辺境伯令嬢は冒険者としてSランクを目指す

柚木ゆきこ

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第1章 旅立ち編 〜冒険者になろう〜

ギルド長の話

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「失礼します、マリオンです。セリーさんをお連れしました」
「うん、マリオンありがとう。下がって良いよ」
「はい。それでは、失礼します」

 目の前にはひざ下の高さの木製の大きめのテーブル。その上には何やら水晶らしき丸い物体が置いてある。
そしてテーブルの右側には深緑色のソファーが置かれている。
カーテンや絨毯なども緑系統の色で統一されており、私から見ても品が良いと感じた。
 そしてソファーに座っていた男性が立ち上がる。
右目にはモノクルをかけているが、思った以上に若そうに見える。

「君がセリーヌくん?僕はこの辺境伯ギルドを統括する、ギルド長モルガン。ギルド長、とでも呼んでくれればいいよ」

 私の名前を知っているので、驚いた。
が、よく考えてみればもしかしたらお父様の知り合いの可能性が高い。
それに少しお兄様と喋りが似ているような気がする。

「初めまして、セリーヌと申します」
「今はセリーだったか。君のことは君のお父上から聞いているよ。本当に可愛らしいお嬢さんだ」

 眼鏡をくいっと持ち上げながら話すギルド長。そして予想通りお父様の知り合いか。
何を話せば良いか私が悩んでいると、ギルド長は私の目の前に手を出し、眼鏡を抑えながら首を振る。

「ああ、君は喋るのが苦手だと聞いている。僕の話を聞いてもらえるかな?」
「‥‥‥はい、分かりました」
「うん、流石歩く天災の娘。良い娘だ」

 そこはお父様の娘、ではないんですね。
お母様とも知り合いなのね‥‥と思いながら私はギルド長の話を聞いた。


 ギルド長の話を簡潔に述べると、ギルド長は元々お父様やお母様のパーティーメンバーの一人として活動していた。
ギルド長のご実家は伯爵家だが三男坊だったため、お母様に誘われてこの辺境伯ギルドの統括をしているらしい。
 辺境伯領には町ごとにギルドがあるのだが、このシャルモンが一番魔の森に近いため、基本はこの街で業務を行なっているそうだ。
 そしてお母様から娘の私が今日、ギルドに冒険者登録をすることを聞いて、仕事を終わらせて待っていてくれたらしい。
元々手が空いている時には冒険者登録の手伝いも積極的に行なっていたようだったから、代わってもらうことができたようだ。

「ああ、君が名前をセリーに変える事は了承しているよ。まあ、別に偽名を使うのはギルドの規則的には問題ないからね。同じ人が二回登録しようとしても、この水晶が判別するから」

 どう言う仕組みかは知らないけれど、規則を破って永久剥奪された冒険者や、冒険者登録をしているのに2回目の登録をしようとする場合は、この水晶が使えないらしい。

「便利なものですね」
「そうなんだよね。あと君が辺境伯の令嬢だってことは僕しか知らないから安心して欲しいのと、君も無闇矢鱈に身分を名乗らないように気をつけて。変な奴らに目をつけられる可能性があるから。まあ尤も、歩く天災や黒髪の紳士、残念な知謀家を相手にする奴らもいないだろうし‥‥君もそこら辺の雑魚くらいなら一捻りだと思うけど」

 笑いながら言うギルド長は、本気でそう思っているように見える。
両親やお兄様は凄い冒険者だと思うけれども、私はそうでもないと思うんだけどな。
とりあえず心配して頂いているので、お礼は伝えよう。

「ご忠告痛み入ります」
「うん、頑張って。それじゃあ、カードに情報の記載をしようか」
 
 と言って、私はギルド長にカードを手渡したのだった。


 水晶の情報登録は簡単だった。水晶の上に手を乗せるだけと教えてもらった。
水晶の前にはギルド長が大丈夫だよ、と声をかけてくれている。私は緊張しつつもそっと手を乗せた。
すると半透明のウィンドウが目の前に出てくる。この水晶で初めて自分の状態ステータスが分かるとお兄様も言っていたのを思い出す。

 
  セリーヌ
  Lv.45  魔導士
  
  HP:4,560/4,560
  MP:6,230/6,330


 うん、初めてステータスを見てみたけれども、まだまだだ。
お母様やお父様、お兄様はHPもMPも6,000を越していると言う話だ。
最近は魔物の発生も落ち着いていたから、訓練だけで魔物討伐は行なっていなかったしこんなものだと思う。

「まさか‥‥これ程とは」

 向かいのギルド長はブツブツ何か言っているのだが、小声すぎて聞き取ることができない。
ギルド長に顔を向けて首を傾げると、その様子に気づいたのか笑い返してくれた。

「はい。このギルドカードに情報は記載されましたから、手を離して問題ありませんよ」

 そっと手を離すと同時に、ギルド長は私にそっとカードを手渡してくれる。
先ほどと喋り方が違うような気がするんだけれども‥‥気のせいなのかな。
きっと定型文があって、それを喋っているだけなのかもしれない。

「ちなみにギルドが見ることのできる情報は、名前と年齢と職業だけです。名前はセリーとしてあるので安心してください。もし、今回のステータスをもう一度確認したいようでしたら、カードの裏側に魔力を注ぐと先ほどのように見ることができます。ああ、その場合他人も見れてしまうので、一人の時に行うようにしてくださいね?」

 なるほど、裏に魔力を感知する場所があるようだ。そこに魔力を軽く注げば見れると言うことだろう。

「あと依頼などを受けて、今のステータスを確認したい場合は、ギルド職員に言ってください。そうすれば、ステータスの更新をすることができます。あと何か分からないことはありますか?」
「大体理解できました」

 そう声をあげると、満足したかのようにギルド長が微笑む。

「素晴らしい。では、今日からセリーくんは冒険者です。君が良い旅を送れることを願っていますね」
「ありがとうございます、あ‥‥最後に質問しても宜しいですか?」
「はい」

 そうして私の冒険者登録は終わり、新たな生活が始まったのだった。
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