辺境伯令嬢は冒険者としてSランクを目指す

柚木ゆきこ

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第2章 冒険者編 ~シャルモンの街~

魔人アウラウネとの戦闘 後

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「ロラン!」

 ロランに声をかけるが、彼はただ只管こちらに向かって走るだけ。
あんなに綺麗だった紅玉の目は、今やどんよりとした紫色に変化している。
目にも生気がない。ただの操り人形のようだった。

「人間の女よ。男に倒されるが良い。お前も魔力が高くて生きが良い。私が使ってやろう」

 アウラウネはこっちを見て笑っている。
ロランと私の戦闘を見て楽しもう、と考えているようだ。こちらに手出しはしない様子。
だが、まずい。今は炎の剣だ。これではロランに怪我をさせてしまう。

 収納魔法の中にある剣を取り出す時間はなさそうだ。
炎の剣を消し、扇で剣を受け止めることにする。
キーン、と金属のぶつかる音がする。今更だけれども、この扇何でできているのだろうか。

「ロラン、気づいて下さい!」

 何度声をかけても、彼は攻撃を辞めない。これは相当強い精神操作の魔法だ。
剣を受けている時にちらっとアウラウネを見ると、心なしか先程よりも少し小さくなった気がする。

「無駄だ。私が先程持てるほぼ全ての力を使った。解けることもないだろう」

 私の努力など無駄だ、と言うかのようにあざ笑うアウラウネ。
絶対解けることがない、と思ったからの発言だろう。

 だが裏を返せばロランを支配下に置くために魔力を使いすぎたようだ。
ロランを正常に戻せば、あとは弱くなったアウラウネだけだ。魔力のないアウラウネは怖くない。
むしろ力を使いすぎて、本体がやられる可能性があるから戦闘に入ってこないようだ。

「ロランよ。グズグズしていないでその娘を倒せ」

 そうアウラウネが命令すると同時に、ロランの剣筋がまた鋭くなっていく。
あちらは剣の達人、こちらは昔習っただけのそこそこな素人、しかも武器は扇。
それでも受けきれているのは私の速さと、ロランが力を余り込めていないからだろう。
操作されているためか、ロラン自身が頭で考えて攻撃をしていない。

「これならなんとか受け止められそうね」

 その間に私は状態異常回復の魔法を掛ける隙を伺っていた。



ーーーセリーとロランが戦闘をしている頃。

それを見ているアウラウネの目には、怒りの炎が灯っていた。

「なぜ。なぜ、あの女を倒せない」
 
 アウラウネに魔力が残っていれば、アウラウネとロランで彼女を倒せたかもしれない。
精神支配ならもう少し少ない魔力で発動できたが、力を手に入れ驕り高ぶっていたアウラウネは欲が出た。
だから精神操作でロランの全てを手に入れることに決めたのだ。

 しかしロランはA級冒険者。しかもアドリアンの相棒だった男だ。
そんなに柔な精神ではない。強い精神力だったからこそ、魔力が膨大に必要だった。

 それでも女を倒せるのであれば、問題なかった。

「だが、開いてみれば‥‥あの男は女を倒しきれない」

 今更だが、自分の選択に後悔するアウラウネ。だが、あの魔法は解けることがない。
そう思いなおしたアウラウネは、引き続き彼らの戦闘を見つめる。
「あの女が疲れてへばったところでトドメを刺せば良い」と楽観視したまま。

ーー結局、アウラウネは最初の選択で間違っている事とは気づかないまま最終局面に突入した。
 
 

 私はどうしたらロランが止まるかを考えていた。
一瞬でいい、一瞬でいいから、動きを止めることができれば状態異常回復魔法はかけられる。

「声をかけてもダメ、ですか‥‥」

 それはそうかもしれない。お兄様だったら未だしも、会って間もない二人だ。
だが、ロランが呼びかけに答えてもらえないーーーこの事実に私は心が痛む。

「しょうがないですね、実力行使です」

 私は扇を左手に持ち替え、顔の前にグローブを持ってくる。
その動作に驚いたのか、一瞬ロランの動きも止まる。

灯りライト!!」

 と叫ぶのと同時に、私のグローブについている青い宝石から眩しい光が現れる。
ロランも眩しかったのだろう、すぐに目を瞑り、完全に動きが止まる。

 そして私は倒れないだけの魔力を残し、残りの魔力を全て使って一つの魔法を完成させる。

状態異常回復リカバリー!」

 灯りの魔法が消えると同時に、ロランの額には魔法陣が出現する。
そして、その光はロランと私を包み込んだ。
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