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第3章 帝都へ
互いの想い
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結局アンナさんの、護衛依頼は無くなり私たちは一週間ほどリーワースの街で依頼を受けたり、街を散策したりしていた。
お兄様がロランに渡した手紙の中にも、〝ゆっくり疲れを癒してから帝都においで〟と書かれていたこともあり、お兄様の言葉に甘えている。
ある日の朝
「今日は街の外に出てみようと思うんだが、どうだ?」
とロランから提案を受け、私は喜んで付いて行くことにした。
街の入り口から出ると、左側は草原、右側が川と林が連なっており、ロランは草原の方向に向かって歩き出す。
少し急勾配の草原を歩く。草原というより、大きな丘と言った方が良いのかもしれない。
一時間ほど歩くと、丘の頂上が見える。そこには一本の木が立っていた。
「あそこだ」
ロランにそう言われて逸る胸を落ち着かせ、歩いて行く。
そして木の横に立った瞬間、そこに広がる景色に目を奪われた。
「綺麗なお花畑‥‥ですね」
目の前には、白、黄色、桃色、赤‥‥様々な色の花が咲いている。
少し強い風が吹くと、花びらが花吹雪のように舞う。幻想的だった。
「セリー、後ろも見たらどうだ?」
そう言われて振り返ると、手前に街、その奥には林と川が流れ、遠くには山々が連なって見えている。
こちらの景色も見応えがあった。
「‥‥連れてきて頂き、ありがとうございます」
1人で来ていたら、もしかしたらここまで感動しなかったかもしれない。
ロランと一緒に見ている、連れて来て貰った、この嬉しさが私の感動をより押し上げていた。
風の音だけが聞こえる。
街の騒がしさも聞こえることなく、ここにいるのはロランと2人だけだと錯覚しそうになる。
幸せだ。この瞬間が続けば良いのに。
そんな想いに満ち溢れている私の隣に、いつの間にかロランが来ていたみたいだ。
「なあ、セリー。昔話だが、聞いて欲しいことがあるんだ」
「はい」
「俺がシャルモンの街で依頼を受けいていたんだが。ある日街道にある大木の木の上で休んでたんだよ」
私とロランが会ったところにある大木のことだろう。
「そしたら、銀髪の女性がやって来て‥‥綺麗な髪だと思った。俺はその人が去るまで目を離すことができなかった」
なんの話か分からなくなって来たが、大人しく私は聞いていた。
「次の日、その女性が冒険者に絡まれていたから声を掛けようとしたんだが、その顔を見て‥‥俺は一目惚れしたんだ」
「‥‥えっ?」
「その子とパーティーを組んだら、最初は無口だった。けど驚くほど‥‥鈍感で、よく迷子になった」
‥‥ん?
「でも話せるようになって、笑顔を見せてくれるようになって‥‥どんどん好きになってる俺がいた」
私は声も何も出すことができなくなっていた。ただロランの話を聞いている。
「ワイバーンの時、信じてくれて。俺が買ったリボンも毎日つけてくれて凄く嬉しかった」
いつの間にか私の身体はロランと向かい合っていた。私の肩にはロランの手が置かれている。
「俺はセリーのこと、好きだ。これからも隣で‥‥セリーを守らせてくれないか?まだ頼りないとは思うけど‥‥」
好き、ロランが私のことを好きだと言ってくれた。
夢ではないかと思った。けど手のぬくもりと、頰に当たる風は暖かい。
「セリー、俺と一緒に居てくれないか?」
言葉を出したいのに言葉が出ない。
喉の奥まで出かかっている言葉。でも、喋ると感情が溢れ出しそうで何も言えない。
「セリー?」
反応のない私を心配してくれる目。
‥‥違う、私はロランにそんな顔をさせたいわけじゃない!
言葉は出なかったけれど、身体が動く。私はロランの胸に抱きついていた。
「せ、セリー?」
ロランの心臓の音が聞こえる。その音を聞いていると心が落ち着いて来た。
恥ずかしくて顔を見ることができないけど‥‥今なら言える気がする。
「ロラン、私の話も聞いてくれます‥‥か?」
「‥‥ああ」
「私、ロランに何度も助けられました。最初、覚えてます?ロランは私を怒りましたよね」
「そうだな、怒ったな」
「私、怒られたの初めてでした。けど嬉しかった。きっと私もその時から‥‥」
「‥‥どうした?」
「いいえ、はっきり伝えます。私もロランのことが好きです」
最後だけはロランの目を見て言いたかったので、顔をあげてしっかりとそう伝える。
最初は口を半開きにしていたロランだったが、言葉の意味を理解したのだろう、顔が真っ赤になっている。
それを隠すように、ロランは手で顔を隠した。
けどすぐにロランはその手を離し、私を腕に抱く。
その後すぐに、私の額に柔らかくて暖かいものが触れる。
それが、キスだと気付いたのは時間が経ってからだった。
お兄様がロランに渡した手紙の中にも、〝ゆっくり疲れを癒してから帝都においで〟と書かれていたこともあり、お兄様の言葉に甘えている。
ある日の朝
「今日は街の外に出てみようと思うんだが、どうだ?」
とロランから提案を受け、私は喜んで付いて行くことにした。
街の入り口から出ると、左側は草原、右側が川と林が連なっており、ロランは草原の方向に向かって歩き出す。
少し急勾配の草原を歩く。草原というより、大きな丘と言った方が良いのかもしれない。
一時間ほど歩くと、丘の頂上が見える。そこには一本の木が立っていた。
「あそこだ」
ロランにそう言われて逸る胸を落ち着かせ、歩いて行く。
そして木の横に立った瞬間、そこに広がる景色に目を奪われた。
「綺麗なお花畑‥‥ですね」
目の前には、白、黄色、桃色、赤‥‥様々な色の花が咲いている。
少し強い風が吹くと、花びらが花吹雪のように舞う。幻想的だった。
「セリー、後ろも見たらどうだ?」
そう言われて振り返ると、手前に街、その奥には林と川が流れ、遠くには山々が連なって見えている。
こちらの景色も見応えがあった。
「‥‥連れてきて頂き、ありがとうございます」
1人で来ていたら、もしかしたらここまで感動しなかったかもしれない。
ロランと一緒に見ている、連れて来て貰った、この嬉しさが私の感動をより押し上げていた。
風の音だけが聞こえる。
街の騒がしさも聞こえることなく、ここにいるのはロランと2人だけだと錯覚しそうになる。
幸せだ。この瞬間が続けば良いのに。
そんな想いに満ち溢れている私の隣に、いつの間にかロランが来ていたみたいだ。
「なあ、セリー。昔話だが、聞いて欲しいことがあるんだ」
「はい」
「俺がシャルモンの街で依頼を受けいていたんだが。ある日街道にある大木の木の上で休んでたんだよ」
私とロランが会ったところにある大木のことだろう。
「そしたら、銀髪の女性がやって来て‥‥綺麗な髪だと思った。俺はその人が去るまで目を離すことができなかった」
なんの話か分からなくなって来たが、大人しく私は聞いていた。
「次の日、その女性が冒険者に絡まれていたから声を掛けようとしたんだが、その顔を見て‥‥俺は一目惚れしたんだ」
「‥‥えっ?」
「その子とパーティーを組んだら、最初は無口だった。けど驚くほど‥‥鈍感で、よく迷子になった」
‥‥ん?
「でも話せるようになって、笑顔を見せてくれるようになって‥‥どんどん好きになってる俺がいた」
私は声も何も出すことができなくなっていた。ただロランの話を聞いている。
「ワイバーンの時、信じてくれて。俺が買ったリボンも毎日つけてくれて凄く嬉しかった」
いつの間にか私の身体はロランと向かい合っていた。私の肩にはロランの手が置かれている。
「俺はセリーのこと、好きだ。これからも隣で‥‥セリーを守らせてくれないか?まだ頼りないとは思うけど‥‥」
好き、ロランが私のことを好きだと言ってくれた。
夢ではないかと思った。けど手のぬくもりと、頰に当たる風は暖かい。
「セリー、俺と一緒に居てくれないか?」
言葉を出したいのに言葉が出ない。
喉の奥まで出かかっている言葉。でも、喋ると感情が溢れ出しそうで何も言えない。
「セリー?」
反応のない私を心配してくれる目。
‥‥違う、私はロランにそんな顔をさせたいわけじゃない!
言葉は出なかったけれど、身体が動く。私はロランの胸に抱きついていた。
「せ、セリー?」
ロランの心臓の音が聞こえる。その音を聞いていると心が落ち着いて来た。
恥ずかしくて顔を見ることができないけど‥‥今なら言える気がする。
「ロラン、私の話も聞いてくれます‥‥か?」
「‥‥ああ」
「私、ロランに何度も助けられました。最初、覚えてます?ロランは私を怒りましたよね」
「そうだな、怒ったな」
「私、怒られたの初めてでした。けど嬉しかった。きっと私もその時から‥‥」
「‥‥どうした?」
「いいえ、はっきり伝えます。私もロランのことが好きです」
最後だけはロランの目を見て言いたかったので、顔をあげてしっかりとそう伝える。
最初は口を半開きにしていたロランだったが、言葉の意味を理解したのだろう、顔が真っ赤になっている。
それを隠すように、ロランは手で顔を隠した。
けどすぐにロランはその手を離し、私を腕に抱く。
その後すぐに、私の額に柔らかくて暖かいものが触れる。
それが、キスだと気付いたのは時間が経ってからだった。
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