まだ余命を知らない息子の進吾へ、親から生まれてきた幸せを…

ひらりくるり

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第2章 子から幸せを…

第25話 親のやりたいこと

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「身長伸びたかなー?」
「ずっとねてたからのびてるかも」
「"寝る子は育つ"だもんね」

運動会から2日が経った時のお話。私と進吾は進吾のやりたいことでもある、身長測定をしているところだ。進吾は家にある壁にピタッと背中をくっつけ、そのままジッとしていた。

「じゃあ測るよー?」

メジャーを取り出し、床から進吾の頭のてっぺんまで測る。手を頭の上に置き、区切ったところの目盛りを見てみる。

「おー、いい感じだよ」
「ほんとー?」
「あーほら、頭動かしてちゃ測れないよ~?」
「はーい」

目盛りを手でしっかりと抑え、進吾にも見せる。

「2センチも伸びてるよ。良かったね」
「いぇーい」

夜になれば、旦那も帰ってきて家族3人の時を過ごしていた。すると進吾は部屋に行ったかと思うと、突然部屋から猛スピードでリビングまでやってきた。

「じゃじゃーん」

見せてきたのは、黒い線で横に2マス、縦に4マスと四角く区切られた白い紙2枚だった。

「どうしたー、進吾?」
「ママとパパにはこれに"やりたいこと"をかいてもらいます」
「私たちが?」
「そう!かいてぼくがかなえる。"ぼくがかなえる券"だよ」

名前を聞いたとき、ネーミングセンスをもう少しどうにかならなかったのかとは思った。だが、名前とは対照的に、内容はよく考えられていた。私たちがやりたいことを書き連ね、切り取ってそれを進吾に渡すと言う制度。集めた券は何かに使うようだったが、どうするのか気になるところではある。どちらにせよ発想力が豊かな子供らしいものだ。

「面白いこと考えたなー」
「進吾は他にやりたいことないの?」
「ないからこうしてるのー」

確かにやりたいことノート達成まで後少しだ。だから進吾にも心に余裕が出てきたのだろう。だが、いざ言われてみると何も頭に出てこなかった。

「これ全部埋めなきゃダメ?」
「ぜんぶじゃなくてもいいよ。たりなかったらうらにかいて」
「そうだなー。ちょっと考えても良いか?」
「うんいいよー」

そう言って私たちは紙を受け取り、しばらく考えることにした。いきなり聞かれると案外パッとすぐに思いつかなかった。


時刻は深夜1時、色々やっているとすっかり日付が変わっていた。

「そう言えば、これ何書こうかな」

リビングの机の上にあった"ぼくがかなえる券"を見つめる。紙の前に座り、ペンを持った。

「私のやりたいことか……」

私は真っ先に思いついたのは、家族での旅行だった。進吾の体調が良くなり、体力もついた今、実現しやすくなった。次に私がやってみたかったことは3人で料理を作ってみることだ。進吾が料理をできるとは思えないが、旦那と2人がかりで見守れば、安全にできるかもしれない。

その後も1人黙々と考えていた。そして私は行事ごとのことを考えた。この先ハロウィンやクリスマスが控えている。だからそのままペンを進ませていた。しかし、"クリスマス"という文字を書いている途中、手を止めた。そして私は書きかけの"クリスマス"の文字に横棒を2本いれた。

よくよく考えてみたら、気分を悪くする文字だと思ったのだ。進吾が余命を宣告されたのは6月17日。その半年後の月は12月。どんなに手術や治療を受けてもクリスマスの日まで生きていられる保証はない。そう思うと書かない方が幸せなのかもしれない。

私のやりたいこと
・家族旅行する
・3人で料理を作る
・進吾にゲームで勝つ
・ハロウィンパーティー

「よし、これで良いかな」

書き終え満足した時に、旦那が扉を開け、ゆっくりと入ってきた。

「まだ起きてたのか」
「そーなの。」
「俺も書いたんだよね」
「ちょうど私も書き終わったところ」

テーブルにお互い書いたものを置き、見合わせた。


旦那のやりたいこと
・ドライブ
・キャッチボール
・星を見に行く
・旅行


「やっぱ旅行行きたいよな」
「せっかくなんだし行きましょ」

深夜にも関わらず、自分達のやりたいことについて熱く語り合った。これから私たちは、また新たなことを叶え始めるのであった。




※現状の進吾のやりたいことノート

やりたいこと
☑️おいしいごはんをたべたい
☑️ともだちとあそびたい
☑️どうぶつえんにいく
□おさかなをみる
☑️はなびみたい
☑️せをのばしたい
☑️がっこうにいく
☑️じゅぎょうさんかんでてをあげる
☑️しゅじゅつする
☑️かぞくみんなでしゃしんをとる
☑️うんどうかいでいちいをとる
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