45 / 58
第3章 帝都へ
後悔と決意
しおりを挟む
「セリーに触るな」
知っている声が聞こえて顔を上げると、ロランが忿怒の形相で男と対峙していた。
様子から察するに、私を捕まえていた男の腕を掴んでいるようだ。
強い力なのだろう、男の腕にロランの爪が少し食い込んでいる。
「お前は誰だっ、いてぇ!!」
「同行者だ。彼女に手を出す者は俺が許さん」
ロランは突き刺すような‥‥もしかしたらお母様が使っている威圧なのかもしれないが‥‥視線を全員に送っている。
取り巻きたちはその視線に耐えられなかったのだろう、一目散に逃げ出し始める。
全員逃げたところで、その目線を捕まえている男に向け、一言。
「お前は、どうするんだ?」
と声をかけた。その男は小心者だったらしく、「す、すみませんでした」と言って逃げていく。
「すまない‥‥また危ない目に合わせてしまった」
ロランは悲しそうな目を私に向ける。そして私を立たせようと腕に力を入れた。
私も立とうとして‥‥足に力が入らないことに気づく。
「ご、ごめんなさい‥‥力が入らなくて‥‥」
相当怖かったのかもしれない。きっと私の天敵は、悪意ある人間なのだろう。
どうしようかと慌てていると、急に身体が持ち上がった。
「え?」
ロランが私をお姫様抱っこしていることに気づいたのは、少し後。
その時私は、混乱していて何も喋ることができなくなっていた。
宿屋の階段が近づくと、先程受付にいた宿の人が声をかけてくれた。
「止めることが出来ずに申し訳ございませんでした、お客様」
「いや、彼女を一人にした責任はこちらにあるから気にしないでくれ」
「そう言って頂けて助かります。彼らはこの街のゴロツキです。彼らはもうお嬢さんに害をなすことはないと思います」
「‥‥そうなのか?」
「はい。強い者に刃向う意志はありませんので」
どうやら私はもう彼らに関わることはないらしい。だが何故私が狙われたのだろうか?
「お嬢さ、お客様はとても綺麗な容姿をしています。他に狙ってくる者も居ないとは限りません。お気をつけください」
「‥‥そうだな。ご忠告感謝する」
「いえ、ゆっくりお休みください。お部屋は二階の奥になります」
そのまま私はロランに部屋まで連れてきてもらったのだった。
時間が経って落ち着いてきた。
ロランはまだ部屋にいてくれている。
ベッドの横のサイドテーブルには、先程飲んでいた紅茶が置かれている。宿の人が持ってきてくれたようだ。
一口飲んだところで、私はロランに声をかける。
「ろ、ロラン‥‥アンナさんはどうしたのですか‥‥?」
「アンナはセリーが借りた部屋で休んでるはずだ。心配しなくていい」
「そうですか‥‥」
気まずい。本当に気まずい。
ロランは私が座っているベッドの近くに来ようとはせず、扉の前で腕を組みながら立っている。
「ロラン、先程はありがとうございました‥‥迷惑をかけてすみませんでした‥‥」
離れているロランの顔が怒っているようで、頭を垂れてしまう。
また涙が出そうになる。こんなに弱くなかったはずなのに。
‥‥ロランに会うまで、何があっても泣いたことはなかったのに。
目を開けると膝の上に握りこぶしを作っていた。その拳が震えている。
コツ、コツ、コツ、と歩く音が聞こえるが、私は顔を上げることができない。
情けないからだ。いつも迷惑をかけているのは私じゃないか。
そう思ったと同時に、頰に手が触れた。私の手ではない、暖かくて大きな手。
触れた瞬間、思わずビクッと身体を強張らせる。そして触れた手も離れていく。
恐る恐る顔を上げると、哀愁に満ちた顔のロランがそこにいた。
「また守ってやれなかった‥‥俺は自分が不甲斐ない」
その言葉から私に怒っているのではないことに気づく。
「シャルモンの街で今日みたいな事が無かったから油断をしていた。セリーの容姿を考えれば、変な奴らに構われる可能性もあることを失念していた。いくら拳闘士の格好をしていても、セリー自身が強くても、若い容姿の整ったか弱そうに見えるのは変わりない」
実際私も先程のような人相手に、どう対応すべきか分からなかった。
人と上手く関わる事ができれば、お母様みたいにスルーできるのかもしれないが、今のところ私は無理だろう。
でもロランにいつまでも助けられてばかりではいけない。私も冒険者になるのなら、変わるべきだ。
「もう少し気をきかせられれば‥‥すまない」
そう項垂れたロラン。ロランのせいじゃない、私がぼーっとしていたからいけない。
「いいえ、私も最初絡まれた事を考えれば、その可能性も考えるべきでした」
私が静かに話し出す。ロランは静かに聞いているが、拳は硬く握り締めている。
