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第1章
第3話 会合
しおりを挟む非常に巨大な木々の根が隆起し、道など見えず根と根を飛び移りながら移動する人影。
「よっ! と、アルカさんや、何かいた?」
「いえ、何も」
彼の頭上でくるくる回りながら返事をするアルカと結城の姿である。
「もうどのくらい進んだよ? 1時間は経ってる気がするんだけど」
「正確には出発より73分経過しています。提唱、生物が存在しない可能性。先程から観測データより放射能が低下しています。おそらく船の周りの放射能汚染のため、生物がいなかった可能性が高くなりました」
「えっ? 俺平気なの? そんなとこにいたけど」
「問題ありません。しかし、この先は許容範囲まで低下しています。警戒を怠らぬよう進言します」
「りょーかいー」
木々は密集しているがサイズが巨大なため、隆起している根と根の距離は近くない。その事実を物ともせず彼は飛び移っている。
「ほっ! しかし、すごいな」
「そうですね。植物といえどここまで巨大化したデータは持ち合わせていませんでした。放射線の影響を鑑みても固有の生態でしょうか」
「あっ? そっち?」
「何の話でしょうか?」
「俺の事だよ。もうずっと飛び回ってるのに全然動ける。俺こんな体力なかったし、よっ! こんなジャンプもできなかったからさ」
「そんな事でしたか。当然です。修理に使ったパーツです劣化しないタイプの軍事用機体にほとんど換装しましたからね」
「へっ! と、俺の体そんないいやつなの?」
「はい、私の船の中でも1、2を争う高級品です」
「へぇ、そりゃあ有り難い、な! っと。」
そんな会話を続けていた2体だが、ある場所を境にぴたっと進むのをやめた。アルカは少し高く浮遊するとまたくるくると回りだし、結城に関しても何かを確かめるように鼻をひくつかさせる。
「くっさ! 何の匂いだよ!」
「相良 結城! 戦闘準備を! 動体反応、複数!」
そう言うとアルカは彼の右肩に張り付くように留まった。
急かされた彼は空いていた片手で腰から銃を抜く。まだ彼は何が来ているか把握している様子はなく、鼻を押さえ涙目になりながら近くの木に背中を預けた。
周囲は日が出てるとはいえ、陽の光も生い茂った木に阻まれ薄暗い。その薄暗い中から地面から湧き出るように木の根を乗り越える影があった。非常に大きな目玉を2つ持ち互いに別々な方向にぎょろぎょろと動かしながら、毛のない灰色をした皮膚をもつ醜悪な顔をした人型の物体がぺたぺたと這い出てきた。それも1匹だけでなく彼を取り囲むようにゾロゾロと……。
「アルカさん! アルカさんや! 何、こいつら! 何!?」
「結城。落ち着いて。落ち着いてください。詳細は不明ですが生物でしょう。警戒されているようですぐにはこちらには来ませんから!」
「お、おち、落ち着けって! 俺こんな生き物知らんよ!?」
「私にも分かりません。データが存在しません」
徐々に距離を狭めるようにその化物たちは彼らに這い寄っている。
「無理無理無理! きもいきもい!」
鳥肌を立て、嫌悪感に耐えきれなかった結城は手に持つ銃の引き金の指に力を入れる。筒から放たれた弾丸は結城の正面にいた個体の頭部を破裂させ、火薬が炸裂する大きな音は弾丸の命中した個体を除きその生き物の動きを止めた。生き物が有してるとは思えない毒々しい色の液体を撒き散らしながら頭部を失った個体は崩れ落ち根から落ちた。
「「あ」」
やってしまったと思うアルカと、はじけ飛ぶと予想せず引き金を引いてしまった結城を置いて時間は止まっていた。しかし、その停止もつかの間。その化物達は言い表し様のない音で騒ぎ始めた。
「……やばい?」
騒音の中つぶやく結城の声はかき消され、ひとしきり叫ぶ化物。響き渡るように叫んだ個体からシンと静かにありそのうち音のない静寂が来た。
「走ってください!」
「走れってどこへ!?」
「真っ直ぐです!」
静寂になった理由は化物達によってすぐ示された。襲撃の合図である。結城はアルカの声を聞きながらも体はすでに動かしていた。化物達の間合いは近い。彼から最も近くにいた個体はすでに飛びかかっていた。結城は鼻を押さえていた手を添えてもう一度引き金を引く。胴体に命中したが勢いは止まらず化物は飛ぶ。銃の反動をあえて上に逃し両手を上にあげた結城は飛びかかる化物を足で押し止めるとぐっと力を込め押し戻す。絶命していた化物はそのまま倒れるが化物共は1匹だけではない。すでに他の個体も飛びかかろうとしていた。結城は力を込めその場から飛ぶ。そのまま空中で銃を構え直すと弾倉が空回りするまで引き金を引いた。そしてそのまま逃げ出す。命中したかも確かめず、足元の根が砕ける勢いの力で跳躍しつつ逃げ出したのだ。
「相良 結城! 周囲に動体反応が増え続けています!」
その声を聞き彼はちらっと振り返る。化物が全力で追いかけてきていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「アル! カ! さん! まだ! 来て! る!?」
「まだ着いてきてますね。 そのまま走り続けてください!」
「ひぃぃぃ!」
鬼ごっこは大盛況だった。ただこんな過激な鬼ごっこは、そうないだろう。鬼が増え続けるのだ。リロードのチャンスがなかったのか拳銃の弾倉は空のまま彼は飛び回っていた。
「くそっ!」
彼は一層力を込め、大きく跳躍した。距離を稼ぐと銃をホルスターに収め、背中のバックパックの側面にかけていたスナイパーライフルもどきを手に構え集団の先頭に狙いをつけ引き金を引く。1発で2~3体貫通するようしとめ、後続の障害物にしながら彼はまた逃げる。距離は稼げてはいるが化け共は諦める様子はない。
2~3度繰り返すが焼け石に水である。
「アル! カ! さん! なん! か! ない! の!?」
「このまま森を出るまで走り開けた場所で迎撃する他ありません!」
「いい! かげん! きつい!」
銃に無限に弾丸を出し続ける機能はない。従って
「っ! リロード!」
銃のシリンダーをスイングアウトさせ、排莢。空薬莢を手にとり腰のポーチに突っ込むと新しい弾丸を取り出し込める。非常に手早く行っているが時間はかかる。せっかく開けた感覚はなくっていた。
「正面です! 結城!」
意識をリロードから正面の敵に戻した時には目の前まで距離を詰められていた。
その時。結城に噛みつかんとばかりに口を開け飛びかかった化物は銀色の光が通り過ぎた瞬間、錐揉み回転しながら吹っ飛んだ。
「あ?」
彼の周りに球体が投げ込まれ、煙を立て暴れだした。
「htehojgij!」
「え?」
煙に巻かれ何か人影のようなものに腕を掴まれた結城は引っ張られ走り去ってしまう。その場には煙によって翻弄された化物が消え去った結城の姿を探しその場をくるくる回る光景だけがあった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
クロスさせた剣の鞘を背負う赤い髪の男の背中を見ながら、結城は腕を引っ張られて移動していた。その男は弓を構えた状態でいる長い金髪の女性がいる場所まで来ると合図をし揃って移動を始めた。仲間であるようで日本語ではない別な言語で会話している。
「アルカさん、あの二人が何喋ってるか分かる?」と小声で訊ね
「少々お待ちを……翻訳可能です。私を介して翻訳しますので接続しますね」
そういうとアルカは首の後ろに回りこむと首筋に光を当てた。男女二人はその様子に気づいておらず、会話しながら進んでいる。
「どうせ、綺麗な女の子だから助けたんでしょーがね」
「そういうなって。人助けは大事だろ?」
「あのー……そろそろ手を離して頂けないでしょうか? 自分で歩けますので」
男はハッと気がつくと「お、悪いな。」そういって離した。
「あんた、怪我は?」とぶっきらぼうに金髪の女性が訊ねてくる。
「あ、ないです。」
