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異変は突然に
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あの日、俺は錬金術の可能性を探っていた。
等価交換が必要となる錬金術。錬金結果を変えずに等価を何か簡単な物と変えれないだろうかと、ふと思ったんだ。
高価な物は庶民には揃えづらい。身近な物で代用出来たら楽だと思ったんだ。………まぁ、まず錬金術を持つ人間がどれくらいいるのかすら分からないが。
「…主人」
「んー?どうしたのラー君」
ポヨポヨと跳ねて、胡座をかいていた俺の足の中にすっぽりと収まるラー君。
ラー君は、とても聞き分けのいい子というか、余り自己主張をしない子だ。
だから俺が何かしている時は終わるまでジッと待ってるし、誰かに横入りされても何も言わずにジッと待っている。
一時期は、それでストレスが溜まったりしてないだろうかと心配して、様子を窺っていたけど、元の性格なのかマイペースに快適に過ごしているようでホッとした。
「……おでかけ…次、いつ?」
「お外行きたい?」
頷くようにプルンっと体を震わせたラー君を見て、周期が来たのだと理解した。机の上を適当に片付けて、ラー君を抱き上げる。
「スー君何処ー?」
「ここ!」
「今回はスー君がユーリンについていてあげてくれる?少し、森にこもるから。
ついでに、イー君も少しガス抜きさせたいんだ。」
「わかった!」
「ありがとうスー君。一応これ渡しとくから、何かあったら連絡してね。
ユーリンにはジンの所に泊まるように言っておいて。」
緊急連絡用のスマホを渡して、ローブを羽織りスライム達を連れて外に出た。
「ピクニックなら何処がいいかなぁ。」
ラー君を抱きしめたまま、人気がない獣道を歩く。
ラー君の周期の時は、いつものんびりピクニックしたり、お昼寝したりとのんびり過ごす事が多い。
「主人、アレ何ぃ~?」
「ん?何が…………何だありゃ」
イー君が触手で指さした先には丘があった。ここまでは普通だ。
だけど、何故かその丘は光っていて、その中心には人影のような物が見えた。
「ちょっとだけ見てくるか。」
一応姿を消して丘へ向かうと、徐々に光は消えていき、丘につく頃には完全に光が消えていた。人影があった筈なのに、丘には誰もいなかった。
「何だったんだ?………ん?何だこれ」
謎な現象に首を傾げていると、キラリと何かが光ったのが見えた。
そこには紅い石と共にアクセサリーが無造作に置かれていた。
供えている風ではなく、落としたかのように少し距離をおいて置かれたアクセサリー達。
「あっ!ラー君!あそこ気持ちよさそうだよ」
その後ラー君が満足するまで日向ぼっこをしたり、イー君とおいかけっこしたりしたんだけど………
「あれ?俺持って帰ったっけ?」
見つけたのは覚えているけど、空間に投げ入れた記憶がまったくない。
だけど、俺の記憶力は余りあてにならないしなぁ
「シンさん…嘆きの丘がどういう所かはわかってますか…?」
「どういう所か?んー…いい感じのお昼寝スポット…?」
「…嘆きの丘は死者の魂が眠る場所で、そこで見つけたアクセサリー等は触ってはいけないんです」
「え、なんで」
「死者の思いが込められていると言われていて、触ると魅入られてしまう事があるそうです。だから嘆きの丘に高ランク以外の者が近付くのは誰かを埋葬する時だけなんです」
急にオカルト的な話になり、思わず眉間にシワがよる。
「待て待て…だけど、俺触ってないよ?触ってたのはあの人影…………あれ?もしかしてあれお化け?ゴースト?…幽霊さん……?」
「恐らくは…」
「ギャアアアアアアアア!!!どうしよう!見ちゃったよ!どうしよう!!俺今日トイレ行けない、後ろ振り向けない!後ろ見てにっこりこんにちはなんてしたら死ぬしかないじゃん…っ!!」
そう、俺は昔からオカルトが大の苦手だった。
苦手な癖に某掲示板でオカルト版を見ていた。勿論チビりそうになりながら半泣きで見ていた。怖いけど見たいのだ、仕方ないだろう。
だけど、他人の話を見るのと自分が経験するのは話が全く違う訳で…しかも入れた覚えのない物が入ってるって、呪いの人形展開で俺死なないけど死にそう。
頼むから、本当に居るとしてもお布団の聖域だけは守って。
お布団に入ってこられたら、俺はもう寝れなくなる。
あそこは聖域だから、安心安全ゾーンだから!!!
