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ある日森の中で

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 そろそろ期限の一ヶ月である。
その間にユーリンはどうにか1発当てられるようになったので、レベルアップさせてまた戦いに戻している。

「スー君達行くよ」

 今日は中では、ラー君が相手をしている。
手加減はしないとは思うが、ラー君も中々クセがあるから戦いづらいだろう。
イー君に慣れた後なら尚更だ。

 ローブを羽織りギルド近くに転移して、扉をくぐれば何故かいつもよりも人が多くて、思わず扉を閉めた。
気配を消していても俺には丸わかりである。
何故イケメンと美女が増えているのかはわからんが、今とてつもなく帰りたい。

「よし、花占いで決めよう「シン、皆お前待ちだ」人が多すぎる」

 花占いをする前におっちゃんが出てきてしまい、花占いを諦めて不満を言えば気配を隠している美女達が驚いたのがわかった。

「俺は、結果を聞きに来ただけだ。結果を話すだけならこんなに人はいらないだろ。何なの、俺に対しての嫌がらせなの?それなら成功だよ。今泣きたいもん」

 捲し立てるように言えば、スー君が主人大丈夫?と言いながら俺のほっぺたを触手で撫でる

「勝手に人を増やしてすまない。だが、この件を進めるに当たって、どうしても必要なのだ。どうか受け入れてくれないだろうか」
「俺をガン見しない、触らない、近寄らない、これ最低条件。
因みに知らないかもだから言っておくけど、俺に敵意向けた瞬間…お前らの首が飛ぶぞ」

 勿論言わずもがな、スー君達の手によってだが。
だが、脅しは聞いたようで気配を消していた二人が出てきた。
俺は話ができる限界の位置まで椅子をずり下げ、膝にはスー君を、頭にはイー君を、そして足元には可愛いスライム達を設置して、三人の方を見た。

「私はこの国の王太子である、セルゲイルだ。
話はライントから聞いたが、君の口からも聞きたい、良いだろうか?」
「又聞きだと、誤解が生まれてる可能性もあるから、それは大丈夫です。
聞きたい事を聞いていただければ答えますよ」

 上の人間が来るとは思っていたが、まさかの王太子が出てきてポーカーフェイス装ってるけど全然平気じゃない。既に胃がキリキリしている。

「ありがとう。それでは、まず子供の事だ。君が書いた起こり得る未来のシミュレーションも見させてもらったが、これは事実だろうか」
「俺が居ない場合、起こり得る事実です。
今のユーリンは知っての通り子供です。それも虐待され、捨てられた子供。
故に、子供の頃育つ筈だった物が全く育っていない。この意味が王太子様は分かりますか?」
「………善悪の区別がついてないと…君は言いたいのかい?」
「えぇ、そうです。」

 これは一緒に暮らしていてわかった事だった。
俺は本を渡す時、わかり易い絵本から専門書まで幅広い物をユーリンに渡していた。
そして、ある時ユーリンが言ったのだ。
【どうして人を使った魔法は使っちゃ駄目なの?】
【どうして人を殺したら駄目なの?】
【嫌いなら殺しても、痛めつけてもいいんでしょ?】
【だって皆僕にはそうしたよ?なのに、なんで駄目なの?】
心底わからないと言いたげな顔で、ユーリンは言った。
駄目だと言えば、それじゃあ何故ユーリンには許されたのかという話になってしまう。
 ユーリンにとって日常だった物が実は非日常であり、許されない事であるという事を教えなきゃいけない。
そして、その前にユーリンに感情をちゃんと教えなければいけない。
俺への執着だけではなく、普通の物もだ。
その為には、学校に入れてる場合ではないのだ。

「ユーリンには、悪い事がわからない。
何故人を殺したら罪になるかが分からない。
人を痛めつけるのが、どうして駄目なのかわからないんです。」
「そ、んな………っ、でもそれは駄目だと教えればいいではありませんか…っ」
「俺も最初はそう思いましたよ。
だけどそうなると次は、じゃあどうしてユーリンがそうされていても許されたのかという話になります。
ユーリンはそう簡単には死にません。故に、通常よりも酷い仕打ちをされていた。
ユーリンにするのは良くてどうして他人は駄目なのか、どうしてユーリンだけがしてもいい人間なのか、ソレを貴方は答えられますか?」

 見知らぬ美女に問いかければ、美女は口を噤む。
綺麗事なんていくらでも吐ける。だけど、吐いた所でユーリンが救われる訳でも無ければ、ユーリンが納得する訳でもないし、ましてやユーリンが魔力を制御出来る訳でもない。

「今のユーリンを学校に入れるという事は、殺人鬼を学校に入れると同義なんですよ。
別に俺はユーリンが人を殺そうと構わないんですよ。だって、俺にとっては見知らぬ赤の他人でどうでもいい人間ですから。
だけど、貴方達はそうではないでしょう?だから俺は言ったんです。ユーリンを学校には入れないと。」

 それだけではないが、大きくまとめるとそうだし、言わなきゃバレないだろう

「最初に伝えてもらった通り、ユーリンが学校に入るという事は俺の管理下から外れるという事です。学校で何が起きようと、俺は何もしません。
おっちゃんとそこの人は知ってますが、俺は人混みというのが受け付けないんですよ。例えそこで大量に人が死のうと、俺には関係ない事ですし、俺が無理してまで行く理由にはなりません。だから、どうするか決めてほしいのです。
それでもユーリンをなんの対策もせずに入学させるのか、対策をして入学させるのか、はたまた免除してくれるのか。」

