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異変は突然に
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俺は念の為の道具や、必要な物を持ち、ローブを羽織って外へ出た。
ここの空間の元の出口は、あの洞窟である。
なので、あまり人目を気にしなくていいのは楽でいい。
「シンさん、これはどう動かすのですか?」
「普通の馬車とは…違いますわよね?」
イー君を連れて戻ると、二人は不思議そうに馬車を見ていた。
「あぁ、そっか。ユーリンにも見せるのは初めてか。
これはねぇ、俺が改良したんだ。ほら、馬車って普通馬だろ?だけど俺は馬とか育てられる気がしなかったんだよね。
でも、馬車が必要な事ってたまにあるからさ、馬車が必要だったんだよ、俺。でも馬がねぇしなぁって思ってたら、イー君が虎になれたじゃん?だからイー君が走れるように改良した。」
イー君は大きさを自由に変えられるから、一番走りやすい大きさになってもらって、後は馬車と連結するだけである。
勿論、俺が使うという事は道という道がない場所ばかりである。
馬車の方も強化して、中の方の改良もしたけど、実際中で座ってたことないから乗り心地はわからん。基本的に中には素材とか、極たまにスー君達が乗るくらいだ。
「一応出来る限り安全運転では行くけど、俺が呼ぶまで何があっても出てこないでね?念の為にスー君達にもついててもらうから、何かあっても大丈夫だと思う。」
「えっ!?何があってもって…シンさん!?」
ユーリンが話し始める前に扉をしめて、鍵をかける。
「イー君、準備は?」
「バッチリ~!」
「んじゃあ、行こうか」
御者台に乗り、念の為につけてある手綱を握れば、イー君が走り始めた。
道中、魔物に会ったりしたが、特に問題もなく障害物を取り除いたりしながら、馬車を走らせた。何か悲鳴が聞こえた気がしたけど、多分気のせいだと思う。言い訳をさせてもらうと正直やる事がありすぎて、後ろにまで気を回してる場合じゃなかったのだ。
「着いたぞー………って、なんでそんな疲れてるんだ?」
「僕……帰りは御者台がいいです……」
「んー…今のユーリンだと振り落とされると思うぞ?」
頑張ってくれたイー君を労りながら言えば、何故か不思議そうな顔をされた。
「んー……あ、ユーリンあっち見てみな。アレ俺達が通った跡」
「え……な、なんですかアレ」
「知能がある奴は襲ってこないんだが、馬鹿な奴は来るからなぁ。
いつもなら素通りするかスー君達にあげるんだけど、今回は急いでたからそのままにしてある」
イー君が走りやすい様に、邪魔な物は俺が全部退けた。
そのせいで魔物の死体とか色々と転がっている。
まぁ、残しても森に還っていくからいいんだけど。
「さて、じゃあ行くか。」
よろめく二人を連れて、俺は二人を連れて丘に登る。
「確かここらへんだと思うんだけど……っと、あ、アレだ」
「!!」
さっきまでよろめいていたのが嘘の様に、ソフィアが駆け出す。
「………っ、よかっ、たっ」
落ちていたネックレスを優しく拾い上げた彼女の瞳には涙が滲んでいた。
「良かったですね、ソフィアさん」
「っえぇ。お二人とも…ありがとうございます…っ」
先程迄の毅然とした姿とは違い、今は歳相応の子供の様な笑みを浮かべるソフィアさんは、ネックレスについた紫の石を優しく撫でた。
「………これは、婚約者の方から…初めて、貰った物だったんです。」
ネックレスから目を離さず、ポツリとソフィアさんが呟いた。
「…婚約者の方は今は?」
「……分かりません。彼は私の事を疎ましく思っていたので、もしかしたら私が死んで喜んでいるかもしれませんわ。嫌な女との政略結婚など嫌だ…それが彼の口癖でしたから。
ですが、それでも私は…彼が好きだったのです……とても、とても、愛していたのです。」
ポタリと、彼女の涙がネックレスへと落ちた。
「な、何があったか聞いても?」
心の安寧の為にラー君を抱きしめながら聞いた。
「…もうお気づきかもしれませんが、私はミスティラク公爵家の一人娘でしたの。」
「また公爵家か……公爵家と俺は縁が深いのかな」
ユーリンも公爵家だし、どうなってやがるよ
「また、ですか?」
「実は僕も公爵家の人間なんです。
まだ勉強中ですが、ランフォード家当主、ユーリンと申します」
「ランフォード……彼処の長男は病弱で確か療養中では……?」
「色々ありまして、今は元気です。それでは、続きを聞かせていただけますか?」
「はい。…私は一人娘で、しかもこの容姿でございましょう?
