まだ余命を知らない息子の進吾へ、親から生まれてきた幸せを…

ひらりくるり

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第2章 子から幸せを…

第34話 旅行ロス

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私たち家族は無事に旅行から帰ってきた。家についてからはどよんとした空気が漂っていた。進吾に至っては旅行の虚無感が数日間続いていた。

「最近進吾元気ないね」
「それだけ楽しかったんだろうな。楽しんでくれたのは嬉しいけど、こうも悲しまれるとな……」

また進吾は体調を徐々に崩しやすくなってきた。10月は気温の変化も激しく、風邪を引きやすい時期だ。それだけならばまだ良いのだが、心配なのが、癌の悪化だ。気温によるものなのか、はたまた癌の症状によるものなのか、とても紛らわしく判断ができない。

「体調が安定してないね。水族館行っても途中で体調悪くしないか不安だな……」
「当分は休ませて様子を見ないとだな。元々進吾、これぐらいの時期になると体調崩しやすいから」

本来ならば来週の土曜日にでも、残っていた進吾のやりたいことである、水族館に行くことを叶える予定であった。そんな不安と心配に思いながら過ごす日々が少しばかり続いた。


だがそんなある日、進吾が以前と同じような明るさを取り戻したのだ。
旦那はたまたまカレンダーを確認し、次の月のページをめくる。

「あと2週間ぐらいで10月も終わりか」
「あっという間だよね」

振り返れば本当に一瞬で時が過ぎていった。そう思いながら私もカレンダーを確認する。すると10月31日に何か書き込んでいた。

「そう言えばハロウィンも近づいてきたね」
「あーそうだったな。パーティーやるみたいな言ってたっけ?」
「せっかくだしやりたくない?」

もしかしたら進吾にとって、最期の季節行事になるかもしれない。全力で楽しんで欲しいため、何かしらハロウィンの日にやりたかったのだ。

「なにするのー?」

進吾もハロウィンに興味を持ったようで、話に入ってきた。

「特にまだ決まってないんだけど、お家で美味しいご飯でも食べようかな。何か食べたいものとかある?」
「ピザたべたーい」
「じゃあピザでも注文して食べよっか!」

それを聞くと進吾の口角も少し上がっていた。旅行後の楽しみがあればきっと進吾もまた元気になってくれるだろう。

「おー良かったな進吾!」
「でもどっかそといきたいなー」

しかし、今の様子を見る限り、外に出れるかは半々といったところだろう。そして進吾が外に行きたいと言っているが、どこに行くかアイディアが出てこなかった。水族館に行くにしてもきっとはしゃぎ疲れてご飯の前に寝てしまうかもしれない。それに何より、ハロウィン感があることをしたいと思っていた。そんな時にふと思いついた。

「もし進吾の体調が良かったらさ、色んなお店でお菓子くれるから仮装して一緒に貰いに行こうよ!」
「行くー!なんのカッコウにしようかなー」

ハイテンションの進吾を見たのは、旅行の日以来かもしれない。進吾の笑顔に私と旦那はホッと一息をし、目を見合わせる。

「そうそう。元気にはしゃいどくんだぞー?」
「はーい」

久しぶりに我が家は晴れ、日光に照らされて明るく、賑やかになった気がする。旅行ロスはすっかり止んだようだった。
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