15 / 30
ある日森の中で
ライント・シュアルツの苦悩 ①
しおりを挟む俺はシュアルツ伯爵家の3男という微妙な所に生まれた。
後継ぎのスペアもいるし、特に政略結婚が必要な訳でもない。
継ぐ爵位も無い俺は、自力で生きていく道を見つけなければいけなかった。
そんな俺が生きていく為に選んだのは冒険者だった。
騎士は上位貴族でなければ難関で、正直言って余り現実的ではなかったのだ。
適当に生きていく上で困らない程度に稼げればいい。そんな思いから冒険者になった俺だが、俺は冒険者をやっている内にいつの間にかSSSランクまで上りつめ、国王様にも顔を覚えられる程の大出世をした。
仕事も問題なく、毎日穏やかに生きていた…………だが、彼に会ってから俺の穏やかな日常は消えたと言ってもいい。
【2つのギルドから採取依頼が全部消えた。】
【納品されたどれもが最高品質を保っている。】
【どうやらそれは一人の人間が全部したらしい。】
彼を最初に知ったのは、いつもの定例会議でそんな話が持ちあがった時だった。
採取依頼は、とにかく人気がない。だがやってもらわねば困る物もある。たまに名指し指名をする事もあるが、そうすると指名料もかかる為、一般人にはとてもじゃないが払えない。
「研究塔の人間がSに上げてくれってうるせぇんだよ」
「でもこっちには来られないのよねぇ。どっちかに諦めてもらうしかないんじゃないかしら?誰か行ける人居るの?」
多分、俺がこの時手をあげたのは純粋な好奇心だったと思う。
シンと最初に会った時の印象は頼りない男だった。
挙動不審で、決して目は合わなかったし、スライムを連れている変わった人間だと思っていた。
スライムは小さな子が最初に倒す魔物だ。
そんな物を使い魔にしているなんてと馬鹿にしていた自分を殴ってやりたい。
何故なら俺はそれだけ馬鹿にしていたスライムに、何も出来ずに倒されたのだ。
規定通りSSSランクにあげれば、人が居るのは無理だから謁見は嫌だと断る。
王と謁見する事は1つのステータスでもある。
それを断る人間を初めて見て驚いたのは言うまでもない。
ダグさんの提案を受け入れ、俺は取り敢えず上に判断を仰ぐ事にした。
俺は冒険者の中では上の方に存在しているが、城の中では下っ端である。それでも、SSSランクを持つ俺は望めば王へ謁見する権利を持つ。
「顔をあげよ。それで話とはなんじゃ?」
「この度、新たにSSSランクの者が現れました。」
「ほぅ、それはめでたいのぅ」
「ですが、その者は大層人嫌いでありまして、謁見は二人きりで行いたいと。
そして、探し人の童子で受け付けをしている人間を同行させたいと…」
周りなざわめくのが分かったが、戦った私だからわかる。
シンの強さは異常だ。あのスライムを従えている時点で規格外だ。
普通に立っているだけでも、ちゃんと見ればわかってしまった、あの底なしの力を。
「それを聞いてお主はどう思うたのじゃ?」
「陛下も会えば分かると思いますが、彼の強さは我等SSSランクが集まっても倒す事は不可能です。それどころか彼一人で国を滅ぼす事だって出来るやもしれません。今、彼の機嫌を損ねるのは最善とは思えません。
ですが、陛下と二人きりというのもまた叶えられぬ願い。
なので、私ともう一人審査官をつけるというのはどうでしょうか?」
多分、これがこちらが譲れる限界だろう。
これでさえ、周りからはそんなのありえないという声が聞こえてくるが、きっと彼はこれでも渋る。俺がいるのを見た瞬間逃げるくらいだからな…
「ふむ、そちがそこまで言うか……。それではその様に取り計らうかのぅ。
おって沙汰を出そう」
「わかりました。」
王に頭を下げ、部屋を出て一息つく。
次は彼にこの話を伝え、のませなければいけない。
深いため息をもらしながら、俺は探し人の童子へと向かった。
そして、どうにか話を纏めて遂に謁見の日。
纏める際に主を倒したと分かったりとトラブルはあったが、謁見も大きな問題はなく終わってホッとしていると、王に呼び出された。
部屋に入ると、今回はプライベートとしてなのかいつもよりもゆったりとした格好をする王の姿があった。
「ゆっくりせぇ。今はプライベートじゃ。」
「はい。」
促されるまま席に座れば、ワイングラスが俺の前に置かれた
「お前は、あの青年をどう思う?」
「…正直言って、底が見えません。分かるのは敵に回してはいけないという事だけです。」
「それはわしも同じじゃ。じゃが、あの青年は金にも権力にも靡いてはくれぬだろう。この国に取り込むには、彼が居やすい環境を作るしかない。」
「シンは人嫌いだと言いましたが、多分彼は人を恐れている。
ダグさんには懐いている様に見えましたが、本当の意味で心を許してるのは使い魔だけでしょう。」
見ていればわかる。シンは周りに境界線を作っている。
ダグさんは他の人間より内側にいるが、本当の意味でシンの傍には居ない。
なんの壁もなく側に居るのは、あのスライム達だけだろう。
「じゃろうなぁ。あの青年の目は、とても悲しく……そして底の見えぬ闇があった。ライント、彼の願いは出来るだけ叶えてやれ。流石に国を寄越せと言われたら無理じゃが、便宜ははかれる。わしは自由に動けん事の方が多い、じゃからわしに代わりお前が動くのじゃ。いいか、彼を手放すな」
「はい、わかりました。」
この時、王が何を心配していたのか俺にはわからなかった。
だけど、王の心配していた事がわかるのは、すぐだった。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――


理不尽な異世界への最弱勇者のチートな抵抗
神尾優
ファンタジー
友人や先輩達と共に異世界に召喚、と言う名の誘拐をされた桂木 博貴(かつらぎ ひろき)は、キャラクターメイキングで失敗し、ステータスオール1の最弱勇者になってしまう。すべてがステータスとスキルに支配された理不尽な異世界で、博貴はキャラクターメイキングで唯一手に入れた用途不明のスキルでチート無双する。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる