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ある日森の中で
ライント・シュアルツの苦悩 ②
しおりを挟むそれはダグさんからの連絡から始まった。
シンが子供を拾ったという、しかも虐待痕跡があり魔力量が多いという。
シンに関する事は俺に一任されていたから、緊急の事だけを済ませて、俺は王都を出た。
そしてそこで知ったユーリンの魔力量。
確かにそれだけの魔力が持つ者が暴走を起こせば、確実に死人が出る。
シンが心配している事は、普通の事だった。
だが、俺には勝手に承諾する権力がない。
故に城へ持ち帰ったのだが……
「便宜をはかれとはどういう事だ。学校に通うのは義務だ。たかが冒険者が拾った子供に例外を与えるつもりはない」
「ですが、彼の魔力量はっ「うるさい!私が却下すると決めたら却下なのだ。さっさと退出しろ」……っ」
上流貴族であり、俺より上の立場の人間にそう言われては、俺も退出するしかない。
いくら俺がSSSランクで王に顔を覚えられていても、所詮は伯爵家の3男だ。そんな俺が何度書類をあげても、直談判しても、危険性を理解してもらう事はできなかった。
そして、期限が来てしまい、俺は自分でも不服の結果を彼に伝える事になった。
その結果起きた事といえば、彼が他国へ行くかもしれないという事だけではなく、この国のギルドから手を引くということであった。
彼のランクが上がってから、この国の採取依頼は殆ど彼に頼っている。
どれだけ危険が高くてもどれだけ報酬が安くても、彼は平等に受け、最高品質を届ける。
お金に余裕があるものは最初から彼を指名するし、今となっては彼に抜けられる事で起きる損害はとても大きくなっていた。
「あの野郎、あれは本気だな」
「…彼の言いたい事はわかってます。俺自身、今回の結果に納得出来てませんから。ユーリンは爆弾の様な存在です。その存在をなんの配慮なく受け入れる事はできない………っなのに、あのハゲっ……!!」
「兄ちゃんも疲れてるな……あったかい飲み物作ってやるから、せめてそれを飲んでから帰りな」
「…っありがとうございます」
正直言えば、王が居ればこんな結果にはなってないだろう、
だが、残念な事に王は今隣国であるラスタニア帝国へ行っている。
帰りは1ヶ月後だろう…それでは間に合わない。
王に話し、対策を講じるか、彼の意見を受け入れるか決めなくてはいけない。
俺の話では、権限を持ってる人間達が言う事を聞かないだろう。
ダグさんから貰った飲み物を飲み、俺は馬を走らせて王都へと戻った。
「サラ!話がある!」
「あら、ライントが来るなんて珍しいわね」
突然来たにもかかわらず、彼女は驚いた素振りすらなく、自慢の碧髪を梳いていた。
「今、王についているSSSランクに連絡を取りたい。王に至急連絡を取りたいのだ」
「今………今は確かジェフじゃなかったかしら?あなたどうしたの?とても焦ってるみたいだけど」
「ジェフか………これを、ジェフに届けて欲しい。
君ならジェフの元まで最速で飛ばせるだろう?頼む、国に関わる事だ」
「貴方が必死なのは珍しいから手伝ってあげるわ」
1つ貸しね、と言いながら俺が渡した手紙を受け取る。
サラが杖を持ち、まるで空を舞うように踊りながら魔法陣を描いていく。
「''展開''」
ドンッと杖で床を叩いた瞬間、手紙が消えた。
「それで、ちゃぁんと話してくれるわよね?」
「あぁ」
勧められるがまま席に座り、一息つき、俺は口を開いた。
「前の定例会議で話題に出ていた人物を覚えているだろうか?」
「覚えてるわよ、確か貴方を倒してSSSランクになったのよね?」
「あぁ。サラは見てないからわからないかもしれないが、彼の実力は俺達SSSランクが束になっても敵わない。それどころか子供の相手をするかのように即全滅だ。」
「え………?それは流石に貴方の勘違いじゃなくて…?」
見てない者にはわからない彼の実力。
そしてちゃんと見ない者には、彼の怖さが伝わらない。
「サラ、使い魔を使役する場合、契約時に必須な条件を覚えているだろうか?」
「服従させ、相手よりも上の魔力を…でしょ?それくらい初等部で皆習うわ」
「それじゃあ、サラは話すスライムを見た事があるか?話し、触手を使い何でもこなし、姿を変えられるスライムを。」
「そんなスライムが居たら、即話が来てるわ!」
「…彼の使役するスライムは、言葉を話す事ができる。
自我があり、知恵があり、スライムによって固有の能力を持っている。
そんなスライムが崇拝する彼が弱いと…サラは思うかい?」
シンが何らかの方法でスライムを進化させているのか、元々変異種なのかはわからない。
だが、あのスライム達はシンを崇拝している。
謁見の時だって、シンよりも早く気づき、いつでも倒せる様に臨戦態勢に入っていた。初対面の時だって俺を値踏みしていた。知能がないといわれているスライムだが、本当に知能がないというならこんな事が出来るだろうか?
スライム達はシンに言われれば何でもするだろう。
そして、俺達はスライム達を倒す事に疲弊し、シンの相手など出来なくなる。
「…っ!?そんな話…すぐに信じられないわ…っ」
「今回、彼はある子供を拾った。その子供は魔力量が人のレベルを越えていた。そして、捨て子である子供は魔力制御の方法を教わらなかった…俺の言いたいことが、サラにはもうわかるだろ?」
「…そんな子が居たとしたら、野放しには出来ないわ…」
本来ならきっと、国の管理下におかれただろう。
もしも管理出来なければ、暴走する前に殺してしまったかもしれない。
だがそれは拾ったのが彼でなければだ。
「彼は、子供を入学させるつもりは無いから免除してほしいと言った。
制御を覚えてない子供を自分が管理できない学園に入れる気はないと。
正直言って、それは彼の言う通りだと思う。
子供の魔力量は、俺達を軽く越えている。SSSランクの俺達を越えるのだ。教師に暴走を止められるかと言われれば否だ。
俺達が呼ばれている間に、何人死人が出るかさえ分からない。
それに、彼はもしも子供を学園に入れるのなら、自分は行けないから暴走しても対処できるという案を出してほしいと、そう言ってきた。」
「彼は、どうして来られないの?子供の危険よ?すぐに駆けつけるべきではなくて?それが力の持つ者の役割でしょう」
サラはきっと、彼を理解はできないだろう。
産まれながらに力を持ち、強者は弱者を救えと言われて育った彼女は、本当の苦しみを知らない。
公爵家に産まれた彼女は、下の世界がどうなっているのかすら書類上でしか知らないのだ。
「彼は、人が嫌いなのだ。だから謁見も極少人数で行われた」
「それは彼の我儘だわ。力があるならば、それを弱き者に使うのが力を持つ者の使命よ。」
「それはサラの持論だ。彼には彼の持論がある。
それに、王は彼がそうある事を許した。そして、彼が他の国へ行かぬように便宜をはかれとも。」
サラは驚いた様に目を見開いた。
王に目をかけられている、その意味がサラには良くわかるだろう。
「だが、私の言葉は全部切り捨てられ、彼にもそう伝えるしかなかった。
そして彼から告げられたのは、1ヶ月後までに彼の案が受け入れられるか、彼が納得できる入学する際の対策を示す事だった。
それまでは、ギルドの依頼は受け付けないと。
そして、もし彼の思った答えが返って来なければ、彼は国を出てこの国の依頼は絶対に受けないと、そう言っていた」
「…彼が抜けるのはそんなに困ることなの?」
「今、彼は流通の半分以上を握っていると言っても過言ではない。
君が今飲んでる茶葉だって、採取したのは彼だ。
君のお気に入りのツキザキ草のタルトだって、採取したのは彼だ。
学者は9割が彼を頼っているし、彼が居ない1ヶ月の間でさえどれだけ問い合わせが来るかわからない。」
先の事を考えるだけで頭を抱えたくなる
「サラなら、これを見れば子供が入学したらどうなるかわかるはずだ。」
俺はそう言って彼から受け取った資料をサラに渡した。
彼が言っていた通り、資料には複数のパターンが書かれていて、そのどれも被害が甚大だった。
街一つでおさまれば運がいいとしか言えないシミュレーション。
だが、それがデマではなく本当だとわかるからこそ、どうにかしなくてはいけない。
「………っ。本当にコレが起きたら…この国は大変な事になるわ…」
「だから、王に帰って来てもらわなきゃいけないんだ。
俺の言葉では彼らに届かない。危険性も、彼が抜ける事の意味も何も伝わらない。」
「……けれど、王はすぐには帰ってこれないわ。
手紙を見てすぐ出たとしても2週間はかかるわ。
私達は王が間に合わなかった時の事を考えなければいけないわ。」
「だが、どうするんだ。俺には権力はないぞ」
「ふふ、馬鹿ね。私は公爵家の一人娘よ?ライントったら知らないの?父親はね、一人娘に甘いものよ。
私からお父様に、後婚約者である王太子、セルゲイル様は国に残ってる筈だから、お話を出来るようにお願いをしてみる」
「………っ頼む。」
「その間貴方には、彼と私達を繋ぐ役目をおってほしいの。
人嫌いだと言う言葉が本当なら、初対面の私達とは話してくれないかもしれないわ。」
「わかった。」
思わぬ協力者を得た俺は、彼と話す為に探し人の童子へと通う日々が続く事になった。
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