「シンさんゴースト苦手なんですか?」
「苦手じゃない!無理なんだ!!!ユーリン考えてみて!?
聖域である布団で寝てたら突然足を掴まれるんだぞ!?お風呂で髪洗ってたら後ろに立たれるんだぞ!?相手は攻撃できるのにこっちは何もできない理不尽な存在なんだぞ!!?平気な訳あるか!!」
ハァハァと息を荒くしながら捲し立てると、ユーリンはキョトンとした顔で此方を見ていた。
「シンさん、大丈夫です。もしもゴーストが来ても僕が代わりに退治します。
それにいくらゴーストでも、この空間に干渉はできないと思うので、シンさんが招き入れない限りはシンさんの聖域も守られます」
だから安心してくださいとユーリンが微笑む。
「ぜっっっっったい招き入れない!!!!!」
「それと、嘆きの丘には余り近づかない方がいいですね。もしも近付くなら魔除けを持っていた方がいいと思います」
「よーしっ!作ろう!完璧なお守りを作ろー!!」
手を上げて早速作業に入ろうとしていると、クイッと服が引っ張られた。
「ん?スー君どうしたの?」
「アレ、どうする?」
「…………忘れてた……っ!!」
別の問題に気を取られていたせいで、最初の問題の事をすっかり忘れていた。
「どうしようかなぁ。消せない訳じゃないけど………何か必死に嫌がってるよなぁ?」
消せない訳じゃないけどと言った瞬間、大人しく揺れていた炎の勢いが強まり、止めてくれと言わんばかりに暴れ始めた。
「そもそもなんでこっちの言葉を理解してるんだ?」
調べてみたけど、成長促進剤(失敗作)にも石にも意志がやどりそうな要因は無かった。
「意思疎通はかれなきゃ、聞けないしなぁ」
どうしようかなぁ、と考えているとクイクイと服が引っ張られた。
「ん?どうしたの?イー君」
そこには部屋の外にいたイー君の姿があった。
「これは~?」
「あ、確かにこれならいけるかも」
イー君が持ってきたのは、一つの瓶だった。中にはキラキラと光る砂が入っている。
「それ何ですか?」
「んー、まぁ見てればわかる。」
俺はシールドを解き、瓶の砂をガッと掴み、ユラユラ燃える炎に向かってぶん投げた。
「そんなに時間はかからないと思うけど……そもそも効くのか?」
「何か苦しんでるみたいだけど…大丈夫かな?」
「そんな変な物は入ってないんだけどなぁ」
少しの間ジタバタと暴れる炎を眺めていたが、余りに暇だったのとお腹が減っていた事に気付いたから、途中から昨日作った卵焼きをモソモソと食べていた。
「…………………ぁ、……が……」
「シンさん、何か言おうとしてますよ?」
「んぁ?まじ?」
スー君達にご飯をあげていると、ユーリンが声をかけてきた。
顔をあげると、人の形を取った炎がそこにあった。
「話せる?言葉わかりそ?」
「ぁ…………は、ぃ。わ、かりますわ。」
「なら良かった。それじゃあ一番大事な質問するね。貴方ゴースト?お化け?幽霊?」
「…皆様から見たら…多分そうだと思いますわ」
「ノォオオオオオオオオオオオオ!!!!」
出来れば本当でもNOだと言ってほしかった。
あぁいうのはフィクションだからいいのだ、現実に起こるのはNGなんだ。
「それでは、やはり嘆きの丘からシンさんに着いて来たのですか?」
「着いてきたというか、気付けばここに居たという方が正しいかもしれません。」
スー君達を掻き集めて、ギューギュー抱きしめて震えるしかない俺からしたら、何故幽霊相手に普通に接せるのかユーリンに問いつめたくて仕方がない。
「何処まで覚えているのか、聞いてもよろしいでしょうか?」
「生前、そして死んだ時の記憶は鮮明に覚えています。
ですが、死んだ後の事は何処か夢現で、余り覚えていませんの。………あ、でもあの丘で…私、誰かと話しましたわ」
「話した、ですか?」
「えぇ。よく覚えてはいないのですが、僕がいかせてあげると言われた事だけは覚えてますわ」
いかせてあげるって何?逝くの方?行くの方?それともイクの方?物によっては色々危ないんですが!!!
