引きニートな俺が勇者?いや、絶対人選ミスだから!!

葉叶

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ある日森の中で

ライント・シュアルツの苦悩 ①

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 俺はシュアルツ伯爵家の3男という微妙な所に生まれた。
後継ぎのスペアもいるし、特に政略結婚が必要な訳でもない。
継ぐ爵位も無い俺は、自力で生きていく道を見つけなければいけなかった。

 そんな俺が生きていく為に選んだのは冒険者だった。
騎士は上位貴族でなければ難関で、正直言って余り現実的ではなかったのだ。
 適当に生きていく上で困らない程度に稼げればいい。そんな思いから冒険者になった俺だが、俺は冒険者をやっている内にいつの間にかSSSランクまで上りつめ、国王様にも顔を覚えられる程の大出世をした。
仕事も問題なく、毎日穏やかに生きていた…………だが、彼に会ってから俺の穏やかな日常は消えたと言ってもいい。



【2つのギルドから採取依頼が全部消えた。】
【納品されたどれもが最高品質を保っている。】
【どうやらそれは一人の人間が全部したらしい。】
 彼を最初に知ったのは、いつもの定例会議でそんな話が持ちあがった時だった。

 採取依頼は、とにかく人気がない。だがやってもらわねば困る物もある。たまに名指し指名をする事もあるが、そうすると指名料もかかる為、一般人にはとてもじゃないが払えない。

「研究塔の人間がSに上げてくれってうるせぇんだよ」
「でもこっちには来られないのよねぇ。どっちかに諦めてもらうしかないんじゃないかしら?誰か行ける人居るの?」

 多分、俺がこの時手をあげたのは純粋な好奇心だったと思う。

 シンと最初に会った時の印象は頼りない男だった。
挙動不審で、決して目は合わなかったし、スライムを連れている変わった人間だと思っていた。

 スライムは小さな子が最初に倒す魔物だ。
そんな物を使い魔にしているなんてと馬鹿にしていた自分を殴ってやりたい。
 何故なら俺はそれだけ馬鹿にしていたスライムに、何も出来ずに倒されたのだ。
 規定通りSSSランクにあげれば、人が居るのは無理だから謁見は嫌だと断る。
 王と謁見する事は1つのステータスでもある。
それを断る人間を初めて見て驚いたのは言うまでもない。
 ダグさんの提案を受け入れ、俺は取り敢えず上に判断を仰ぐ事にした。

 俺は冒険者の中では上の方に存在しているが、城の中では下っ端である。それでも、SSSランクを持つ俺は望めば王へ謁見する権利を持つ。

「顔をあげよ。それで話とはなんじゃ?」
「この度、新たにSSSランクの者が現れました。」
「ほぅ、それはめでたいのぅ」
「ですが、その者は大層人嫌いでありまして、謁見は二人きりで行いたいと。
そして、探し人の童子で受け付けをしている人間を同行させたいと…」

 周りなざわめくのが分かったが、戦った私だからわかる。
シンの強さは異常だ。あのスライムを従えている時点で規格外だ。
普通に立っているだけでも、ちゃんと見ればわかってしまった、あの底なしの力を。

「それを聞いてお主はどう思うたのじゃ?」
「陛下も会えば分かると思いますが、彼の強さは我等SSSランクが集まっても倒す事は不可能です。それどころか彼一人で国を滅ぼす事だって出来るやもしれません。今、彼の機嫌を損ねるのは最善とは思えません。
ですが、陛下と二人きりというのもまた叶えられぬ願い。
なので、私ともう一人審査官をつけるというのはどうでしょうか?」

 多分、これがこちらが譲れる限界だろう。
これでさえ、周りからはそんなのありえないという声が聞こえてくるが、きっと彼はこれでも渋る。俺がいるのを見た瞬間逃げるくらいだからな…

「ふむ、そちがそこまで言うか……。それではその様に取り計らうかのぅ。
おって沙汰を出そう」
「わかりました。」

 王に頭を下げ、部屋を出て一息つく。
次は彼にこの話を伝え、のませなければいけない。
深いため息をもらしながら、俺は探し人の童子へと向かった。



 そして、どうにか話を纏めて遂に謁見の日。
纏める際に主を倒したと分かったりとトラブルはあったが、謁見も大きな問題はなく終わってホッとしていると、王に呼び出された。

 部屋に入ると、今回はプライベートとしてなのかいつもよりもゆったりとした格好をする王の姿があった。

「ゆっくりせぇ。今はプライベートじゃ。」
「はい。」

 促されるまま席に座れば、ワイングラスが俺の前に置かれた

「お前は、あの青年をどう思う?」
「…正直言って、底が見えません。分かるのは敵に回してはいけないという事だけです。」
「それはわしも同じじゃ。じゃが、あの青年は金にも権力にも靡いてはくれぬだろう。この国に取り込むには、彼が居やすい環境を作るしかない。」
「シンは人嫌いだと言いましたが、多分彼は人を恐れている。
ダグさんには懐いている様に見えましたが、本当の意味で心を許してるのは使い魔だけでしょう。」

 見ていればわかる。シンは周りに境界線を作っている。
ダグさんは他の人間より内側にいるが、本当の意味でシンの傍には居ない。
なんの壁もなく側に居るのは、あのスライム達だけだろう。

「じゃろうなぁ。あの青年の目は、とても悲しく……そして底の見えぬ闇があった。ライント、彼の願いは出来るだけ叶えてやれ。流石に国を寄越せと言われたら無理じゃが、便宜ははかれる。わしは自由に動けん事の方が多い、じゃからわしに代わりお前が動くのじゃ。いいか、彼を手放すな」
「はい、わかりました。」

 この時、王が何を心配していたのか俺にはわからなかった。
だけど、王の心配していた事がわかるのは、すぐだった。

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