辺境伯令嬢は冒険者としてSランクを目指す

柚木ゆきこ

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第1章 旅立ち編 〜冒険者になろう〜

色々考えさせられました

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 1時間ほど経った頃、私はロランの言う通りに食堂に向かった。
そろそろ日が傾いてきているようだ。食堂の床は、オレンジ色の光で少し赤く染まっている。
一階の食堂に降りて部屋を一通り見回すと、奥の個室に見覚えのあるウエストポーチが見えた。
トコトコとそちらへ歩いていくと、足音に気づいたのかロランが振り返る。

「お、来たか」
「ごめんなさい‥‥待たせてしまって‥‥」
「ん?ああ、俺も来たところだったから問題ないぞ。それより座ったらどうだ?」
 
 ロランと反対側の席に座る。
それを見届けたロランは、何かを探しているように周囲を見渡しているようだ。
私は丁度目に入ったお皿を見ていた。この白くて細いモノは食べ物だろうか‥‥
細さで言えばよく食べるパスタよりも細くて白い気がする。
 じーっと見ていたら、ロランもそのことに気づいたらしい。

「その皿のやつ気になるよな。それは回復草の新芽らしいぞ」
「新‥‥芽ですか?」
「女将が言ってたんだが、回復草に日の光を全く当てないで育てたものらしい。偶然出来たものを鑑定したら、食べられると判定されたらしくて、今回俺に特別に出してくれた。セリーは何を飲む?」
「‥‥お茶で」

 周囲を見渡していたのは、ウェイトレスを呼ぶためだったらしい。
私に注文を確認すると、すぐに頼んでくれた。

「いくつか料理は頼んだから、好きな物を食べてくれよ。つつきながら話をするから」

 そう言って彼は届いたエールをぐいっと飲み干していた。


 全ての料理が揃い、ロランは防音魔法を私たちの周囲にかける。
やはりいつ見ても綺麗な層の防音魔法だと思う。これなら声が漏れることもないだろう。
感心して見ていると、ロランはそれを勘違いしたらしい。

「と言うか、セリー。料理に手を付けてないのか?食べていいぞ?これくらいなら俺だって払える」

 心配そうな顔で見てきたので、魔法見学は止めて料理を頂くことにした。
後でお礼を渡すようにしておこう。

「ところで、話は変わるが‥‥セリー。今日のウスターの魔法を見てどう思った?」

 ウスターさんの魔法、つまり火球のことだろう。
これは正直に話していいのか、少し迷う。
お兄様のイロハで情報を自分から言ってはいけないと何度も言われていた。
 だけど、こうも言っていた気がする。
お兄様がその話をした時に、話していい場合はないのか?と質問したことがあった。
その時に行っていた言葉は‥‥

ーーもしセリーヌに親切にしてくれる冒険者が、カードを見せてくれたら信頼してもいいと思うよ。

 そうだった。身分証明証を見せてくれる人は、何も後ろめたいことがない人だとも言っていた。
ウスターさんにもすごく懐かれていたし、ロランになら少しだけ話すのもいいかもしれない。
こう考えている間も時間が経っていたが、ロランは黙って私のことを見ているだけだ。
 私は気合いを入れるため、深く息を吸った。

「正直、威力が弱いと思いました」

 肩と膝に置いた手に力が入る。こう言ったら彼はどう思っただろう。
否定されることが怖くて、耐えられず下を向いてしまった。
 私はお兄様のように、すぐ他人と仲良くすることが出来ない。
そして頭の回転は悪くないらしいのだが、何を喋ればいいのか分からない。簡単に言えば人見知り。

 ロランの言葉に怯えていると、ふうと息を吐く音がした。
来たか!と思い、より一層力が入る。だが、事態は私の思っていた通りには進まなかった。

「まあ、セリーならそう思うだろうな」

 私はその言葉を聞いて肩や手に入っていた力が一瞬で抜け、きょとんとした顔をロランに向ける。

「だって、そうだろう?セリーの火球は中級、いや下手したら上級の威力がある。常識的に考えると。そんな魔法をばんばん使っているであろうセリーなら、そう思うはずだ」

 彼は手に持っていたエールをくいっと飲み干す。これで3杯目だろうか?

「別にあの魔法が駄目だ、とか悪いって否定するわけじゃない。だが、あの魔法を人前で使うのは止めたほうがいい。変なのに絡まれたくなかったらな」
「変なの‥‥?」
「‥‥そうだ。帝国軍とか貴族お抱えの騎士なら、良いだろうが‥‥盗賊とか奴隷商人とか、悪事を企む奴らからも狙われる可能性が高い」

 つまり、私の魔法は普通の冒険者に比べて強力なものだから、その能力を欲して寄ってたかってくる可能性があると言う事。
確かにそれはすごく面倒くさい。
級が上がればそう言うこともないだろうけれど‥‥飛び級はないから地道に頑張るしかないのだろう。

「それにセリーは荷物や武器を持っていないだろう?今は街近くで動いているから問題ないとしても、その格好で旅に出たら何かあるのでは、と怪しまれるし、目をつけられるはずだ。ちなみに俺はこの背負っているリュックとポーチで旅に出ているが、リュックは収納魔法を利用しているから、見た目以上に容量は入る」

 頭を使って考えれば、本当にその通りだ。
お兄様の話を聞いていたが、私は全てを知っているわけではないし、細かく聞いているわけではない。
これからどうすべきなのだろう、といきなり不安に思った。

 今までは何も考えずに、旅が始まるのだろうなと漠然と考えていた。
今日の依頼も少し考えてやれば良いだろう、と。
でも、この街から出るためにはそれだけじゃ駄目なのだ。
私は魔物退治は出来ても、冒険者としてはスタートラインにすら立てていなかった。
 彼のお陰でそれが分かったことに、私は心から感謝した。

「ウスターも俺もそうだが、冒険者になる前には両親や友人、兄弟に聞くことで基礎が叩き込まれる。帝都やこの街の近くにある学園だったら、お金を払って基礎を教えてくれるところもある。大体はどちらかで習うものだが‥‥その様子だと、どちらでもなさそうだな」

 私もお母様やお父様ーーは無理かもしれないけど、聞くべきであった。
護衛で街まで付き添った三人も、一時期は両親の命令で冒険者をしていたこともあったと聞いた。
その時点で色々教えを請うべきだったのだ。

‥‥なんとも情けない

 武力をあげれば良いと、訓練はしていたが、知識にまで気が回らなかった。
魔法と同じなのね、とここで悟る。

「だから提案なんだが」

 遠い目をしている私を、ロランは一心に見ている。

「一緒にパーティーを組まないか?」

 いきなりの提案に私は、今までに無い程目を見開いた。
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