「それで気づいたらこうなっていたという事でよろしいでしょうか?」
「えぇ。」
「基本的に、人は死ぬとあの丘で眠りにつき、転生の時を待つと言われています。夢現と言っていましたが、多分貴方もあの丘で眠りについていたのだと思います。それが誰かの手によって起こされてしまったのでしょう。」
ん?ユーリン?なんでそこで俺を見た??
「1個言っておくと、俺はあそこで確かに人影を見たが、それ以外は何も見てないし、アクセサリーも触ってない!!」
「アクセサリー……?」
「何か思い出しましたか?」
「私、とても大事にしていたネックレスがありましたの。私を愛してくれた方から貰った物で…」
「シンさん、アクセサリーの中にネックレスはありましたか?」
「ネックレスって、紫と青の小ぶりの石みたいなのがついたのかな?それなら見たよ。触らなかったけど」
他にも金になりそうなのが落ちていたが、お金に困ってない俺からしたらそれよりもラー君のお昼寝スポットを見つける事のほうが大事だったのだ。
「!?それです。それは今どこに…っ」
「盗られてなければ、あの丘にあると思うけど…」
そう言うと、人形の炎が動き始めた。
「ちょっ!待って下さい!どうやって丘に行こうとしてるんですか!?」
「浮かんで……あら?何で浮けないのかしら?」
「多分だけど、今の貴方は幽霊の時に出来た事が出来なくなってると思う。何がどう作用したのかは、じっくり見てみないとわからないけど、今の貴方は実態がある事になってる。だからこちらに干渉出来る」
嫌だったけど、調べましたとも。
とは言ってもわかった事はそんなになかったから、あくまでも俺の予想だけどね。
「転移もテレポートも貴方にどう作用するか分からないから、使えない。
だから馬車とかで行くしかないんだけど、その姿じゃ目立って仕方がないんですよねぇ」
馬車の1台や2台は普通にあるけど、普通に目立つ。
どう作用するかわからない内は、無闇矢鱈に魔法も使えないし。
「それじゃあ、どうしたら……っ」
「取りあえず丘に行くまで少しでも弱火になってればいいんですよ。
生前魔法を使った事はありますか?」
「基礎魔法くらいですが、多少は使えますわ」
「それじゃあ、魔力をコントロールする時の感覚を思い出して下さい。
身体強化の魔法を使う時は魔力を薄く身に纏いますよね?」
「はい」
「身体強化を使う時のように、魔力を薄い膜にして体を覆ってください。
膜は薄ければ薄い程いいですが、負担になる様でしたら出来る限りで大丈夫です。」
俺が言った事を実行してくれたのか、炎がどんどん小さくなり、小柄な女性のシルエットが見えるまでになった。
「これくらいなら、多分そんなに目立たずに行けますね。
って事で今から嘆きの丘に行くけどユーリンはどうする?暇だったら来る?」
「行きます!」
「OK。それじゃあ……名前聞いてもいいですか?」
「私は、ソフィア・ミスティラクと申します。貴方様達のお名前も伺ってよろしいかしら?」
「俺はシン、こっちはユーリン。んで、こっちにいるのが俺の家族のスライム君達です。じゃあ、改めてよろしく。ミスティラクさん」
「ソフィアで大丈夫ですわ、シン様。こちらこそ、よろしくお願いします。」
「俺も、シンでいいよ。んじゃ、準備しよっか。スー君、何人か連れて馬車の整備してきて。ラー君はユーリンとソフィアさんに着いて、準備が出来たら馬車に案内して。イー君は俺と来て」
指示を出して、俺は部屋を後にした。
等価交換が必要となる錬金術。錬金結果を変えずに等価を何か簡単な物と変えれないだろうかと、ふと思ったんだ。
高価な物は庶民には揃えづらい。身近な物で代用出来たら楽だと思ったんだ。………まぁ、まず錬金術を持つ人間がどれくらいいるのかすら分からないが。
「…主人」
「んー?どうしたのラー君」
