触手で撫でる。
目を瞑り、未だにゴチャゴチャとした頭を整理する為に、俺は目を閉じた。


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