私はその拳を手にとって、ロランに目を合わせる。
「私もいつまでもロランに守って貰える訳ではありません。私も成長するべきだと感じました。だから、そんなに思い詰めないで下さい」
「セリー‥‥」
「それに、ロランが悲しい顔をしていたら、私も悲しくなります。笑顔で居てくれませんか?」
ちゃんと伝わったか分からない。けれども言葉に出した事で、気持ちが軽くなった。
だから最後は笑顔で話しかける事ができた。
「ったく‥‥セリーは‥‥強いな」
「それが私の取り柄ですから」
空気が一気に緩む。そして私たちは笑いあった。
知っている声が聞こえて顔を上げると、ロランが忿怒の形相で男と対峙していた。
様子から察するに、私を捕まえていた男の腕を掴んでいるようだ。
強い力なのだろう、男の腕にロランの爪が少し食い込んでいる。
「お前は誰だっ、いてぇ!!」
「同行者だ。彼女に手を出す者は俺が許さん」
ロランは突き刺すような‥‥もしかしたらお母様が使っている威圧なのかもしれないが‥‥視線を全員に送っている。
取り巻きたちはその視線に耐えられなかったのだろう、一目散に逃げ出し始める。
全員逃げたところで、その目線を捕まえている男に向け、一言。
「お前は、どうするんだ?」
と声をかけた。その男は小心者だったらしく、「す、すみませんでした」と言って逃げていく。
「すまない‥‥また危ない目に合わせてしまった」
ロランは悲しそうな目を私に向ける。そして私を立たせようと腕に力を入れた。
私も立とうとして‥‥足に力が入らないことに気づく。
「ご、ごめんなさい‥‥力が入らなくて‥‥」
相当怖かったのかもしれない。きっと私の天敵は、悪意ある人間なのだろう。
どうしようかと慌てていると、急に身体が持ち上がった。
「え?」
ロランが私をお姫様抱っこしていることに気づいたのは、少し後。
その時私は、混乱していて何も喋ることができなくなっていた。
宿屋の階段が近づくと、先程受付にいた宿の人が声をかけてくれた。
「止めることが出来ずに申し訳ございませんでした、お客様」
「いや、彼女を一人にした責任はこちらにあるから気にしないでくれ」
「そう言って頂けて助かります。彼らはこの街のゴロツキです。彼らはもうお嬢さんに害をなすことはないと思います」
「‥‥そうなのか?」
「はい。強い者に刃向う意志はありませんので」
どうやら私はもう彼らに関わることはないらしい。だが何故私が狙われたのだろうか?
「お嬢さ、お客様はとても綺麗な容姿をしています。他に狙ってくる者も居ないとは限りません。お気をつけください」
「‥‥そうだな。ご忠告感謝する」
「いえ、ゆっくりお休みください。お部屋は二階の奥になります」
そのまま私はロランに部屋まで連れてきてもらったのだった。
時間が経って落ち着いてきた。
ロランはまだ部屋にいてくれている。
ベッドの横のサイドテーブルには、先程飲んでいた紅茶が置かれている。宿の人が持ってきてくれたようだ。
一口飲んだところで、私はロランに声をかける。
「ろ、ロラン‥‥アンナさんはどうしたのですか‥‥?」
「アンナはセリーが借りた部屋で休んでるはずだ。心配しなくていい」
「そうですか‥‥」
気まずい。本当に気まずい。
ロランは私が座っているベッドの近くに来ようとはせず、扉の前で腕を組みながら立っている。
「ロラン、先程はありがとうございました‥‥迷惑をかけてすみませんでした‥‥」
離れているロランの顔が怒っているようで、頭を垂れてしまう。
また涙が出そうになる。こんなに弱くなかったはずなのに。
‥‥ロランに会うまで、何があっても泣いたことはなかったのに。
目を開けると膝の上に握りこぶしを作っていた。その拳が震えている。
コツ、コツ、コツ、と歩く音が聞こえるが、私は顔を上げることができない。
情けないからだ。いつも迷惑をかけているのは私じゃないか。
そう思ったと同時に、頰に手が触れた。私の手ではない、暖かくて大きな手。
触れた瞬間、思わずビクッと身体を強張らせる。そして触れた手も離れていく。
恐る恐る顔を上げると、哀愁に満ちた顔のロランがそこにいた。
「また守ってやれなかった‥‥俺は自分が不甲斐ない」
その言葉から私に怒っているのではないことに気づく。
「シャルモンの街で今日みたいな事が無かったから油断をしていた。セリーの容姿を考えれば、変な奴らに構われる可能性もあることを失念していた。いくら拳闘士の格好をしていても、セリー自身が強くても、若い容姿の整ったか弱そうに見えるのは変わりない」
