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第2章 子から幸せを…
第40話 家とのお別れ
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「ただいまー」
帰ってきた進吾の声が誰もいない家に響く。医者に提案された通り、家に帰って泊まらせることにした。家を見られるのは、きっとこれが最期なのだろう。それを察知し、医者は提案してきたのだ。
「はい、おかえりー」
進吾は車イスから降り、いそいそとリビングのソファーのところ、壁に手を添えながら歩く。私がリビングに入った時には、進吾はソファーに寝そべり目を閉じていた。
「進吾、寝ちゃうの?」
「んー……わかんない」
言葉では曖昧にしていたが、疲れていて今にも眠そうな声をしていた。久々に家に帰ってきて、尚且つ家にいられるのも最期なのだから起きていて欲しいと思ってしまう。だが、進吾の体調を考えると、肯定する以外なにも言えなかった。
「いいよ。とりあえず寝てな?」
旦那も車を停めて家に帰ってきた。ソファーで眠る進吾を見て目を少し大きく開いた。
「あれ?寝ちゃったの?」
「疲れてるみたいだし、これ以上体調を崩してほしくないし……」
一瞬間を置いて思い悩んだ表情を見せたが、仕方ないと思い、うなずいた。その間に私と旦那はお風呂を済ませた。
1時間程経つと、進吾が目を覚ました。隣にいた旦那が気づき、先に声をかけた。
「進吾起きたか。おはよう」
「んー……おはよ」
目を擦りながら声のした旦那の方を見た。
「体調は大丈夫か?疲れてないか?」
「うん。たぶんだいじょうぶ」
「そうか、なら良かった」
進吾の様子に安堵した私と旦那は進吾にある提案をしてみる。
「進吾、多分お家に帰ってこれるのはこれが最期になると思うの。だから後で家の中たくさん見て回らない?」
進吾が寝ている間、私と旦那で考えたことだ。色々不安でいっぱいだが、まだ自分で歩ける内に家を見て欲しかったのだ。
「そうする!」
元気よく返事をして、ソファーから立ち上がった。進吾は壁に手をつけ、家中の部屋の景色を目に焼き付ける冒険を始めた。私もその冒険のお手伝いとして、カメラで動画を回しながら一緒に巡る。
今いるリビングとキッチンから出発した。ソファーやテーブル、テレビが置いてあるだけでいつもと変わらない光景だ。ぐるりと一周した後、廊下に出た。
「ゆっくり気をつけて歩いてね?」
「だいじょうぶ!」
進吾の後ろ姿を動画や写真を撮りながら一緒に回る。トイレとお風呂、家族3人で寝る寝室と順々に家の中を見て回った。
「ひさびさにみたー」
「そうだねー。ずっと病室じゃつまらないでしょ?」
「うん」
進吾にとっては今までいた自分の家の景色が懐かしく新鮮なようで、どんどんと気分が高まっていく。
最後に残ったのは進吾の部屋だった。進吾は自分の部屋の扉を開けて入った。電気を点ければ、部屋を彩っていた物が減り、少し寂しくなった部屋が進吾を出迎えた。まだ部屋にあったのは机やイス、ランドセルや教科書、本やおもちゃなどだ。壁にはハロウィンの時に着た魔法使いの衣装と、花火大会の時に着た法被が掛けられている。
「うおー!なつかしいー!」
「病室に持ってったから結構スッキリしちゃったね」
自分の部屋を見てテンションが上がった。おもちゃと本のある棚に行き、引っ張り出す。
「とりあえず進吾のお気に入りの本とかおもちゃは病院に持っていったけど、他に欲しい物とかある?」
「じゃあこれとこれと……」
何個か選んでいくが、取捨選択が苦手な進吾が示したのは、部屋に残っている物のほとんどだった。
「多いな……病院の机に置ききれないだろうし、下とか邪魔にならないところに置くかな……」
結局部屋に残ったのは、家具や学校の物、数個のおもちゃと数冊の本に洋服だけだった。