ポヨポヨと跳ねて、胡座をかいていた俺の足の中にすっぽりと収まるラー君。
ラー君は、とても聞き分けのいい子というか、余り自己主張をしない子だ。
だから俺が何かしている時は終わるまでジッと待ってるし、誰かに横入りされても何も言わずにジッと待っている。
一時期は、それでストレスが溜まったりしてないだろうかと心配して、様子を窺っていたけど、元の性格なのかマイペースに快適に過ごしているようでホッとした。
「……おでかけ…次、いつ?」
「お外行きたい?」
頷くようにプルンっと体を震わせたラー君を見て、周期が来たのだと理解した。机の上を適当に片付けて、ラー君を抱き上げる。
「スー君何処ー?」
「ここ!」
「今回はスー君がユーリンについていてあげてくれる?少し、森にこもるから。
ついでに、イー君も少しガス抜きさせたいんだ。」
「わかった!」
「ありがとうスー君。一応これ渡しとくから、何かあったら連絡してね。
ユーリンにはジンの所に泊まるように言っておいて。」
緊急連絡用のスマホを渡して、ローブを羽織りスライム達を連れて外に出た。
「ピクニックなら何処がいいかなぁ。」
ラー君を抱きしめたまま、人気がない獣道を歩く。
ラー君の周期の時は、いつものんびりピクニックしたり、お昼寝したりとのんびり過ごす事が多い。
「主人、アレ何ぃ~?」
「ん?何が…………何だありゃ」
イー君が触手で指さした先には丘があった。ここまでは普通だ。
だけど、何故かその丘は光っていて、その中心には人影のような物が見えた。
「ちょっとだけ見てくるか。」
一応姿を消して丘へ向かうと、徐々に光は消えていき、丘につく頃には完全に光が消えていた。人影があった筈なのに、丘には誰もいなかった。
「何だったんだ?………ん?何だこれ」
謎な現象に首を傾げていると、キラリと何かが光ったのが見えた。
そこには紅い石と共にアクセサリーが無造作に置かれていた。
供えている風ではなく、落としたかのように少し距離をおいて置かれたアクセサリー達。
「あっ!ラー君!あそこ気持ちよさそうだよ」
その後ラー君が満足するまで日向ぼっこをしたり、イー君とおいかけっこしたりしたんだけど………
「あれ?俺持って帰ったっけ?」
見つけたのは覚えているけど、空間に投げ入れた記憶がまったくない。
だけど、俺の記憶力は余りあてにならないしなぁ
「シンさん…嘆きの丘がどういう所かはわかってますか…?」
「どういう所か?んー…いい感じのお昼寝スポット…?」
「…嘆きの丘は死者の魂が眠る場所で、そこで見つけたアクセサリー等は触ってはいけないんです」
「え、なんで」
「死者の思いが込められていると言われていて、触ると魅入られてしまう事があるそうです。だから嘆きの丘に高ランク以外の者が近付くのは誰かを埋葬する時だけなんです」
急にオカルト的な話になり、思わず眉間にシワがよる。
「待て待て…だけど、俺触ってないよ?触ってたのはあの人影…………あれ?もしかしてあれお化け?ゴースト?…幽霊さん……?」
「恐らくは…」
「ギャアアアアアアアア!!!どうしよう!見ちゃったよ!どうしよう!!俺今日トイレ行けない、後ろ振り向けない!後ろ見てにっこりこんにちはなんてしたら死ぬしかないじゃん…っ!!」
そう、俺は昔からオカルトが大の苦手だった。
苦手な癖に某掲示板でオカルト版を見ていた。勿論チビりそうになりながら半泣きで見ていた。怖いけど見たいのだ、仕方ないだろう。
だけど、他人の話を見るのと自分が経験するのは話が全く違う訳で…しかも入れた覚えのない物が入ってるって、呪いの人形展開で俺死なないけど死にそう。
頼むから、本当に居るとしてもお布団の聖域だけは守って。
お布団に入ってこられたら、俺はもう寝れなくなる。
あそこは聖域だから、安心安全ゾーンだから!!!