実際私も先程のような人相手に、どう対応すべきか分からなかった。
人と上手く関わる事ができれば、お母様みたいにスルーできるのかもしれないが、今のところ私は無理だろう。
でもロランにいつまでも助けられてばかりではいけない。私も冒険者になるのなら、変わるべきだ。
「もう少し気をきかせられれば‥‥すまない」
そう項垂れたロラン。ロランのせいじゃない、私がぼーっとしていたからいけない。
「いいえ、私も最初絡まれた事を考えれば、その可能性も考えるべきでした」
私が静かに話し出す。ロランは静かに聞いているが、拳は硬く握り締めている。
私はその拳を手にとって、ロランに目を合わせる。
「私もいつまでもロランに守って貰える訳ではありません。私も成長するべきだと感じました。だから、そんなに思い詰めないで下さい」
「セリー‥‥」
「それに、ロランが悲しい顔をしていたら、私も悲しくなります。笑顔で居てくれませんか?」
ちゃんと伝わったか分からない。けれども言葉に出した事で、気持ちが軽くなった。
だから最後は笑顔で話しかける事ができた。
「ったく‥‥セリーは‥‥強いな」
「それが私の取り柄ですから」
空気が一気に緩む。そして私たちは笑いあった。
10
お気に入りに追加
1,392
あなたにおすすめの小説
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

(自称)我儘令嬢の奮闘、後、それは誤算です!
みん
恋愛
双子の姉として生まれたエヴィ。双子の妹のリンディは稀な光の魔力を持って生まれた為、体が病弱だった。両親からは愛されているとは思うものの、両親の関心はいつも妹に向いていた。
妹は、病弱だから─と思う日々が、5歳のとある日から日常が変わっていく事になる。
今迄関わる事のなかった異母姉。
「私が、お姉様を幸せにするわ!」
その思いで、エヴィが斜め上?な我儘令嬢として奮闘しているうちに、思惑とは違う流れに─そんなお話です。
最初の方はシリアスで、恋愛は後程になります。
❋主人公以外の他視点の話もあります。
❋独自の設定や、相変わらずのゆるふわ設定なので、ゆるーく読んでいただけると嬉しいです。ゆるーく読んで下さい(笑)。
捨てた騎士と拾った魔術師
吉野屋
恋愛
貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。
愛を語れない関係【完結】
迷い人
恋愛
婚約者の魔導師ウィル・グランビルは愛すべき義妹メアリーのために、私ソフィラの全てを奪おうとした。 家族が私のために作ってくれた魔道具まで……。
そして、時が戻った。
だから、もう、何も渡すものか……そう決意した。
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした
犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。
思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。
何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

【完結】ただあなたを守りたかった
冬馬亮
恋愛
ビウンデルム王国の第三王子ベネディクトは、十二歳の時の初めてのお茶会で出会った令嬢のことがずっと忘れられずにいる。
ひと目見て惹かれた。だがその令嬢は、それから間もなく、体調を崩したとかで領地に戻ってしまった。以来、王都には来ていない。
ベネディクトは、出来ることならその令嬢を婚約者にしたいと思う。
両親や兄たちは、ベネディクトは第三王子だから好きな相手を選んでいいと言ってくれた。
その令嬢にとって王族の責務が重圧になるなら、臣籍降下をすればいい。
与える爵位も公爵位から伯爵位までなら選んでいいと。
令嬢は、ライツェンバーグ侯爵家の長女、ティターリエ。
ベネディクトは心を決め、父である国王を通してライツェンバーグ侯爵家に婚約の打診をする。
だが、程なくして衝撃の知らせが王城に届く。
領地にいたティターリエが拐われたというのだ。
どうしてだ。なぜティターリエ嬢が。
婚約はまだ成立しておらず、打診をしただけの状態。
表立って動ける立場にない状況で、ベネディクトは周囲の協力者らの手を借り、密かに調査を進める。
ただティターリエの身を案じて。
そうして明らかになっていく真実とはーーー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる