辺境伯令嬢は冒険者としてSランクを目指す

柚木ゆきこ

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第2章 冒険者編 ~シャルモンの街~

初めて野宿します

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 翌日。

「準備はこんなもんで良いだろう」

 私とロランは宿で旅の準備をしていた。時間は朝早い。
準備と言っても、昨日依頼を受けた後準備をしていたので、ロランは宿から荷物を持ってくるだけ。
私も近くの雑貨屋でカモフラージュ用のリュックを手に入れただけ。
 後は宿の女将さんに、3日間程遠征をするから、と今までのお礼を伝えたところ、寂しそうな顔をしていた。
それくらいなので、用意もそこまで時間が掛かることもなかった。
 これなら急げば着くかもしれない。
そう思いロランに訪ねたのだが、よくよく聞くと今日は村まで行かず道中で野宿をする予定らしい。

「早く行くべきではありませんか?」

 と聞いてみると、ロランは丁寧に理由を教えてくれる。
 緊急依頼ではなく、新しい依頼だった事(ワイルドボアの依頼は昨日新しく入ったものだったようだ)、そして私に野宿のやり方を知る事を目的にしているからとの事も考えての日程のようだ。
それだったら、という事で私は納得。
その代わり今日はなるべく長い距離を進み、明日ワイルドボアの討伐ができるように調整することにした。

 
 門から出ると、そこには見渡す限り広い草原が目に入る。
金色の草が風にサラサラと揺れている様子は、心の底から綺麗だな、と思わせる。
そして門から繋がる道は途切れることなく地平線まで続いていた。
改めて、これが私の旅立ちか、とここにきて初めて実感する。

「セリー、大丈夫か?行くぞ」

 そう、ロランとともに。新たな期待と不安を胸に、私は彼の後を着いていった。


「さて、今日はここで野宿だな」

 夕暮れに差し掛かる時間帯。
代わり映えのない景色を見ながら私たちは進んでいた。
たまに小型の動物を見かけたりするが、何事もなく野宿の目的地に着いたようだ。

「半日で3分の2まで来たか‥‥本当にセリーの体力には驚かされる」
「体力が取り柄です」
「いや、そこは魔法も‥‥ってセリーだから仕方ない。もうD級だしな」

 肩をすくめていたロランだが、テキパキとリュックの中から物を出している。
手慣れているのだろう、惚れ惚れとするくらい支度が早い。
じーっと見つめていると、ロランから声が掛かる。準備をしながら、教えてくれるらしい。

「これはテントだ。寝る時用に使うものだが、見たことはあるか?」

 三角の形をした小さな家みたいな物のようだ。
家と違うのは家具は置いておらず、外側だけがあるという点か。
昔、魔の森の遠征の時に騎士がこのようなモノを張っていたことがあることを思い出したので頷いておく。

「安く買えるものは自分で組み立てなくてはならないが、これは魔力を流すと勝手に組み立てることができる優れものだ」
「それ‥‥無属性の組立魔法セットアップが掛けられてますね」

 無属性魔法なら魔力があれば誰にでも使える優れものだ。私が使っている収納魔法や、以前使った清浄魔法なんかも同じ部類に入る。
簡単な部類は生活魔法として使用することもできる。
が、私の使う収納魔法のような難易度の高い無属性魔法を扱おうとする人は少ない‥‥とお兄様から聞いた。

「おー、流石はセリーだな。無属性魔法を物にかけるのは魔力が大量にいるが、起動くらいならそこまで魔力は使わないからな。中々便利だぞ」

 あっという間にテントを張り終えたロランは、リュックから丸いものを取り出しテントに投げ入れる。
ちなみに、寝袋というらしい。寝るためのものだそうだ。

「旅に出るためには、色々と必要なのですね」

 外で寝る、という感覚が今まで無かったからだろう。
ロランが持っているものが多くて、ロランのリュックを凝視してしまっていた。
 私が遠征するときは、偵察部隊が魔物を発見。
その魔物の場所に私とお兄様が直行。
大体は私たちが着くと戦闘部隊が魔物と戦っているので、すぐに助けに入って討伐。

 だから長くても1日で終わる日帰りの工程だった。
一度偵察部隊に、戦闘部隊と一緒に‥‥とお願いしたこともあるのだが、お父様の猛烈な反対にあい断念している。

「そうか、セリーは野宿した事がないのか?」
「ええ、家の周囲でしか活動していませんでしたから‥‥」

ーー正確に言えば、家と魔の森十数キロメートル範囲だが、ロランがそれに気づくことはない。

「周りに本とかは無かったのか?冒険者が主人公の小説もあったりしたが‥‥」
「小説は‥‥読んだ事がありませんね」

 昔から読んでいたのは、魔導書のような戦闘で必要な本ばかりだった。
魔物と戦う事が楽しかったし、力もついてお兄様に褒められるのが嬉しかったのかもしれない。
そう考えると、私って戦闘の事しか知らないのね‥‥

「じゃあ、料理も初めてかもな。お、あったあった」

 ロランはリュックから色々と取り出しはじめた。
まずは薪。この場所は元々、行商人や冒険者たちがよく野宿に使う場所らしく所々に薪の跡がある。
その一つに薪を組み、燃える物を組んだ薪の下に放り込んだ。

「あとは燃やすだけだが‥‥」
「‥‥私がやります」
「だ、大丈夫か?ゴブリンを倒した時のやつだと過剰すぎるんだが‥‥」

 大丈夫です、と声を掛けて胸の辺りで人差し指を立てる。
その上に3cmほどの火球が現れるように想像。
そして念の為、今回は詠唱も唱えることにする。
詠唱を唱えた方が、精密さが増す。問題ないとは思うが、念には念を‥‥だ。

火球ファイアーボール

 予想通りの大きさで現れた火球が、想像通りの軌道を描いて薪の下にたどり着く。
やはり想像と誤差を生じさせないようにするためには、火球という詠唱だけでもいった方がいいのだろう。

「えげつない魔力操作コントロールだな‥‥」

 と実は後ろで顔を真っ青にさせていたロランがいたのだが、私が気づくことは無かったのだった。
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