「シンさんゴースト苦手なんですか?」
「苦手じゃない!無理なんだ!!!ユーリン考えてみて!?
聖域である布団で寝てたら突然足を掴まれるんだぞ!?お風呂で髪洗ってたら後ろに立たれるんだぞ!?相手は攻撃できるのにこっちは何もできない理不尽な存在なんだぞ!!?平気な訳あるか!!」
ハァハァと息を荒くしながら捲し立てると、ユーリンはキョトンとした顔で此方を見ていた。
「シンさん、大丈夫です。もしもゴーストが来ても僕が代わりに退治します。
それにいくらゴーストでも、この空間に干渉はできないと思うので、シンさんが招き入れない限りはシンさんの聖域も守られます」
だから安心してくださいとユーリンが微笑む。
「ぜっっっっったい招き入れない!!!!!」
「それと、嘆きの丘には余り近づかない方がいいですね。もしも近付くなら魔除けを持っていた方がいいと思います」
「よーしっ!作ろう!完璧なお守りを作ろー!!」
手を上げて早速作業に入ろうとしていると、クイッと服が引っ張られた。
「ん?スー君どうしたの?」
「アレ、どうする?」
「…………忘れてた……っ!!」
別の問題に気を取られていたせいで、最初の問題の事をすっかり忘れていた。
「どうしようかなぁ。消せない訳じゃないけど………何か必死に嫌がってるよなぁ?」
消せない訳じゃないけどと言った瞬間、大人しく揺れていた炎の勢いが強まり、止めてくれと言わんばかりに暴れ始めた。
「そもそもなんでこっちの言葉を理解してるんだ?」
調べてみたけど、成長促進剤(失敗作)にも石にも意志がやどりそうな要因は無かった。
「意思疎通はかれなきゃ、聞けないしなぁ」
どうしようかなぁ、と考えているとクイクイと服が引っ張られた。
「ん?どうしたの?イー君」
そこには部屋の外にいたイー君の姿があった。
「これは~?」
「あ、確かにこれならいけるかも」
イー君が持ってきたのは、一つの瓶だった。中にはキラキラと光る砂が入っている。
「それ何ですか?」
「んー、まぁ見てればわかる。」
俺はシールドを解き、瓶の砂をガッと掴み、ユラユラ燃える炎に向かってぶん投げた。
「そんなに時間はかからないと思うけど……そもそも効くのか?」
「何か苦しんでるみたいだけど…大丈夫かな?」
「そんな変な物は入ってないんだけどなぁ」
少しの間ジタバタと暴れる炎を眺めていたが、余りに暇だったのとお腹が減っていた事に気付いたから、途中から昨日作った卵焼きをモソモソと食べていた。
「…………………ぁ、……が……」
「シンさん、何か言おうとしてますよ?」
「んぁ?まじ?」
スー君達にご飯をあげていると、ユーリンが声をかけてきた。
顔をあげると、人の形を取った炎がそこにあった。
「話せる?言葉わかりそ?」
「ぁ…………は、ぃ。わ、かりますわ。」
「なら良かった。それじゃあ一番大事な質問するね。貴方ゴースト?お化け?幽霊?」
「…皆様から見たら…多分そうだと思いますわ」
「ノォオオオオオオオオオオオオ!!!!」
出来れば本当でもNOだと言ってほしかった。
あぁいうのはフィクションだからいいのだ、現実に起こるのはNGなんだ。
「それでは、やはり嘆きの丘からシンさんに着いて来たのですか?」
「着いてきたというか、気付けばここに居たという方が正しいかもしれません。」
スー君達を掻き集めて、ギューギュー抱きしめて震えるしかない俺からしたら、何故幽霊相手に普通に接せるのかユーリンに問いつめたくて仕方がない。
「何処まで覚えているのか、聞いてもよろしいでしょうか?」
「生前、そして死んだ時の記憶は鮮明に覚えています。
ですが、死んだ後の事は何処か夢現で、余り覚えていませんの。………あ、でもあの丘で…私、誰かと話しましたわ」
「話した、ですか?」
「えぇ。よく覚えてはいないのですが、僕がいかせてあげると言われた事だけは覚えてますわ」
いかせてあげるって何?逝くの方?行くの方?それともイクの方?物によっては色々危ないんですが!!!