昔から父に甘やかされて生きてきました。使用人も、両親も、皆が私を褒め称えました。だから生前の私は…とても愚かな娘でした。」
「愚かな娘……ですか?」
何となく話の流れが掴めた俺とは違い、まだ分からないのかユーリンは首を傾げていた。
「えぇ、とても愚かで世界を知らない小娘でしたわ。
私、家の者に怒られた事が一度もありませんの。
例え私が悪くても、お父様もお母様もお兄様も…使用人だって、私は悪くないと言いましたわ。
手に入らない物などなかった…望めば、お父様達はなんだって私にくれましたわ」
遠い目で何処かを見ながら、彼女は言葉を続けた。
「大きくなっても、私はわがまま放題でした。
お茶会でも、私はとても傍若無人に振る舞っていましたわ。
そんな私を止める者は…誰もいませんでした。
だから、私はソレが間違った事だという事に気付けませんでした。
今思えば、公爵家の人間である私に逆らう令嬢なんて…居ませんのにね。」
上の人間に逆らえば、親の肩身も狭くなる。
少し我慢すれば、そんな事にはならない。だから皆何も言わずに愛想笑いをして時間を過ごす。
些細な事を気にして問題になるよりは、そうするのが自然だ。
「私が彼と出会ったのは、とあるお茶会に行った時の事でした。
そこのお家の方はお庭が自慢で、お庭の中に迷路がありましたの。
勿論そんな大掛かりな物ではなかったんですけど、小さかった私はそこで迷子になってしまって………そこで、彼と出会ったのです。」
「彼は誰なんですか?」
少し飽きてきてソワソワしているイー君に遠くに行かない様に言い含めて、念の為スー君と共に走りに行かせ、地面に座り込み、膝の上にラー君達を乗せる。
「彼は、……ガイ・シャンソン…、シャンソン侯爵家の長男です。」
「シャンソン侯爵家…」
「えぇ、ですが彼はシャンソン侯爵がメイドに手を出して出来た子供でした。普通ならば妾が産んだ子供が跡継ぎになる事はない。
ですがこの国では、よっぽどの理由が無い限り長男が家を引き継ぐのが普通です。
いくらシャンソン夫人がその後に息子を産んだとしても、ちゃんとした理由もなく跡継ぎが変えられる事はありません。……だから、シャンソン夫人は余程彼が憎かったんでしょうね。」
その常識があったから、ユーリンの親戚もユーリンを殺せなかった。
ユーリンが跡継ぎに相応しくないと判断されるまで、念の為にユーリンを生かしておく必要があった。
まぁ、そのおかげでユーリンは生き残ったんだがな。
「彼は侯爵家長男とは思えない扱いを受けていました。
服も、見た目も、庶民と変わりませんでした。
だけど彼はとても頭が良くて、そしてシャンソン侯爵家当主に必須な能力を受け継いでいた。」
「必須な能力、ですか?」
「ユーリン様は、何故同じ公爵家でありながら、ランフォード家の方が影響力が強いか…知っていますか?」
「…それは、領地の豊かさや納めている税のおかげでしょうか?」
ユーリンの言葉に、彼女は静かに首を振った。
「違いますわ。…ユーリン様は、この国の成り立ちについてどれだけ教えられていましすか?」
「成り立ち、ですか?それはまだ余り教わってないです。
僕は文字の読み書き以外の学か一切ありませんでしたから、学校で習う物と領地を回す為に必要な知識を優先的に教えられている所なんです。」
「そうなのですか……シン様は、知っておられますか?」
突然話を振られ、慌てて持っていたクッキーを隠し、頷いた。
いや、ほら朝からまだ何も食べてなかったし、馬車の運転でお腹が減ってたんだよ。ユーリンと話してるからこっち見ないと思ってたんだよ!!
