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第19話 無限ピーマンとお嬢と私
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私、夏目しおりは眠っている。デリバリーした油そばを平らげた後ばたりと布団に倒れ込んだ。こんな昼下がりがあったっていい。ひとり気ままに流れる時間を無意味に過ごす。なんて贅沢なんだろう。一時間ほど前からこんなことを考えながら目を閉じていた。
だらりとした時間を断ち切る軽やかな足音が近づいてくる。玄関のドアが開いた音と、ただいまと声が聞こえたので私は呻き声のような音で返事をした。多分。
「もし?しおりさんは結婚していらっしゃるのですか?」
同居人であるお嬢様小学生のまい子は、学校から帰宅するや否や素っ頓狂な質問で私の目を覚ました。
この子は私が20代半ばの独身女性だとは知らずに、うちに居候しているというのか。無垢な彼女に嘘をついて見栄を張ることもできた。ただ、賢い彼女のことだから、何かワケがあるのだろうと本当のことを伝えた。
「いや、してないけど。なんで?」
「学友のお姉様がご結婚を機にお家を出て行かれるそうで、大変寂しがっておられましたの。年齢を伺ったらしおりさんと同じくらいでしたから、つい」
彼女はほっとした表情でやっとランドセルを肩から下ろした。彼女の補助をしようと布団から起き上がると腰がパキッと鳴った。
「今のところ予定ないよ。彼氏いないし。あ、そうだ今日カレーでいい?」
家の事も一切やらずに怠け呆けていたので、昨日の残りのカレーライスを食べることにしよう。カレーのみではやや物足りないのでもう一品。
⚪︎材料(一人前)
・ピーマン(無限 今回は4個)
・醤油(小さじ1)
・酒(小さじ1)
・ごま油(小さじ2分の1)
・塩(ひとつまみ)
・ごま(お好み)
⚪︎作り方
・ピーマンを一口サイズに千切る。
この時にヘタを窪ますように押し込むと種が取れやすい。
種をとった割れ目から割くように千切っていく。
・材料を耐熱容器にいれ、ラップをかけたら電子レンジ500W3分加熱する。
・ごまを好みで散らせば完成!
食事の準備を済ませ、いただきますと手を合わせるまい子の眉間には小さなシワが寄っていた。
「いつか、しおりさんがご結婚することになったら、まい子はお邪魔になりますか?この家にはいられなくなりますか?」
ポツポツと話した後、涙を我慢するように口をつぐんだ。この小さな体で、彼女なりに未来に不安を抱いていたと思うと、なんだか胸がギュッとなった。思わず彼女の小さい頭を撫でる。
「あのさ、お嬢にはパパもママもいるでしょ?お手伝いさんとか友達とかもたくさんいるんでしょ?だから心配しなくていいんだよ、帰る場所はたくさんあるんだから」
ピーマンを一口食べてから続けた。
「それに、平日にごろごろ寝てる奴に王子様はやってこない。多分まい子の方が結婚早いと思うよ?ほら、ピーマン食べてみ。肌が綺麗になって可愛くなれるよ」
何が面白いか知らないが、まい子はクスリと笑ってからピーマンを口にしてくれた。
私たちにはどんな運命が待ち受けているのだろう。今が良ければいい、そんな言葉に甘えていられないけれど、とにかく今はそんな「今」が愛おしくてたまらないと思う。
だらりとした時間を断ち切る軽やかな足音が近づいてくる。玄関のドアが開いた音と、ただいまと声が聞こえたので私は呻き声のような音で返事をした。多分。
「もし?しおりさんは結婚していらっしゃるのですか?」
同居人であるお嬢様小学生のまい子は、学校から帰宅するや否や素っ頓狂な質問で私の目を覚ました。
この子は私が20代半ばの独身女性だとは知らずに、うちに居候しているというのか。無垢な彼女に嘘をついて見栄を張ることもできた。ただ、賢い彼女のことだから、何かワケがあるのだろうと本当のことを伝えた。
「いや、してないけど。なんで?」
「学友のお姉様がご結婚を機にお家を出て行かれるそうで、大変寂しがっておられましたの。年齢を伺ったらしおりさんと同じくらいでしたから、つい」
彼女はほっとした表情でやっとランドセルを肩から下ろした。彼女の補助をしようと布団から起き上がると腰がパキッと鳴った。
「今のところ予定ないよ。彼氏いないし。あ、そうだ今日カレーでいい?」
家の事も一切やらずに怠け呆けていたので、昨日の残りのカレーライスを食べることにしよう。カレーのみではやや物足りないのでもう一品。
⚪︎材料(一人前)
・ピーマン(無限 今回は4個)
・醤油(小さじ1)
・酒(小さじ1)
・ごま油(小さじ2分の1)
・塩(ひとつまみ)
・ごま(お好み)
⚪︎作り方
・ピーマンを一口サイズに千切る。
この時にヘタを窪ますように押し込むと種が取れやすい。
種をとった割れ目から割くように千切っていく。
・材料を耐熱容器にいれ、ラップをかけたら電子レンジ500W3分加熱する。
・ごまを好みで散らせば完成!
食事の準備を済ませ、いただきますと手を合わせるまい子の眉間には小さなシワが寄っていた。
「いつか、しおりさんがご結婚することになったら、まい子はお邪魔になりますか?この家にはいられなくなりますか?」
ポツポツと話した後、涙を我慢するように口をつぐんだ。この小さな体で、彼女なりに未来に不安を抱いていたと思うと、なんだか胸がギュッとなった。思わず彼女の小さい頭を撫でる。
「あのさ、お嬢にはパパもママもいるでしょ?お手伝いさんとか友達とかもたくさんいるんでしょ?だから心配しなくていいんだよ、帰る場所はたくさんあるんだから」
ピーマンを一口食べてから続けた。
「それに、平日にごろごろ寝てる奴に王子様はやってこない。多分まい子の方が結婚早いと思うよ?ほら、ピーマン食べてみ。肌が綺麗になって可愛くなれるよ」
何が面白いか知らないが、まい子はクスリと笑ってからピーマンを口にしてくれた。
私たちにはどんな運命が待ち受けているのだろう。今が良ければいい、そんな言葉に甘えていられないけれど、とにかく今はそんな「今」が愛おしくてたまらないと思う。
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