辺境伯令嬢は冒険者としてSランクを目指す

柚木ゆきこ

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第3章 帝都へ

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 そろそろ夜明けが近づいてくる。
空気穴から聞こえる音でそう考えた私は、どうしようか、と考えを巡らせていた。
ふと、胸のあたりが暖かい。
気づくと、リボンのお姉様に貰った珠が赤く光っていた。

 遠くから足音がする。先程の紫髮の男性だろう。
鍵が開けられ、ドアが開くと、予想通り彼だった。だが護衛もつけないでいいのだろうか?

「そろそろ行くわよ‥‥何か私の顔に付いてるかしらぁ?」
「いえ、お一人なんだなと思いまして」
「そうねぇ、この際だからそれくらい教えてもいいかもねぇ」

 あ、教えてくれるの?と私は心の中で驚いている。なんとも口が軽いことだ。

「私1人でも問題ないからよぉ?だって私、A級の冒険者だもの」

 成る程、A級ならある程度の敵なら問題ないだろう。

「うーん、貴女のパートナーのロランだったかしらぁ?彼くらいなら1人で倒せるわ」
「そうだと良いですね」
「‥‥何ですって?貴女もしかして‥‥」

 彼はそれ以上言葉を紡ぐことが出来なかった。
何故なら開かないはずの扉が開いたから。
そして彼が振り向いた先には、怒りの形相のロランとお兄様がいたのだからーー


「やあ、ティム。久しぶりだね。ブライトウェル伯爵は元気?」
「お前は‥‥アドリアンだと?!何故ここにいる?」

 オネエ言葉はなくなり、いつの間にか男性言葉になっている。
この人沸点が低いのだろう、怒ったから素に戻ったんだろうな。
 
「何でって、セリーヌを探しに来たからだよ」

 お兄様は笑顔だけど、その笑顔が怖い。
あれは相当怒っている時の笑顔だ‥‥囮役、まずかったかしら?
隣にいるロランも下を向いている‥‥あれは大分怒っているようだ‥‥

「ごめんね、ティム。もう君の仲間は全員捕まえたよ?諦めた方がいいよ」

 顔を真っ赤にしたティムは、爆発寸前らしい。
だが、私の存在を思い出して、私に人差し指を向けてきた。

「いや、まだだ。奥には彼女がいる。彼女を傷つけられたくなければ、お前らは下がれ」

 ティムはお兄様たちを下がらせている。
お兄様は悔しそうな顔をしている‥‥

「ふっ、そうだ。そのままドアまで行け」

 そろそろ頃合いだろう。

「往生際が悪いのですね」

 いきなり牢屋に入っている私から言われたティムは、驚いたらしくこちらを向く。

「何を言っている?魔法を封じられたお前の方が往生際が悪いぞ」
「これですか?これ、壊せますよ?」

 私が一瞬だけ、私が持てる最大の魔力を注ぎ込む。すると腕輪はパリン、と割れた。

「普通の魔力の持ち主であれば割れませんが‥‥私にはこれは使えませんよ」

 その瞬間、ドアの近くにいたお兄様が、ティムを束縛し、ことが終結したのである。


 この事について知ったのは、バーウェアの街でアラスターさんからの手紙を貰った時だった。
手紙のには、以前言った通りのことが記載されていたが、文字とは別に、周囲に点と棒の飾りがついている。それが暗号であり、モンテーニュ家出身の者しか読めない。

 その暗号には、私がブライトウェル伯爵に狙われていること、アンナさんがその刺客かもしれない事が記載されていた。だが、今までの様子を見てきて、不思議に思っていた。
特に街の中では私が1人になることはほぼ無かった。
美味しいお店があれば、必ずロランと行くように勧めてくれたし、1人の時は食堂で一緒にお茶をしていた。

 時間が経つにつれ、私を狙うどころか一緒にいて守ってくれているのではないかと感じ始める。

 その旨を記したところ、お兄様の調べで脅されている可能性が高いことがわかり、
帝都の手前の街で仕掛けてくる可能性が高いと、推測。囮を提案。

 アンナさんがホットミルクを持ってきたときに、そうだと確信した。


 ティムはお兄様の従者に連れられ、外に連行されていく。
そして、それと入れ替わりに階段を降りてくる音がした。

「セリーちゃん!」
「アンナさん‥‥」

 お兄様の手にしていた鍵で牢屋から出ていた私に、アンナさんは思いっきりぶつかってきた。

「ごめんなさい、本当にごめんなさい‥‥無事で‥‥」

 以前のワイバーンの時よりも数段強い力で、私の体を抱きしめるアンナさん。
アンナさんもずっと罪の意識と脅しの間に挟まれて、辛い思いをしていたのだろう。

「アンナさん、私、怒ってませんよ」

 アンナさんは立ち膝で私を抱きしめていたので、顔が下から覗き込まれる。
目は真っ赤だし、まぶたは腫れている。ずっと泣いていたのだろう。

「確かに、アンナさんが私たちを嵌めていた事実は消えません‥‥けど、あの焚き火の時、ワイバーンの時‥‥泣いてくれたり怒ってくれたり、笑ってくれたり。あれは嘘だったんですか?」

 アンナさんは私から目を逸らすことなく見つめている。
そう、その気持ちは本物だということは、私もちゃんと気づいている。

「だから‥‥えっと、事実は変わらないけど‥‥しっかり罪を償ってくれれば、私は良いです。アンナさん、また私に会ってくれますか?」
「私が‥‥会うことを許されるのなら‥‥」
「勿論です」
「‥‥ありがとう」

 こうして私の役目は終わる。水晶玉もきちんと渡せたし、お兄様に任せるだけだ。
アンナさんは目に涙を溜めながら、お兄様と外に出て行った。
私はアンナさんとお兄様の背中を見ながら、罪が軽くなりますように‥‥と心の中で願っていた。
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