1 / 19
第1話 お嬢と私
しおりを挟む目が覚めると、外はもう夕方だった。フリーターの朝なんてこんなものだ。
布団でうだうだと転がりながら頭が冴えるのを待っていると、玄関のチャイムが鳴った。
何か荷物でも頼んだだろうか、記憶を探りながら扉を開けると、そこにはランドセルの女の子が立っていた。
「ごきげんよう。今日からこちらでお世話になります」
女の子はスカートをふわりと摘み上げ会釈をした。その所作は子供ながらに優雅で、一瞬、見惚れてしまった。しかし、容易に信用することはできない。単身者を狙った特殊な詐欺か?
「あのさ、誰?」
「私、宝城まい子と申します。もし、困ったことがあったらここを訪ねるように幼い頃から父に言われておりました。今日からこちらでお世話になります」
現在もまだ幼いじゃないかというコメントは敢えて飲み込む。
「お嬢ちゃん困ってるの?パパとママはどうしたの?」
「はい、困っております。両親は今一緒にいません。なのでこちらでお世話になりたいのです!」
彼女のぎゅっと握った小さな手が震えている。口調はしっかりしているが、話がなかなか進まない。
このクソ暑い中、玄関で立ち話を続けても自分の方が体力を消耗してしまう。誘拐罪なんかに問われたらどうしようとぼんやり思いながら女の子を部屋にあげてしまった。
部屋に自分以外の人間がいるのはいつぶりだろうか。ちょうどオレンジジュースが冷蔵庫にあったので、コップに移して出す。
「お世話になりたいって言ったってさ、私なーんもお世話できないよ?お金なんて全然ないし、子育てしたこともないし」
「それなら心配ご無用ですわ。自分の身の回りのことは自分でできるよう、教育を受けております」
私よりも、よっぽど立派だ。
まい子は申し訳なさそうに続ける。
「ただ、一つだけお願いがございまして…。私、屋敷の厨房に入ったことがなくて、料理ができませんの。どうか、食事だけ提供していただけませんか?」
正直、料理を一切しないわけではない。ただ、自分ができるのは材料、調理工程の少ないいわゆる「ズボラ飯」ばかり。おそらくお嬢様育ちの彼女の口に合うのだろうか。
「お嬢、どんなご飯が出てきても文句言わない?」
「ええ、まい子は好き嫌いのないいい子ですわ!」
見ず知らずのお嬢様の言葉を信じてみることにした。
詳しいことは時間が解決することもあるだろう。
小さな同居人との共同生活が始まる。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました
今卓&
ファンタジー
その日、魔法学園女子寮に新しい寮母さんが就任しました、彼女は二人の養女を連れており、学園講師と共に女子寮を訪れます、その日からかしましい新たな女子寮の日常が紡がれ始めました。

幸子ばあさんの異世界ご飯
雨夜りょう
ファンタジー
「幸子さん、異世界に行ってはくれませんか」
伏見幸子、享年88歳。家族に見守られ天寿を全うしたはずだったのに、目の前の男は突然異世界に行けというではないか。
食文化を発展させてほしいと懇願され、幸子は異世界に行くことを決意する。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。
ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。
それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。
これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ)
よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m
hotランキング23位(18日11時時点)
本当にありがとうございます
誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ
さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
うちの冷蔵庫がダンジョンになった
空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞
ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。
そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる