まだ余命を知らない息子の進吾へ、親から生まれてきた幸せを…

ひらりくるり

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第2章 子から幸せを…

第26話 家族のキャッチボール

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「えっと、どこやったかな」
「何探してるの?」

次の日になると旦那は帰ってきてから、旦那は自室にある収納ボックスをガサガサと漁っていた。

「いや、ボールとグローブだよ。グローブちょうど3個あったんだよね」
「そんなにグローブって持っておくもんなの?」
「俺の場合はメインで使うやつで1個、予備で1個、親父が昔使ってたグローブで1個って感じ」
「お父さんもやってたんだ」

そう話していると、箱からグローブを天高く持ち上げた。どうやら発見したようだ。

「やっと見つけた。捨ててなくて良かった」

グローブ3つとボールを床に置き、バッグにしまった。

「今度の休みの日に野球しに行こうよ」

すぐに行くわけでもないのに、いそいそと準備し始めた。相当楽しみなんだろう。


その週の休日、昼頃に旦那がグローブとボールを持って進吾に話しかけた。その姿はまるで野球少年だった。

「進吾ー、野球しようぜ」
「はーい」

どこか聞き覚えのあるセリフを旦那が口にしたが、2人ともスルーして準備を始める。曇った空、寒すぎず、暑すぎない過ごしやすい温度の昼間。旦那はバッグを肩にかけ、私たちの先頭を切って公園へ歩いていった。


「パパってやきゅうやってたんだー」
「そーだぞー。昔はもっと上手かったんだけどね。今はもう歳で無理だね」
「あれ、そんな上手かったっけ?」
「守備は自信あったよ。打撃は散々だったけど…」

会話をしながら2人でキャッチボールをしていた。一方私は動画を回す準備をしていた。正直私は運動が得意ではない。そのため、ボールがカメラに当たって壊さないか不安だ。

「ハシビロコウに似てるのによく動く位置にいたんだね」

滅多に動かないハシビロコウと守備で右往左往と駆け巡る旦那を考えると、対照的で似ているイメージがない。共通点は普段の雰囲気なのかもしれない。

「どこが似てるんだよー」
「いつもあんまうごかないとこ」
「いやどういうことだ?」
「よし私も参戦するぞー」

三角形を描くようにカメラから少し離れた横に私、カメラの反対方向に旦那と進吾がいるような形だ。グローブを手にはめた。旦那からゆるっとしたボールが投げられ、しっかりとキャッチした。誰かとキャッチボールをするなんて高校の体育以来で、懐かしい昔の思い出が頭をよぎる。

「私、野球苦手だったな。ボール怖くて全然捕れなかったし」
「ぼくもたかいボールはむり」
「まあボール速いし硬いからね。落ちてきたやつとか結構痛かったし」

恐らく旦那はそのことに配慮して、速度はゆっくりにしていて安心して捕りにいけるようにしていた。また、捕りやすい位置に投げてくれるため、ミスも少なく済んだ。流石は元野球部の実力なんだと分かる。これには進吾も旦那を褒めていた。

「パパうまーい」
「でしょー。昔は投球のコントロールも上手いって言われてたなー」

そう言ってカメラ側にいる私に向かってボールを投げた。その時話すのに夢中になっていたのか、投げる方向が少しズレてしまった。

「あっ」

3人とも声を合わせてその場に固まった。旦那の見事なコントロール力で、カメラと三脚の間に命中し、カメラごと倒してしまった。確認してみるとどこにも異常がなく、ホッと安心した。褒められた途端にミスをするのはとても旦那らしかった。視線を旦那の方にやると、固まって微動だにしない様子についつい笑ってしまう。これ以降"ボールのコントロールが上手い"と言うことはなくなったのであった。
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