「それで気づいたらこうなっていたという事でよろしいでしょうか?」
「えぇ。」
「基本的に、人は死ぬとあの丘で眠りにつき、転生の時を待つと言われています。夢現と言っていましたが、多分貴方もあの丘で眠りについていたのだと思います。それが誰かの手によって起こされてしまったのでしょう。」
ん?ユーリン?なんでそこで俺を見た??
「1個言っておくと、俺はあそこで確かに人影を見たが、それ以外は何も見てないし、アクセサリーも触ってない!!」
「アクセサリー……?」
「何か思い出しましたか?」
「私、とても大事にしていたネックレスがありましたの。私を愛してくれた方から貰った物で…」
「シンさん、アクセサリーの中にネックレスはありましたか?」
「ネックレスって、紫と青の小ぶりの石みたいなのがついたのかな?それなら見たよ。触らなかったけど」
他にも金になりそうなのが落ちていたが、お金に困ってない俺からしたらそれよりもラー君のお昼寝スポットを見つける事のほうが大事だったのだ。
「!?それです。それは今どこに…っ」
「盗られてなければ、あの丘にあると思うけど…」
そう言うと、人形の炎が動き始めた。
「ちょっ!待って下さい!どうやって丘に行こうとしてるんですか!?」
「浮かんで……あら?何で浮けないのかしら?」
「多分だけど、今の貴方は幽霊の時に出来た事が出来なくなってると思う。何がどう作用したのかは、じっくり見てみないとわからないけど、今の貴方は実態がある事になってる。だからこちらに干渉出来る」
嫌だったけど、調べましたとも。
とは言ってもわかった事はそんなになかったから、あくまでも俺の予想だけどね。
「転移もテレポートも貴方にどう作用するか分からないから、使えない。
だから馬車とかで行くしかないんだけど、その姿じゃ目立って仕方がないんですよねぇ」
馬車の1台や2台は普通にあるけど、普通に目立つ。
どう作用するかわからない内は、無闇矢鱈に魔法も使えないし。
「それじゃあ、どうしたら……っ」
「取りあえず丘に行くまで少しでも弱火になってればいいんですよ。
生前魔法を使った事はありますか?」
「基礎魔法くらいですが、多少は使えますわ」
「それじゃあ、魔力をコントロールする時の感覚を思い出して下さい。
身体強化の魔法を使う時は魔力を薄く身に纏いますよね?」
「はい」
「身体強化を使う時のように、魔力を薄い膜にして体を覆ってください。
膜は薄ければ薄い程いいですが、負担になる様でしたら出来る限りで大丈夫です。」
俺が言った事を実行してくれたのか、炎がどんどん小さくなり、小柄な女性のシルエットが見えるまでになった。
「これくらいなら、多分そんなに目立たずに行けますね。
って事で今から嘆きの丘に行くけどユーリンはどうする?暇だったら来る?」
「行きます!」
「OK。それじゃあ……名前聞いてもいいですか?」
「私は、ソフィア・ミスティラクと申します。貴方様達のお名前も伺ってよろしいかしら?」
「俺はシン、こっちはユーリン。んで、こっちにいるのが俺の家族のスライム君達です。じゃあ、改めてよろしく。ミスティラクさん」
「ソフィアで大丈夫ですわ、シン様。こちらこそ、よろしくお願いします。」
「俺も、シンでいいよ。んじゃ、準備しよっか。スー君、何人か連れて馬車の整備してきて。ラー君はユーリンとソフィアさんに着いて、準備が出来たら馬車に案内して。イー君は俺と来て」
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