「よし!ぜんぶみた!」
「よーく覚えとくんだよ?」
「ぜったいわすれないから!」
自尊満々に笑顔で進吾は言い張った。その表情を見て自然と私も笑顔になった。
家中を見終わり、進吾はソファーにどさっと座った。眠くなるまで3人で今日の江ノ島でのことを振り返って話をしていた。その日は久しぶりに寝室で親子3人で寝れた良い日であった。
翌朝、進吾は9時頃に目が覚めた。朝ごはんを食べ、リビングのソファーでだらっとしながらテレビを見ている。昼になれば、元いた病院に戻らなければならなかった。
「進吾、大丈夫?」
「うん。だいじょうぶ」
しばらく経っても静かにソファーに座っていた。後ろ姿からは哀愁が漂っていた。そんな進吾を挟む形で私たちは隣に座り、一緒にテレビを見て過ごした。
昼を告げるニュース番組が始まった。あっという間に出発の時間になってしまった。
「もうお昼か……」
「早いね」
旦那が腕時計を確認した後、ため息をついてゆっくりと立ち上がった。
「そろそろ行くか?」
進吾は虚ろな目でその場から動くこともなく、ただテレビを眺めていた。そして小さくうなずいた。重い腰を上げ、外に出る準備に取りかかった。外に出ると、進吾は車イスに乗り、私が車まで押して行く。その間、片時も家から目を離していなかった。こうして家と最期のお別れをした。
私たちは予定通り病院に戻ってきた。病室に入ると、車イスから進吾は降りてベッドの上に座る。そして身体を机のある方に向きを変えた。
「やっとできた!!」
すっかり気分が良くなった進吾は、机の上にあったノートを開いて、水族館の横にチェックを入れた。ノートを見れば、進吾のやりたいことの横に全てチェックが入っている。進吾のお願いを全て叶えることが出来たのだ。
「良かったー!進吾!よく頑張ったね」
そう言って進吾の頭を撫でる。進吾はなにか思い出したかのように私たちに話す。
「そういえば、ママとパパにわたしたいものがあるの」
進吾はやりたいことノートに挟んであった紙を2枚取り出した。
帰ってきた進吾の声が誰もいない家に響く。医者に提案された通り、家に帰って泊まらせることにした。家を見られるのは、きっとこれが最期なのだろう。それを察知し、医者は提案してきたのだ。
「はい、おかえりー」
進吾は車イスから降り、いそいそとリビングのソファーのところ、壁に手を添えながら歩く。私がリビングに入った時には、進吾はソファーに寝そべり目を閉じていた。
「進吾、寝ちゃうの?」
「んー……わかんない」
言葉では曖昧にしていたが、疲れていて今にも眠そうな声をしていた。久々に家に帰ってきて、尚且つ家にいられるのも最期なのだから起きていて欲しいと思ってしまう。だが、進吾の体調を考えると、肯定する以外なにも言えなかった。
「いいよ。とりあえず寝てな?」
旦那も車を停めて家に帰ってきた。ソファーで眠る進吾を見て目を少し大きく開いた。
「あれ?寝ちゃったの?」
「疲れてるみたいだし、これ以上体調を崩してほしくないし……」
一瞬間を置いて思い悩んだ表情を見せたが、仕方ないと思い、うなずいた。その間に私と旦那はお風呂を済ませた。
1時間程経つと、進吾が目を覚ました。隣にいた旦那が気づき、先に声をかけた。
「進吾起きたか。おはよう」
「んー……おはよ」
目を擦りながら声のした旦那の方を見た。
「体調は大丈夫か?疲れてないか?」
「うん。たぶんだいじょうぶ」
「そうか、なら良かった」
進吾の様子に安堵した私と旦那は進吾にある提案をしてみる。
「進吾、多分お家に帰ってこれるのはこれが最期になると思うの。だから後で家の中たくさん見て回らない?」
進吾が寝ている間、私と旦那で考えたことだ。色々不安でいっぱいだが、まだ自分で歩ける内に家を見て欲しかったのだ。
「そうする!」
元気よく返事をして、ソファーから立ち上がった。進吾は壁に手をつけ、家中の部屋の景色を目に焼き付ける冒険を始めた。私もその冒険のお手伝いとして、カメラで動画を回しながら一緒に巡る。
今いるリビングとキッチンから出発した。ソファーやテーブル、テレビが置いてあるだけでいつもと変わらない光景だ。ぐるりと一周した後、廊下に出た。
「ゆっくり気をつけて歩いてね?」
「だいじょうぶ!」
進吾の後ろ姿を動画や写真を撮りながら一緒に回る。トイレとお風呂、家族3人で寝る寝室と順々に家の中を見て回った。
「ひさびさにみたー」
「そうだねー。ずっと病室じゃつまらないでしょ?」
「うん」
進吾にとっては今までいた自分の家の景色が懐かしく新鮮なようで、どんどんと気分が高まっていく。
最後に残ったのは進吾の部屋だった。進吾は自分の部屋の扉を開けて入った。電気を点ければ、部屋を彩っていた物が減り、少し寂しくなった部屋が進吾を出迎えた。まだ部屋にあったのは机やイス、ランドセルや教科書、本やおもちゃなどだ。壁にはハロウィンの時に着た魔法使いの衣装と、花火大会の時に着た法被が掛けられている。
「うおー!なつかしいー!」
「病室に持ってったから結構スッキリしちゃったね」
自分の部屋を見てテンションが上がった。おもちゃと本のある棚に行き、引っ張り出す。
「とりあえず進吾のお気に入りの本とかおもちゃは病院に持っていったけど、他に欲しい物とかある?」
「じゃあこれとこれと……」
何個か選んでいくが、取捨選択が苦手な進吾が示したのは、部屋に残っている物のほとんどだった。
「多いな……病院の机に置ききれないだろうし、下とか邪魔にならないところに置くかな……」
結局部屋に残ったのは、家具や学校の物、数個のおもちゃと数冊の本に洋服だけだった。
「よし!ぜんぶみた!」
「よーく覚えとくんだよ?」
「ぜったいわすれないから!」
自尊満々に笑顔で進吾は言い張った。その表情を見て自然と私も笑顔になった。
家中を見終わり、進吾はソファーにどさっと座った。眠くなるまで3人で今日の江ノ島でのことを振り返って話をしていた。その日は久しぶりに寝室で親子3人で寝れた良い日であった。
翌朝、進吾は9時頃に目が覚めた。朝ごはんを食べ、リビングのソファーでだらっとしながらテレビを見ている。昼になれば、元いた病院に戻らなければならなかった。
「進吾、大丈夫?」
「うん。だいじょうぶ」
しばらく経っても静かにソファーに座っていた。後ろ姿からは哀愁が漂っていた。そんな進吾を挟む形で私たちは隣に座り、一緒にテレビを見て過ごした。
昼を告げるニュース番組が始まった。あっという間に出発の時間になってしまった。
「もうお昼か……」
「早いね」
旦那が腕時計を確認した後、ため息をついてゆっくりと立ち上がった。
「そろそろ行くか?」
進吾は虚ろな目でその場から動くこともなく、ただテレビを眺めていた。そして小さくうなずいた。重い腰を上げ、外に出る準備に取りかかった。外に出ると、進吾は車イスに乗り、私が車まで押して行く。その間、片時も家から目を離していなかった。こうして家と最期のお別れをした。
私たちは予定通り病院に戻ってきた。病室に入ると、車イスから進吾は降りてベッドの上に座る。そして身体を机のある方に向きを変えた。
「やっとできた!!」
すっかり気分が良くなった進吾は、机の上にあったノートを開いて、水族館の横にチェックを入れた。ノートを見れば、進吾のやりたいことの横に全てチェックが入っている。進吾のお願いを全て叶えることが出来たのだ。
「良かったー!進吾!よく頑張ったね」
そう言って進吾の頭を撫でる。進吾はなにか思い出したかのように私たちに話す。
「そういえば、ママとパパにわたしたいものがあるの」
進吾はやりたいことノートに挟んであった紙を2枚取り出した。
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