辺境伯令嬢は冒険者としてSランクを目指す

第1章 旅立ち編 〜冒険者になろう〜

旅たちの儀式 ２

モンテーニュ辺境伯領。

　ヴァルマンユ帝国の丁度西に位置している。辺境と聞くと、寂れているイメージが浮かぶが、モンテーニュ領には当てはまらない。モンテーニュ領は帝都に次ぐ栄えた領地と言われている。
　その理由が領地と隣り合わせにある魔の森だ。魔の森には様々な魔物が生息しており、弱い魔物から強い魔物まで様々な魔物が住み着いている。
　魔物は繁殖力が強く、直ぐに増えてしまうため、冒険者や辺境伯の持つ私兵達は魔の森の魔物の討伐を頻繁に行なっている。そのため魔物から取れる素材が多く集まることから、稼ぐために冒険者が辺境伯領によく訪れている。
　それだけではない。魔物の素材は、回復薬や防具、武器の素材になることから技術者や研究者までもが辺境伯領に訪れるようになり、今や研究施設だけでなく学園などもできており、賑わいを見せていた。

　そんな辺境伯領で第二子として生まれたのがセリーヌだ。

　辺境伯領では常に魔物との戦いに身を置いていることもあり、辺境伯の元で生まれたセリーヌは、兄アドリアンと共に幼い頃から訓練を受けてきた。
　時には辺境伯の私兵たちと共に魔物狩りという訓練に行き、Aランクとされる魔物を倒したこともある程、魔法の才能を開花させている。
　アドリアンはセリーヌと違い剣を使用した近距離戦が得意だったこともあり、兄が近距離、妹が遠距離と立ち位置を決め、主に二人で討伐を行なっていた。

　そのためか、私兵たちからこの兄妹は尊敬の目でみられ、いつの間にか動のアドリアン、静のセリーヌと呼ばれ崇められる様になる。母親譲りの美しい髪と美貌を持つセリーヌのファンクラブもあるのだが、セリーヌは存在自体を知らない。ちなみに第一号は父親のレアンドルである。

　アドリアンもセリーヌと同じ様に15歳になる1ヶ月前、父レアンドルより冒険者になる旨を伝えられる。
先程セリーヌが母エヴリーヌに宣言されたように、これが辺境伯独自の儀式となる。
　井の中の蛙でいることのなく世間を知るように、と言う意味で冒険者として旅をさせるのが目的だ。
　母親であるエヴリーヌも実は辺境伯の娘であり、15歳で冒険者となった。
そしてパーティーメンバーであったレアンドルと結婚した。
今では通り名「歩く天災」として名を轟かせている。
兄のアドリアンも通り名を持つが「黒髪の紳士」という。

　現在、兄のアドリアンは冒険者家業を終え、辺境伯を継ぐために帝都の学園で勉学に励んでいる。
だが、通り名のこともあり、度々同じ学園の騎士科の生徒に呼び出されては、叩き潰す日々を送っている‥‥らしい。


　と言うことで次は15歳になるセリーヌの番である。
15歳になる1ヶ月前に呼び出されて当主から宣言される、この儀式を経て冒険者として旅立つのだが、現在の当主であるレアンドル・モンテーニュが娘離れが終わっていなかったため、母親であるエヴリーヌが儀式を終えたのだった。




「頑張るのよ、セリーヌ」

　儀式が終わり、厳しい顔を向けていたお母様はニッコリと笑う。
普段のお母様を見れば、歩く天災なんて通り名は嘘じゃないかと思うくらい穏やかだ。
歩く天災の能力が発揮されるのは、魔物討伐の時と‥‥‥お父様と喧嘩をした時だけ。
　そんな穏やかなお母様の神経を逆撫でする様な出来事が起こってしまった。
　
「そんな危険なことをしなくていいんだよ、セリーヌ！僕と一緒にここで楽しく暮らせばいいじゃないか！！」

　諦めていないお父様だ。涙を垂らしながら両手を広げるお父様。
抱きついて来い、と言うことだろう。お父様は懲りない。
それが静かだった活火山お母様を噴火怒らせてしまうことにも気づいていない。
　予想通り、活火山がまた噴火した。先程の数十倍の威力と威圧で。

「‥‥あなた？静かにしていただけますか？」
「ヒ‥‥はぃ」

　‥‥悲鳴を上げそうになっているお父様。流石にこれは怖い様だ。何度繰り返せば学ぶのかしら。
二度あることは三度ある、という言葉もあるし、お父様は直すことはもう無理なのかもしれない。

　そう確信した私は、お母様の了承を経て部屋に戻ることにした。
そしてその夜、お父様の両頰が赤く腫れているのを見て、何が起こったのかを理解したのだった。