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なので、あまり人目を気にしなくていいのは楽でいい。
「シンさん、これはどう動かすのですか?」
「普通の馬車とは…違いますわよね?」
イー君を連れて戻ると、二人は不思議そうに馬車を見ていた。
「あぁ、そっか。ユーリンにも見せるのは初めてか。
これはねぇ、俺が改良したんだ。ほら、馬車って普通馬だろ?だけど俺は馬とか育てられる気がしなかったんだよね。
でも、馬車が必要な事ってたまにあるからさ、馬車が必要だったんだよ、俺。でも馬がねぇしなぁって思ってたら、イー君が虎になれたじゃん?だからイー君が走れるように改良した。」
イー君は大きさを自由に変えられるから、一番走りやすい大きさになってもらって、後は馬車と連結するだけである。
勿論、俺が使うという事は道という道がない場所ばかりである。
馬車の方も強化して、中の方の改良もしたけど、実際中で座ってたことないから乗り心地はわからん。基本的に中には素材とか、極たまにスー君達が乗るくらいだ。
「一応出来る限り安全運転では行くけど、俺が呼ぶまで何があっても出てこないでね?念の為にスー君達にもついててもらうから、何かあっても大丈夫だと思う。」
「えっ!?何があってもって…シンさん!?」
ユーリンが話し始める前に扉をしめて、鍵をかける。
「イー君、準備は?」
「バッチリ~!」
「んじゃあ、行こうか」
御者台に乗り、念の為につけてある手綱を握れば、イー君が走り始めた。
道中、魔物に会ったりしたが、特に問題もなく障害物を取り除いたりしながら、馬車を走らせた。何か悲鳴が聞こえた気がしたけど、多分気のせいだと思う。言い訳をさせてもらうと正直やる事がありすぎて、後ろにまで気を回してる場合じゃなかったのだ。
「着いたぞー………って、なんでそんな疲れてるんだ?」
「僕……帰りは御者台がいいです……」
「んー…今のユーリンだと振り落とされると思うぞ?」
頑張ってくれたイー君を労りながら言えば、何故か不思議そうな顔をされた。
「んー……あ、ユーリンあっち見てみな。アレ俺達が通った跡」
「え……な、なんですかアレ」
「知能がある奴は襲ってこないんだが、馬鹿な奴は来るからなぁ。
いつもなら素通りするかスー君達にあげるんだけど、今回は急いでたからそのままにしてある」
イー君が走りやすい様に、邪魔な物は俺が全部退けた。
そのせいで魔物の死体とか色々と転がっている。
まぁ、残しても森に還っていくからいいんだけど。
「さて、じゃあ行くか。」
よろめく二人を連れて、俺は二人を連れて丘に登る。
「確かここらへんだと思うんだけど……っと、あ、アレだ」
「!!」
さっきまでよろめいていたのが嘘の様に、ソフィアが駆け出す。
「………っ、よかっ、たっ」
落ちていたネックレスを優しく拾い上げた彼女の瞳には涙が滲んでいた。
「良かったですね、ソフィアさん」
「っえぇ。お二人とも…ありがとうございます…っ」
先程迄の毅然とした姿とは違い、今は歳相応の子供の様な笑みを浮かべるソフィアさんは、ネックレスについた紫の石を優しく撫でた。
「………これは、婚約者の方から…初めて、貰った物だったんです。」
ネックレスから目を離さず、ポツリとソフィアさんが呟いた。
「…婚約者の方は今は?」
「……分かりません。彼は私の事を疎ましく思っていたので、もしかしたら私が死んで喜んでいるかもしれませんわ。嫌な女との政略結婚など嫌だ…それが彼の口癖でしたから。
ですが、それでも私は…彼が好きだったのです……とても、とても、愛していたのです。」
ポタリと、彼女の涙がネックレスへと落ちた。
「な、何があったか聞いても?」
心の安寧の為にラー君を抱きしめながら聞いた。
「…もうお気づきかもしれませんが、私はミスティラク公爵家の一人娘でしたの。」
「また公爵家か……公爵家と俺は縁が深いのかな」
ユーリンも公爵家だし、どうなってやがるよ
「また、ですか?」
「実は僕も公爵家の人間なんです。
まだ勉強中ですが、ランフォード家当主、ユーリンと申します」
「ランフォード……彼処の長男は病弱で確か療養中では……?」
「色々ありまして、今は元気です。それでは、続きを聞かせていただけますか?」
「はい。…私は一人娘で、しかもこの容姿でございましょう?
