まだ余命を知らない息子の進吾へ、親から生まれてきた幸せを…

ひらりくるり

文字の大きさ
上 下
30 / 42
第2章 子から幸せを…

第30話 旅行先でのハプニング

しおりを挟む
山の中を車で走り続け、目的地の今日から泊まるホテルが見えてきた。駐車場に車を停め、建物の中に入る。ロビーでチェックインを済ませ、いよいよ宿泊する部屋とご対面だ。

「今回はパパと話し合って、お高い部屋にしてみたんだー!」
「ありがとー!たのしみだなー!」
「そんな先行っても鍵持ってるのは俺だぞー?」

進吾はすいすいと先に歩いていき、廊下の端にある扉の前で足を止めた。

「ここのおへや?」
「正解。鍵開けるぞー」

鍵を差し込み、捻る。ゆっくりと扉を開けた先にはユニット畳に、温かみのある照明、イスやテーブルにテレビ、ベッドが備えられた和洋室だ。

「うおーーすごーーい!!」

大はしゃぎな進吾。荷物を置いてすぐに、部屋の隅々を探索しに行く。

「おふろやばい!きれー!」
「うわぁほんとだ!良い景色!」

窓を見てみれば、高いところから渓谷が見下ろせる構図になっていた。自然に囲まれ、景色を一望できる最高のお風呂場だった。

「いい部屋予約しといて良かったー」
「ここに住みてー」

ぜひ旦那の昇進に期待しておこう。部屋の探索も終わり、進吾も午前午後の疲れがないかのようにはしゃいでいた。私と旦那はイスに座り、コーヒーを飲みながらぐったりとしていた。


「あっそろそろ飯の時間だ」
「まってましたー!」

宿泊先での楽しみの内の1つである食事だ。今日はかなり歩いたり、遊んだため、いつも以上にお腹が空いている。部屋の鍵を持ち、夕食の場所へ向かう。

「夕食の時間だー!」

ビュッフェ形式の食事だ。お刺身や天ぷらだけでなく、ステーキにピザ、スイーツも豊富にあり、どれを食べるか迷うほどだ。正直な話、見たもの全て食べたいが、お腹の容量がそれを許してくれないため、吟味する必要がある。自分達の席に着き、早速進吾と選びに行くことにした。

「何にしよっかなー。悩んじゃうね」
「たくさんたべるぞー!」
「そうだよ。せっかく来たんだからたくさん食べな?」

野菜だけでなく、ステーキやお刺身など、普段は気軽に食べれないものを多めに手に取った。

「うまそー。俺も取ってくるわ」

席に戻り、テーブルに置くと旦那が羨ましそうに見てきた。どれも美味しそうで良い匂いがする。少ししたら旦那と進吾が一緒に戻ってきた。

「よし、今日1日お疲れ様!いただきまーす」
「「いただきまーす」」

野菜もシャキシャキで美味しく、ステーキの焼き加減といい、柔らかさも普段では味わえないような美味しさだった。

「めっちゃ美味しい!お肉とか柔らかくて食べやすいよ」

「ほんとだ!美味しい!」
「あつっ」

声がした方を見ると進吾が天ぷらを持って、唇を抑えていた。

「揚げたてなんだからそりゃ熱いよー」

こう見ると、やはり以前よりも進んで食べるようになっている。癌の症状も抑えられてきているのかもしれない。

「進吾、最近食べるようになってきたね?」
「今日はちょーつかれたんだもん」
「そうだね。お疲れ様。ちょっと歩きすぎたかもね」

少しずつ健康的になっていく進吾に、安堵していた。


だが、その日の夜、突然出来事が起こった。進吾が体調が悪いと言ってきたのだ。額に手を当てると熱く、熱があるようだった。

「えー、どうしよ。熱っぽい」
「一旦体温測ってみたら?」

一応持ってきた体温計で測ってみることにした。本当にネットのアドバイス通り、念のため持ってきて正解だった。

「37.8℃だって……明日どうする?」

本来ならば明日は1日中、日光周辺を散策する予定だった。3日目はお土産を選んだり、周辺の観光スポットを軽く周り、帰ると決めていた。

「それは明日の様子見てから考えるか。とりあえず、冷やして今日は早めに寝かせないとな」

進吾をベッドに横たわらせ、身体を冷やし、そのまま寝かせることにした。

「何かあったらすぐ言ってね。寝るまでは傍にいるから」
「うん。ごめん」
「大丈夫。旅行先で体調崩すなんて、子供には良くあることなんだから」

頭を撫で、寝るのを見守っていた。その時色々考えた。今日の食事で何かあったのか。はたまた、持病が悪化したのか。癌によって熱が出ることもあると医者から以前聞いていた。そしてその目安がちょうど37.8℃。その場合、すぐに病院に連れて行かなければいけない。最悪の場合を考えていると進吾はぐっすりと寝ていた。

「進吾寝たけど明日どうする?」
「体調が良かったら予定通りにしようと思うけど……悪化してたら病院か家に帰るかだな」

進吾も楽しみにしていた家族旅行が途中で終わる可能性が出てきた。これまでの様子からすっかり油断をしていた。嫌と言う程、辛い現実が思い出されるような気がした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ぼくたちは異世界に行った

板倉恭司
ファンタジー
 偶然、同じバスに乗り合わせた男たち──最強のチンピラ、最凶のヤクザ、最狂のビジネスマン、最弱のニート──は突然、異世界へと転移させられる。彼らは元の世界に帰るため、怪物の蠢く残酷な世界で旅をしていく。  この世界は優しくない。剥き出しの残酷さが、容赦なく少年の心を蝕んでいく……。 「もし、お前が善人と呼ばれる弱者を救いたいと願うなら……いっそ、お前が悪人になれ。それも、悪人の頂点にな。そして、得た力で弱者を救ってやれ」  この世界は、ぼくたちに何をさせようとしているんだ?

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

【短編集2】恋のかけらたち

美和優希
恋愛
魔法のiらんどの企画で書いた恋愛小説の短編集です。 甘々から切ない恋まで いろんなテーマで書いています。 【収録作品】 1.百年後の未来に、きみと(2020.04.24) →誕生日に、彼女からどこにでも行ける魔法のチケットをもらって──!? 魔法のiらんど企画「#つながる魔法で続きをつくろう」 で書いたSSです。 2.優しい鈴の音と鼓動(2020.11.08) →幼なじみの凪くんは最近機嫌が悪そうで意地悪で冷たい。嫌われてしまったのかと思っていたけれど──。 3.歌声の魔法(2020.11.15) →地味で冴えない女子の静江は、いつも麗奈をはじめとしたクラスメイトにいいように使われていた。そんなある日、イケメンで不真面目な男子として知られる城野に静江の歌と麗奈への愚痴を聞かれてしまい、麗奈をギャフンと言わせる作戦に参加させられることになって──!? 4.もしも突然、地球最後の日が訪れたとしたら……。(2020.11.23) →“もしも”なんて来てほしくないけれど、地球消滅の危機に直面した二人が最後に見せたものは──。 5.不器用なサプライズ(2021.01.08) →今日は彼女と付き合い始めて一周年の記念日。それなのに肝心のサプライズの切り出し方に失敗してしまって……。 *()内は初回公開・完結日です。 *いずれも「魔法のiらんど」で公開していた作品になります。サービス終了に伴い、ページ分けは当時のままの状態で公開しています。 *現在は全てアルファポリスのみの公開です。 アルファポリスでの公開日*2025.02.11 表紙画像は、イラストAC(がらくった様)の画像に文字入れをして使わせていただいてます。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...