辺境伯令嬢は冒険者としてSランクを目指す

柚木ゆきこ

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第1章 旅立ち編 〜冒険者になろう〜

なんか思っていたのと違いました

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 訓練場には二人の人が魔法の練習をしていた。
一人は男性、一人は女性だ。男性は魔法の練習を、女性は筋トレをしているようだ。

「あ、ロランさん。お疲れっす!!」

 男性がロランに気づき、声をかけてくる。

「よう、ウスター。魔法の調子はどうだ?」
「聞いてくださいよ!ロランさん!!俺的には結構上達したと思うっすよ!」

 キラキラと輝いた目でロランを見るウスターさんはまるで子犬のようだ。
尻尾があれば、振り切れるほど、揺らしているに違いない。

「火球がやっと思うところに飛ぶようになって‥‥ってロランさん、その女性は誰っすか?」

 私の身長が低いため‥‥だろう、少しロランから離れたときに彼は私のことが目に入ったようだ。
あまり喋るな、と言われたし、ロランの様子を見ておくことにする。

「ああ、彼女はセリーだ。新人らしくて偶然一緒になってな」
「おお!やっぱりロランさんは変わらないっすね!世話焼きなところは」
「ほっとけ」

 ロランは世話焼きらしい。
ウスターさん、本名ウスターシュさんと言うらしいが、彼もロランから魔法を教わった一人らしい。
どんな人でも助ける(悪人以外)精神は健在で、ロランさんに懐く冒険者も多いとか。

「いや、俺は別にそこまででもないぞ?上には上がいる」

 なんと、困っている人全てに手を伸ばす人がいるらしい。
ロランの昔のパーティーメンバーらしいが、その人が関わる事件はいつも良い方向に解決したそうだ。
「俺は振り回されていただけだがな‥‥」と遠い目をしていたことはおいておこう。

「それより今日は魔法を見せてくれよ。どれくらい上達したか、見せてもらいたいなと思ってな」
「ほんとっすか!?見てもらえるなんて有難いっす!」

 嬉々として、という表現が一番合いそうだ。
ウスターさんは子犬のような笑顔から、真剣な表情に変わる。
そして、彼は詠唱を始めた。

「火よ、目の前の障害物を燃やし尽くせ、ファイアーボール!」

 片手で掴めそうな火の塊を、ウスターさんは訓練場の的に投げつけた。
火球は真っ直ぐ的に向かい、的に当たるとーー消滅した。

「ほお、的にしっかり当てられるようになったか」
「そうなんすよー‥‥やっとコントロールできるようになりましたっす」

 ロランは彼にアドバイスをしているようで、彼もうんうん、と相槌を打ちながら聞いている。
そして私はといえば‥‥

‥‥これが火球?

 思っていたのと全く違う弱い威力の火球にしばらく固まってしまっていた。



 ロランの助言が終わり、ウスターと別れた後。

「なあ、セリー。少し俺と話さないか?」

 呆然としていた私に気づいていたのだろう、ロランがそう声をかけてきた。

「流石に泊まっている部屋に二人っきり‥‥はマズイから、宿屋の食堂とかでどうだ?防音魔法を張れば問題ないだろう」

 その提案は私にとって有難いものだった。
なにせ、私の常識と世間は違っている?という疑問が浮かび上がったからだ。

「俺は、三日月亭に泊まっているんだが‥‥セリーは‥‥」
「私も同じ宿屋に泊まっています」

 偶然、泊まっているところは同じ場所だった。
ギルドの職員さんがオススメしてくれた宿だから、一緒になる可能性も高いはずだ。
そう言えば、今日私に詐欺をしようとしていた人たちも同じ宿だったっけ‥‥

「それ本当か?」

 あ、真剣に考えすぎて声に出ていたらしい。
私が頷くと、ロランは頭を抱えてこう切り出した。

「そうか、じゃあ1時間後にこの宿の食堂に集合な。それまでは念の為、セリーは部屋にいた方がいい」

 そうか、報復があるかもしれない、その可能性も否めない。
私は素直にロランの言う通りに部屋に戻ったのだった。
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