昔から父に甘やかされて生きてきました。使用人も、両親も、皆が私を褒め称えました。だから生前の私は…とても愚かな娘でした。」
「愚かな娘……ですか?」
何となく話の流れが掴めた俺とは違い、まだ分からないのかユーリンは首を傾げていた。
「えぇ、とても愚かで世界を知らない小娘でしたわ。
私、家の者に怒られた事が一度もありませんの。
例え私が悪くても、お父様もお母様もお兄様も…使用人だって、私は悪くないと言いましたわ。
手に入らない物などなかった…望めば、お父様達はなんだって私にくれましたわ」
遠い目で何処かを見ながら、彼女は言葉を続けた。
「大きくなっても、私はわがまま放題でした。
お茶会でも、私はとても傍若無人に振る舞っていましたわ。
そんな私を止める者は…誰もいませんでした。
だから、私はソレが間違った事だという事に気付けませんでした。
今思えば、公爵家の人間である私に逆らう令嬢なんて…居ませんのにね。」
上の人間に逆らえば、親の肩身も狭くなる。
少し我慢すれば、そんな事にはならない。だから皆何も言わずに愛想笑いをして時間を過ごす。
些細な事を気にして問題になるよりは、そうするのが自然だ。
「私が彼と出会ったのは、とあるお茶会に行った時の事でした。
そこのお家の方はお庭が自慢で、お庭の中に迷路がありましたの。
勿論そんな大掛かりな物ではなかったんですけど、小さかった私はそこで迷子になってしまって………そこで、彼と出会ったのです。」
「彼は誰なんですか?」
少し飽きてきてソワソワしているイー君に遠くに行かない様に言い含めて、念の為スー君と共に走りに行かせ、地面に座り込み、膝の上にラー君達を乗せる。
「彼は、……ガイ・シャンソン…、シャンソン侯爵家の長男です。」
「シャンソン侯爵家…」
「えぇ、ですが彼はシャンソン侯爵がメイドに手を出して出来た子供でした。普通ならば妾が産んだ子供が跡継ぎになる事はない。
ですがこの国では、よっぽどの理由が無い限り長男が家を引き継ぐのが普通です。
いくらシャンソン夫人がその後に息子を産んだとしても、ちゃんとした理由もなく跡継ぎが変えられる事はありません。……だから、シャンソン夫人は余程彼が憎かったんでしょうね。」
その常識があったから、ユーリンの親戚もユーリンを殺せなかった。
ユーリンが跡継ぎに相応しくないと判断されるまで、念の為にユーリンを生かしておく必要があった。
まぁ、そのおかげでユーリンは生き残ったんだがな。
「彼は侯爵家長男とは思えない扱いを受けていました。
服も、見た目も、庶民と変わりませんでした。
だけど彼はとても頭が良くて、そしてシャンソン侯爵家当主に必須な能力を受け継いでいた。」
「必須な能力、ですか?」
「ユーリン様は、何故同じ公爵家でありながら、ランフォード家の方が影響力が強いか…知っていますか?」
「…それは、領地の豊かさや納めている税のおかげでしょうか?」
ユーリンの言葉に、彼女は静かに首を振った。
「違いますわ。…ユーリン様は、この国の成り立ちについてどれだけ教えられていましすか?」
「成り立ち、ですか?それはまだ余り教わってないです。
僕は文字の読み書き以外の学か一切ありませんでしたから、学校で習う物と領地を回す為に必要な知識を優先的に教えられている所なんです。」
「そうなのですか……シン様は、知っておられますか?」
突然話を振られ、慌てて持っていたクッキーを隠し、頷いた。
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