 ニッコリと微笑みながら言えば、ビクッと美女が跳ねた。

「君の言いたい事は理解した。
それを踏まえた上で聞こう、もしも私達が君の案を受け入れた場合、君はどう動くつもりだ?」
「受け入れてもらえたら、今までと同じ暮らしをするだけですよ。
あぁ、ユーリンを育てるのが増えるくらいですかね。」
「もしも、そのユーリンという子供が君と引き離された場合…何が起こる?」

 流石王太子という所だろうか。
今彼は、最悪を予想しているのだろう。
もし王太子が俺の案をのんでも、馬鹿は現れる。
その時もしもユーリンが攫われたら、俺から離されたらどうなるか、そう聞いているのだろう。

「未来はわかりませんが、ユーリンは俺に執着しています。
俺が何も言わずに隣の部屋に行っただけで、魔力が暴走し始める。
俺が居れば、戻っておさめて終わりですが……もしも、俺の知らぬ間にユーリンが連れて行かれた場合、お渡しした被害の倍は覚悟した方がいいですね。」

 独りを嫌がるユーリンの傍に、今は常に誰かをつけている。
もしもユーリンが暴走した場合、すぐに俺に伝わる様にだ。
それにスー君達の様に進化したスライムなら、魔力を吸う事で俺が来るまで凌ぐ事もできる。

「そしてもしもそれが起きたのが俺が制御を教え終わった後なら、きっとユーリンを連れて行った人間は一族もろとも殺されているでしょう。
ユーリンを俺から離すという事は、そういう事です。」

 俺の言葉に全員が息を呑む。
ユーリンは見た目が天使だから、そんな子供には見えなかったのだろうか?
俺にとってはそう意外な事ではなかった。俺に懐くなんてどっかぶっとんでなきゃありえない。

「最初は俺も引き取る気なんてなかったんですけどね、俺の家族が気に入っちゃったんで仕方ないです。
俺、基本的に周りに興味がないんで、周りが何してようとどうでもいいんですけど、家族が悲しむのだけは……絶対に許せないんです。俺の言いたい事……わかりますよね?」

 きっとユーリンが居なくなったらラー君が悲しむ。
ラー君にとって、優先順位のトップに立つのは俺だ。
だから俺がユーリンを切り捨てるといえば、ラー君は悲しむけれど従うだろう。だけど、ユーリンはラー君に初めて出来た友達でもある。
可愛い家族を悲しませない為に、俺ができる事はやってやりたい。

「別にね、俺は国を寄越せとか大金を寄越せとか、そういう事を言うつもりはないんです。
そんな物に興味は無いし、俺はただひっそりと此処で採取依頼受けながら暮らしていけたらいい。元々SSSランクにだってなる気はなかったし。
けど、いつもお世話になってるおっちゃんが困ってたからあんた等の願い通りランク試験だって受けた。
依頼を受けてるのだって俺がやりたい事のついでに、こなしてるに過ぎない。」

 俺は目立ちたくない。
主役なんてなりたくない、俺はモブでいい。
それなのに、勇者になんてなっちまったせいで、勝手にステージに引っ張り上げられた。
 だが、俺はステージの真ん中に立つのを望まない。

「きっと王太子である貴方には分からないと思うけど、俺は誰かに注目されたいと思わない。寧ろ注目なんてしないでほしいと思ってるし、俺の事なんて忘れて欲しいとも思ってる。
だからね、きっと貴方達は俺を上に、…ステージの上に引っ張り出そうとするだろうけど、俺はそれをされたくない。
王様は…あの短い間で俺を理解してくれたから何も言わなかったけど、貴方達は違うみたいだから言っとくね。
俺の生き方を自分達のエゴで変えようとしないでくれ。
邪魔をされたら俺は……あんた達を消さなきゃいけなくなる」

 王様は俺と話した時、言わなかった、しなかった。
しようと思えば出来たのに、何もせず、ただ理解し、こんな俺に配慮をしてくれた。
だから、俺はその優しさのお返しにいくつかおっちゃんを通さずに依頼を受けていた。王様と直通の魔法陣を作って渡すくらいには、あの王様が気に入っている。
 それはあの王様が、死んでしまった俺の爺ちゃんに似てるからかもしれない。俺を唯一理解し、認めてくれた爺ちゃんに。

「あんた達が来るって事は、まだ王様帰ってきてないんでしょ?
いいよ、王様が帰ってくるまで答えはおあずけで。
それじゃあ王太子様、王様に帰ったらいつもの所でって伝えておいて」

 これ以上話しても、きっとお互い理解なんて出来ないだろうと思い、俺は家に帰った。
他人を理解する事は難しい。それが、自分と対局にいる人間なら尚更だ。
だが知らない事と、知った上で分からない事は全く違う。
彼らは知ろうとすらしていない側の人間だ。
どれだけ話した所で、彼らは俺の事もユーリンの事も理解が出来ない。

「………スー君、俺ちょっと寝るから、ユーリン達が帰ってきたら起こしてくれる?」
「任せて!主人、ゆっくり休む」

 ソファーに倒れ込んだ俺に、スー君達がタオルケットをかけてくれる。

「ありがとう………ごめん、任せた…」

 疲れからか、俺はあっという間に眠りに落ちた。

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