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第2章 子から幸せを…

第38話 暇潰し

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1人の男の子が病室のベッドで静かに横になり、窓の外の空を眺めている。白いカーテンがゆらゆらと揺れ、冷たい冬の風が部屋に吹き込んでくる。

「体調はどう?」
「だいじょうぶ!げんき!」

こちらに顔を向け、元気そうに進吾は答える。

「そう…良かった。お腹空いた?」
「まだすいてないかな」
「そっか……」

前と比べて食欲が落ちてしまったことを実感する。少し間を置いたあと、思い出したかのように話す。

「そうそう、これ昨日言ってたやつね。適当に持ってきたけど、これで大丈夫?」

私は大きめの袋を進吾の隣にある机に置く。その中にはゾウのぬいぐるみ、栃木で買ったお土産、やりたいことノート、ゲームなど、進吾の部屋にあったものだ。進吾は袋からぬいぐるみを取り出し、それを見つめて口角を上げる。

「うん!ありがと!」

満面の笑みでお礼を言う。静かで物寂しかった病室は、ぬいぐるみやゲーム機で賑やかに見えた。

「よし、暇だし遊ぶか!」
「いいよ!」

そうして私たちはミニテーブルをベッドの近くに移動させ、ボードゲームを広げた。

「かつぞー!」
「私も負けないよ!」

人生ゲームやトランプ、将棋など1日中遊んで暇を潰していた。


そんなある日、いつも通り私と旦那で進吾のもとを訪れた。すると看護師が心配そうな表情で進吾を見つめていた。

「どうしたんですか?」
「あぁ親御さんですか。進吾さんが先ほど呼吸困難と嘔吐をしてしまいまして……」

進吾の体調は徐々に良くなっていってるものの、まだ体調は安定していなかった。

「そうですか。ありがとうございます」

お辞儀をし、お礼を告げた。看護師は微笑んで会釈をする。

「またなにかありましたらお申し付けください」

そう言って看護師は退室した。私は進吾の隣に座り、手を握る。

「今はもう大丈夫?」
「うん……」

進吾は返事に元気がなく、疲れた様子だった。しばらくすると進吾はぐっすりと眠っていた。旦那がふと思い、呟いた。

「最近は頻繁に寝るようになったね」

思い返してみれば、ここ数日も昼まで寝ていることがあったり、度々仮眠を取ることが多かった。

「闘病中だししょうがないよ」
「とりあえず今後体調が安定してくれれば良いんだけどな……」


入院してから3週間が経過して、医師と私と旦那だけで話をすることにした。それは進吾の状態と"余命"についてだ。

「進吾さんの今の状態は、入院時」りも比較的良くなってきています。ですが、体の筋肉は弱くなってきているため、長時間歩くことは避けた方が良いでしょう」
「あの……外出許可は下りるんですか?」

医師は旦那の話を聞いて、何度か頷きながら話す。

「車イスでの移動なら、可能だと思います」

その瞬間に思わず旦那と目を見合わせた。お互い自然と笑みがこぼれた。

「本当にありがとうございます」
「もし外出なさるなら、最期に1度、ご自宅にお帰りになり、泊まられることをおすすめします」

医師は温かみのある言い方で私たちに提案した。

「余命についてはまだ具体的には判断できませんが、残り1ヶ月弱といったところでしょう」

咄嗟にスマホの日付を確認した。表示された日付は11月27日。つまりこの日程近くに進吾は亡くなるとのことだ。

「そうですか……」
「はい。ですが進吾さんも頑張っているようで、余命も少し延びて体調も良くなっています。ぜひたくさん褒めてあげてください」

食欲不振や倦怠感は未だにあるものの、確かに呼吸困難や嘔吐は滅多に起こらなくなった。その話を聞いて思わず笑みがこぼれる。

「お辛いでしょうが、進吾さんのためにもご両親に頑張っていただきたいです」
「ありがとうございます」

深々と頭を下げ、診察室を後にし、私たちはいそいそと進吾のいる部屋に戻る。扉を開けて旦那が進吾に言った。

「進吾、嬉しいお知らせがあるぞ」
「なにー?」

テレビを見ていた進吾がこちらを見て、尋ねる。旦那はニコニコしながら告げた。

「お外出て良いってよ」
「ほんと!?」

目と口を大きく開き、目で私に聞く。私はそれに答えるようにうなずき、微笑む。

「うん。本当だよ」
「やったーー!」

進吾は持っていたぬいぐるみを強く抱きしめた。

「じゃあすいぞくかんいけるの?」
「うん。車イスに乗らなきゃダメみたいだけどちゃんと行けるよ」

進吾は特に車イスに乗ることに不満に感じていなさそうだった。

「そうそう、東京の水族館はたくさん行ったから他のところ探してみたんだけど……」

旦那はウキウキでスマホで調べ、自分が考えた水族館の候補を進吾に見せる。

「そうそう、こことかどうだ?」

スマホの画面を覗いてみると、"江ノ島水族館"と映し出されていた。

「江ノ島水族館っか。そういやまだ行ったことなかったね」
「そうそう。しかもさ、ちょうどライトアップがされるらしいよ!」

詳細を見てみると、夜になると江ノ島のシーキャンドルという展望台を中心にイルミネーションがされるようだ。

「良いタイミングじゃん。それとも進吾は他の水族館行きたい?」

進吾は目をキラキラさせて答えた。

「ここいってみたい」
「よし、じゃあ行くか!多分行けるのは明後日になるから準備しとくんだぞー?」

進吾も楽しみにしている様子だが、1番テンションが上がっているのは旦那だった。

「とりあえず予定とか決めとくよ?」
「じゃあよろしくね」

そう言うとすぐに移動時間やイルミネーションの開始時間などを黙々と調べていた。まだ準備する時間は明日もあるのに、その日の内に計画を立て終わっていた。
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