ズボラ飯とお嬢と私

さくま

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第1話 お嬢と私

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 目が覚めると、外はもう夕方だった。フリーターの朝なんてこんなものだ。
 布団でうだうだと転がりながら頭が冴えるのを待っていると、玄関のチャイムが鳴った。

 何か荷物でも頼んだだろうか、記憶を探りながら扉を開けると、そこにはランドセルの女の子が立っていた。

「ごきげんよう。今日からこちらでお世話になります」

 女の子はスカートをふわりと摘み上げ会釈をした。その所作は子供ながらに優雅で、一瞬、見惚れてしまった。しかし、容易に信用することはできない。単身者を狙った特殊な詐欺か?

「あのさ、誰?」
「私、宝城まい子と申します。もし、困ったことがあったらここを訪ねるように幼い頃から父に言われておりました。今日からこちらでお世話になります」

 現在もまだ幼いじゃないかというコメントは敢えて飲み込む。

「お嬢ちゃん困ってるの?パパとママはどうしたの?」
「はい、困っております。両親は今一緒にいません。なのでこちらでお世話になりたいのです!」

 彼女のぎゅっと握った小さな手が震えている。口調はしっかりしているが、話がなかなか進まない。
 このクソ暑い中、玄関で立ち話を続けても自分の方が体力を消耗してしまう。誘拐罪なんかに問われたらどうしようとぼんやり思いながら女の子を部屋にあげてしまった。
 
 
 部屋に自分以外の人間がいるのはいつぶりだろうか。ちょうどオレンジジュースが冷蔵庫にあったので、コップに移して出す。

「お世話になりたいって言ったってさ、私なーんもお世話できないよ?お金なんて全然ないし、子育てしたこともないし」
「それなら心配ご無用ですわ。自分の身の回りのことは自分でできるよう、教育を受けております」

 私よりも、よっぽど立派だ。
 まい子は申し訳なさそうに続ける。

「ただ、一つだけお願いがございまして…。私、屋敷の厨房に入ったことがなくて、料理ができませんの。どうか、食事だけ提供していただけませんか?」

 正直、料理を一切しないわけではない。ただ、自分ができるのは材料、調理工程の少ないいわゆる「ズボラ飯」ばかり。おそらくお嬢様育ちの彼女の口に合うのだろうか。

「お嬢、どんなご飯が出てきても文句言わない?」
「ええ、まい子は好き嫌いのないいい子ですわ!」

 見ず知らずのお嬢様の言葉を信じてみることにした。
 詳しいことは時間が解決することもあるだろう。

 小さな同居人との共同生活が始まる。
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