まだ余命を知らない息子の進吾へ、親から生まれてきた幸せを…

ひらりくるり

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第2章 子から幸せを…

第35話 トリック・オア・トリート

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ハロウィン数日前の我が家では、気合いが一段と入っていた。早速進吾が今年着る仮装を考え始める。

「このゾンビかっこいいー」
「ゾンビねえ……」
「オバケもあるよー」

仮装するのを提案したは良いが、これからの進吾のことを考えると、ゾンビやお化けに仮装するのは、なんとも不謹慎な話だと思う。進吾が仮装したいものを尊重したいが、こちらとしてはとても複雑だ。するとある衣装に進吾の興味が向いた。

「このコウモリのやつとまほうつかいのやつかっこいい!」
「これいいね!進吾に似合うと思うよ!」

見た目は普通の魔法使いのローブに帽子があるものだ。しかし、後ろを向くとローブの真ん中にカボチャの目と口が大きく白色でプリントされている。そのため、広げるとコウモリに見えるという仕組みだった。

「洒落たもん選ぶなー」
「ね!こういうの初めて見たかも」


そして迎えたハロウィン当日、進吾もウキウキの様子で着替えた。進吾の体力や旅行であった熱などを心配して、複数の店ではなく1つのお店を回ることにした。そのお店ではパンプキンやお化け、魔女などの置物や絵が飾られている。オレンジ色のカボチャのかごにたくさんお菓子が入っていた。持っているお姉さんに子供たちは列をなして、お菓子を貰っている。

「とりっく・おあ・とりーと!」

と子供たちの元気な声が店内に響き渡る。それを聞き、お姉さんも笑顔でお菓子を渡しながら言う。

「ハッピーハロウィン!」

ゆっくりと前に進んでいき、いよいよ進吾の番になった。

「トリック・オア・トリート!」
「はーいありがとう。かっこいい衣装だね!」

そう言われると、進吾は少し恥ずかしそうにうなずいた。そしてお姉さんは持っていたかごを進吾に見せた。

「じゃあこの中に好きなお菓子ある?」
「これにする」

進吾はチョコのお菓子を選び取った。

「ハッピーハロウィン!」

手を振っているお姉さんを背に、その場を去った。せっかくお店にいるので、進吾の食べたいお菓子を買ってから家に帰ることにした。

最近は進吾の寝る頻度も多くなっているため、帰って早々に進吾は寝てしまった。その間、私は早速パーティーの準備にとりかかった。


「んー……ねてた」
「おはよー。よく寝てたなー」

寝ていた進吾が目を開いた。そのときには既に準備はできており、あとは、料理をテーブルに並べるだけだ。

「えなにこれ!」

そして部屋にはカボチャやコウモリなどの切り絵を貼り、ハロウィン感を出してみたのだ。

「せっかくだから飾ってみたの。どう?」
「おーハロウィンってかんじするー!」

我らが魔法使いもご満悦の様子だ。

「進吾も起きたし、ご飯にしよっか!」

そう言っていよいよ料理を運び始めた。進吾はテーブルにあったお菓子を見ていた。

「後でお菓子食べようね」
「うん!でもたべれるかなー……」
「明日にでも食べれるんだからそんな急ぐことはないんじゃないか?」
「わかったー」

テーブルの真ん中には大きなピザを置き、取りやすいように小皿をみんなの前に用意した。また、カボチャやさつまいもを使った料理も並べ、楽しむ準備はできた。

「「「いただきまーす」」」」

ピザを取って口に運ぶ。

「美味しー!久々に食べたかも」
「みてみて!ちょーのびる」

進吾の方を見ると、チーズがよく伸びていた。進吾の驚きの表情に私と旦那でハハハと笑う。反応を見て進吾もクスッと笑う。とても10月末とは思えない温かい空間になっていた。


やっと進吾の気分も良くなり、これから残りの1、2ヵ月を明るく過ごそう。そう思っていた。温かかった雰囲気は突然一変する。

「進吾!」

夕食が終わって少し経ち、私はお菓子を持ち、テーブルまで持っていこうとした時のことだ。突然、進吾が大きく咳き込み始めた。上手く息が吸えていない様子だ。すぐに進吾の元へ駆け寄り、椅子に座らせた。

「落ち着いて。テーブルに腕乗せて」

少し前に医者に言われた方法を思い出し、実践させた。テーブルに腕を乗せ、少し前屈みにする。するとリビングのドアが勢いよく開いた。

「進吾!大丈夫か?」

異変を感じて部屋から出てきた旦那が救急車を呼ぶ一歩手前で、進吾の呼吸は安定してきた。

「大丈夫?上手く息吸える?」
「……うん」
「何かまた変なことあったら遠慮しないで言ってね」

私たちは一安心するとともに、心配や不安が次々に浮かんでくる。進吾は少し考えた後、ゆっくりと足を指して言ってきた。

「そういや足がなんかへんなの」

確認してみると、足にむくみができていた。これはがんの症状にもあるものだ。まだ不快感だけで済んでいるものの、がんは静かに進行してきていた。
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