「まぁ、とりあえず急ぐぞ。日が沈む前に森をでないとな」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
結城たちがいた森から少し離れた平原、既に日は落ち辺りは暗闇に飲まれていた。結城たちと赤い髪の男と金髪の女は火を囲みつつ野営を行っていた。
「すみません、助かりました」とアルカが男女に対してお礼を述べている。
「おう、気にすんな。ただあんな森で何してたか、聞かなきゃいかん。」と赤い髪の男。彼は背中に2本剣を差し硬そうな革鎧を来ている。左の心臓に当たる部分には宝石のような石が埋め込まれており火に照らされて揺らめいていた。
「何から説明すればいいか、まだ整理がつかなくて。えーとお二人は?」
「……ヒルデ」と金髪の女性。弓を背負い腰には短めの剣を差している。男に比べて軽装ではあるが革鎧をきており同じように胸には石が埋め込まれている。この場にいる誰よりも特徴的である尖った長い耳が目立つ。日本人であればこういうだろう。エルフっ娘と。
「ガルドだ」
「結城です。このたびは本当にありがとうございました!」と座ったまま頭を下げる結城。
その様子を二人はキョトンとし、会話が途切れてしまった。
「えー……よくわからんがどこかの国の「ねぇ、ガルド! あれ! アーティファクトじゃない!」ああん?」
結城はバックパックを背負ったままだったので後ろの銃がヒルデの目に入った様だ。
「あん? 嬢ちゃん、すまんが背中のそれ、よく見せてくれないか?」
「嬢ちゃん? とりあえず、これの事ですかね?」
結城はスナイパーもどきを彼らに見せるように取り出す。
「結城。取扱の難しい物ですから渡しては行けませんよ。爆発して恩人を怪我させるわけにはいきません」
その言葉を聞くやない結城の横っ手から伸びる腕が引っ込んだ。ヒルデの腕だ。
「なに? それそんな危ないの?」
「ええ、とても危険です。もし取扱いを間違うと手や指がなくなりますからね」
とても怪訝な表情をしながらガルドの側に戻るヒルデ。
「アーティファクトといい、その『精霊』といい、嬢ちゃん、ほんとなにもんだ?」
「えーと「私が説明します。彼は私とこのアーティファクトが眠っていたところに急に現れましてね。主になれそうな素質もありましたので私と契約し保護しました。といってもあの森は危険すぎました。危うくせっかくの主を失う所をあなた方に救って頂いた次第です」
結城は間抜けな表情でアルカを見る。
「彼は私の所に来た時には既に記憶を失っていました。ですが契約した影響で戦闘は可能でしたので戦いながら逃げていたのです」
「ほう……まさか『呼ばれ人』か! 黒髪の特徴も合う!」
「ガルド、たしか最近『呼ばれ人』が来たって噂あったわよ。リサが話してた」
「だから『輝石』も持ってないのか! こりゃあ、街まで送ってギルドで聞かないとな!」
「えぇ……」
結城はよく分からないまま、彼らが納得していく様に脱力していた。アルカは結城の横で謎の舞をしている。
「事情はまたギルドで聞かれるだろうからひとまずはおしまいにして飯でも食って寝るか! 嬢ちゃん、何か食うもの持ってるか? ないなら俺らの分を食うか?」
ヒルデはどこからともなく干された肉らしき物と硬そうなパンを取り出していた。
「すみません、食べ物はなにもなくて……よかったら分けてもらえますか? 後、俺男です」
ビタッと動きを止めるヒルデ。
「……君、男の子?」
「はい、そうですけど……」
「なんだぁ、そうよねぇ!ガルドにこんな美人な女の子と縁なんてできるわけないわよねぇ! あ、よかったらこれ食べて食べて!」
急に距離感を開けていたヒルデの態度が軟化し、ガルドも「おい、どういう意味だ」と食料をヒルデから受け取る。
ふと、思い出した様に空腹に襲われた結城はもらった食料を受け取り、ヒルデにお礼を伝えつつ頂く事にしたようだ。硬さに苦戦しながらも平らげ、そのまま彼らの夜は更けていった。
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