辺境伯令嬢は冒険者としてSランクを目指す

柚木ゆきこ

文字の大きさ
上 下
29 / 58
第2章 冒険者編 ~シャルモンの街~

魔人アウラウネとの戦闘 中

しおりを挟む
「‥‥嘘だろ」

 ポツンと隣から聞こえた声。ロランだ。
アウラウネが魔石を飲み込んだ後、すぐにこちらに向かってきたのが見えた。
炎の剣を使って怒らせたのは私。きっと心配してくれたのだろう。

「話に聞いた事はありましたが‥‥初めて見ました」
「‥‥俺もだ」

 アウラウネは蔓で私たちを攻撃しつつも、魔石を取り入れた身体を確認しているようだ。
蔓と上半身が別々の思考を持って動いているように感じる。

「たまには人間も良い物をくれる」
「‥‥良い物ですって?」

 アウラウネが漏らした言葉に思わず反応する。
今、なんて言った?良い物をくれる‥‥?
答える必要のない筈のアウラウネだが、気分が良いのか喋り始める。

「さっきの魔石は違う人間から貰った」
「どんな人間だ?」
「黒いフードを被った人間。ワイルドボアが倒されたら、次は私が村を襲えと言われた」
「「なんですって(なんだと)?」」

 ワイルドボアも人的被害だった可能性がある。

「まさか、ワイルドボアや子どもに魔法をかけたのはお前か?」
「子ども?知らない。かけたのはワイルドボアだけ」

 と言うか、ここまでペラペラ喋ってくれるのは予想外だ。
それはロランも思っているだろう。だが、その思いに答えたのはアウラウネ だった。

「人間は、死ぬ。だから聞かせてやった。私の養分となるが良い」

 そして第2ラウンドが始まった。


「心なしか‥‥蔓が硬くなっている気がするが気のせいか?」
「魔石の魔力で強化していますね」
「まじかよ‥‥」

 先程から切っては切っては再生の繰り返し。
しかも蔓が強化されているせいか、切れるスピードも遅くなった。
頼みの綱であった私の炎の剣も、魔石を飲み込んだアウラウネ には効かなくなったらしく、すぐに消化される。

「くそ、なにか突破口がないか‥‥?」

 ロランは風魔法「切断の風ウインドカッター」でアウラウネの上半身を狙うが、蔓で受け止められてしまう。
その間にも剣で蔓を相手にしているから、相当な技能である。

 そんな攻撃を繰り返して何度目か。時間が永遠に終わらないのでは、と錯覚しそうになる頃。
行き詰まる二人を他所にそれを楽しそうに見ているアウラウネがいた。
 
「中々生きの良い人間。気に入った」

 詠唱を始めたアウラウネ。
その周りには紫色のオーラが纏われ始めている。しかも非常に濃い。

「ロラン、逃げて下さい!」

 私は思わずロランに声をかける。
色が濃くなることは、それだけ魔力を消費していると言うこと。
アウラウネは相当強い精神系魔法を使うつもりだ。

 しかし、逃げようとしても蔓に前後を挟まれて逃げることができない。
それはロランも同じだった。

「精神系の魔法が来ます、気をつけて下さい!」
「分かった!」

 ロランはアウラウネの目を見ず蔓の対処に走っている。
そんなロランをニヤニヤと見つめているアウラウネ。そこで私は嫌な予感がする。

「まさか‥‥」

 魔石を飲む前のアウラウネは目を見なければ、精神系の魔法が使えない。
だが、魔石の効果によって、使‥‥

「ロラン!!」

 私はロランを守るため、叫びと同時に特大の「火炎放射」フレイムをアウラウネに向けて打つ。
だが、強化された蔓によってそれが防がれる。
灼け落ちないところを見ると蔓に防御魔法も使われていたようだ。

 そして気づくとロランとの距離が離されている。
それに気づいたのと同時に‥‥アウラウネの詠唱が終わりを迎えた。

精神メンタル操作オペレーション

 アウラウネの伸ばした右の手のひらから、紫色の光が放たれる。
そして、その光がロランに当たったかと思うと、ロランは急に攻撃を止める。
無情にも‥‥ロランは精神操作の魔法に掛かってしまったようだ。
それは、彼の周りから発せられるオーラによって分かる。

「ロラン‥‥」

 いつもなら笑ってくれるロランが、反応しない。
まるで私がここにいる事が見えていないようだ。

「ロラン、と言ったか。あの娘を倒せ」

 アウラウネの言葉でロランは私に向かって走り出したのだった。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

完全無欠な学園の貴公子は、夢追い令嬢を絡め取る

小桜
恋愛
伯爵令嬢フランシーナ・アントンは、真面目だけが取り柄の才女。 将来の夢である、城勤めの事務官を目指して勉強漬けの日々を送っていた。 その甲斐あって試験の順位は毎回一位を死守しているのだが、二位にも毎回、同じ男の名前が並ぶ。 侯爵令息エドゥアルド・ロブレスーー学園の代表、文武両道、容姿端麗。 学園の貴公子と呼ばれ、なにごとにも完璧な男だ。 地味なフランシーナと、完全無欠なエドゥアルド。 接点といえば試験の後の会話だけ。 まさか自分が、そんな彼と取引をしてしまうなんて。 夢に向かって突き進む鈍感令嬢フランシーナと、不器用なツンデレ優等生エドゥアルドのお話。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

(自称)我儘令嬢の奮闘、後、それは誤算です!

みん
恋愛
双子の姉として生まれたエヴィ。双子の妹のリンディは稀な光の魔力を持って生まれた為、体が病弱だった。両親からは愛されているとは思うものの、両親の関心はいつも妹に向いていた。 妹は、病弱だから─と思う日々が、5歳のとある日から日常が変わっていく事になる。 今迄関わる事のなかった異母姉。 「私が、お姉様を幸せにするわ!」 その思いで、エヴィが斜め上?な我儘令嬢として奮闘しているうちに、思惑とは違う流れに─そんなお話です。 最初の方はシリアスで、恋愛は後程になります。 ❋主人公以外の他視点の話もあります。 ❋独自の設定や、相変わらずのゆるふわ設定なので、ゆるーく読んでいただけると嬉しいです。ゆるーく読んで下さい(笑)。

捨てた騎士と拾った魔術師

吉野屋
恋愛
 貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

愛を語れない関係【完結】

迷い人
恋愛
 婚約者の魔導師ウィル・グランビルは愛すべき義妹メアリーのために、私ソフィラの全てを奪おうとした。 家族が私のために作ってくれた魔道具まで……。  そして、時が戻った。  だから、もう、何も渡すものか……そう決意した。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした

犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。 思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。 何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…

処理中です...