辺境伯令嬢は冒険者としてSランクを目指す

柚木ゆきこ

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第3章 帝都へ

囚われの姫となりました

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 翌日昼、私たち3人はギルドに足を運び、報酬と昇級を受け取る。
ロランはまだ昇級する予定はないらしい。
無詠唱で魔法が使えるようになったら、と冗談か分からないが言っていた。

 私は晴れてB級になった。
あの後、シャルモンのギルド長からの手紙があることに気づき、アラスターさんに渡しておく。
勿論、先ほど手紙は戻ってきた。

「俺も手紙を入れておいた。何かあればその街のギルド長に渡してくれ」とのことだ。

ちなみに手紙も考慮して、私は試験なしの2段階上昇、特例中の特例だ。
「ワイバーンを1人10体倒したから良いだろ?」と聞いたら、全員一致で決まったらしい。
金貨はロランの口座に入れておくよう伝え、私たちは街を出立した。

 途中で雨も振られたり、魔物に遭遇したり、ギルドで困っている人がいれば、アンナさんの許可をとって依頼を受けた。最初は心理的に辛かった3人旅も、今では仲良く楽しく過ごしていた。


 そして出発から1ヶ月、帝都手前の街、リーワースに着く。
この街はドンカーク領の端に位置し、一番帝都に近い街と言われている。

 明日この街を出て、帝都に向かう。
その事に想いを馳せていた頃、コンコンとノックの音が響いた。

「はい」
「アンナだけど、入っても良い?」

 最近は宿に泊まると、アンナさんが部屋に遊びに来ることが何度もあった。
今日も話しに来たのだろう。そしてたまにお菓子も持ってきてくれるので、楽しみだったのだ。

 入ってきたアンナさんの右手には、カップが2つ。
湯気が見えるので、温かい飲み物を持ってきてくれたのかもしれない。

「セリーちゃん、今日は甘いものが手に入らなかったから、ホットミルク持ってきたよ!」
「ありがとうございます」

 アンナさんはサイドテーブルに私用のカップを置き、アンナさんのものは隣のテーブルに置いた。
話をするときは私がベッド、アンナさんが椅子に座る、これが暗黙の了解になっていた。

「最初はこんな可愛らしい子が護衛になるなんて思わなかったよ」

 最初に会った時の事を思い出しているのだろう。

「私も護衛依頼は初めてだったので、心配でした」
「ふふふ、最初は私に嫉妬するくらいだったものね」
「アンナさん!」

 顔を真っ赤にする私。あの時のことは穴があったら入りたい‥‥
思い切ってアンナさんに聞いたは良いけれど、仲良くなるにつれてこの事で揶揄ってくるのが恥ずかしい。

「でも本当に2人は強かった。驚いたよ」

 ニコッと笑ってくれるアンナさん。私はその笑顔につられて笑った。

「アンナさん、帝都まであと数日ですね」
「そうだね‥‥」
「帝都まで送った後も、仲良くして下さいますか?」

 私の言葉にビクッと肩を震わせるアンナさん。大丈夫だろうか、少し顔が青い。

「うん、勿論だよ」

 その言葉を聞いた後、私はアンナさんが持ってきてくれたホットミルクを飲んだ。
その瞬間、身体が痺れ動けなくなる。それだけではない、すごく眠い。

 ベッドに倒れた私を見ているアンナさんの表情は、泣きそうなほどだ。
そして動いている口からは「ごめんなさい」との言葉が繰り返し綴られる。
私はアンナさんに「大丈夫だよ」と伝えようとするが、声が出ない。

‥‥アンナさんに見守られながら、私は記憶を失った。



 ぴちゃん、ぴちゃん。
どこからか水滴の落ちる音がする。
私は重たい目を擦りながら、目を開けた。

 目の前には石造りの天井。すぐに横たえられている事に気づく。
床も冷たい。痺れと眠気は取れたようだ。

 身体を起こすと、入り口には鉄格子が。まるで牢屋のようだ。
手や足は拘束されていないが、右手に見知らぬ腕輪が嵌められている。
ふと思い出し胸元を見る。以前リボンのお店のお姉様から貰った珠のネックレスは着けられたままだった。

‥‥多分攫われたのだろう、そう目をつけた。

 アンナさんも私を誘拐する計画に加担した1人だったのだろうか。
記憶を失う前のあの様子なら、そうに違いない。
周囲を見回すが、窓もない。空気を通す穴が見えたので覗くが、真っ暗で何も見えない。
どこかの地下の可能性がある。

 どうするか思案していると、奥からギギギギ、と扉を開ける音が聞こえた。
入り口の真正面に私の牢屋があるのか、少し光が漏れている。時間は分からないが。

 入ってきた男はランプを持って私の檻に近づいてくる。
そして私の前で止まった。

「ふふふ、辺境伯のご令嬢も唯の小娘のようですねぇ」

 そこに立っていたのは、紫色の髪の男性。だが仕草や言葉遣いは女性のようにも見える。
その人は私をジロジロと見ている。まるで品定めをされているみたいで不快だ。

「こんなに簡単に捕まるなんて。暗殺者を雇わなくても、最初からこうすれば良かったわ」

 つまり最初から私を狙っていたのだろう。
たまに警備魔法が反応したのは、この人が刺客を送り込んだからに違いない。

「ふうん、でも確かに見た目は整っているわねぇ?あのお方も気にいる訳だわ」
「あのお方‥‥ですか?」
「ごめんなさいねぇ、それは貴女があのお方に会うまで秘密なの」
「そうですか、でもお姉さんの方が私の数倍も綺麗だと思います」

 話を引き伸ばすために、怒らせないような言葉を選んで話す。
綺麗と言う言葉に相手は反応したようだ、すごく喜んでいる。

「あらぁ、正直な子は大好きよ!うふふ、私気に入ったわ!あのお方のところに行くまで、丁寧に丁寧に扱ってあげるから。安心してね?」

 まあ、その前に行く気はしないんだけど、と心の中で吐いておく。

 上機嫌になった相手を放置して、私は魔法を使おうとするが‥‥使えない。
その事を察したのか、こちらを向いて話し始めた。

「セリーヌちゃん。右の腕輪は魔封じの腕輪だから、魔法は使えないわよ?辺境伯の令嬢は魔法を使用する、と報告にあったから、魔法を封じさせてもらったわ」

 その言葉に納得し、魔法を使うのをやめる。

「あら?潔いのね。それじゃあ、後少ししたら迎えにくるわね?」

 そうして彼は背を向けて歩いていく。そして扉が閉まると同時に、静けさが戻ってきたのだった。
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