まだ余命を知らない息子の進吾へ、親から生まれてきた幸せを…

ひらりくるり

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第1章 親から幸せを…

第17話 距離感

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進吾から学校に行きたいと言われ、登校し始めた。退院した頃には夏休みはとっくに終わっていたが、数日休ませることにしていた。友達との関係は良好らしく、進吾が体調を崩しやすいことについても理解力があるらしい。良い友達を持ったなとつくづく思う。そして花火大会から2日が経った今、旦那と2人で家にいた。そんな時、ふと旦那が聞いてきた。

「進吾と何かあったのか?」
「え、なんで?」
「進吾が愛美と全く話してないからさ。何かあったのかと……」
「そうかな…?」
「それならいいんだけど、やけに距離を置いてる感じがして」

思い返してみても特に心当たりがない。強いて言うなら退院1週間前の気まずい雰囲気があったぐらいだ。しかし、その後は変な雰囲気にもならずに、普段通り関わっていた。

「具体的にどの辺が?」
「いや気のせいだとは思うんだけど、進吾から話しかけてきたことって最近あんまないし、返したとしても一言しか返ってこなくないか?」

花火大会のときを思い出すと、私から話しかけることは多かったが、前からずっと同じだったように感じる。

「前もこんな感じじゃなかった?」
「だったら問題ないか。最近やけに俺のところ来るようになったなーって思って」
「動物園のときもそうだったし、考えすぎでしょ」

だが、そう言われてしまうとついつい意識してしまう。だからさりげなく帰ってきた進吾に聞いてみることにした。

「なんか最近パパ好きだね」
「そー?」
「うん。前までママと一緒にいることが多かったのにね」
「べつにふつうじゃない?」

特に進吾も意識している様子はなかった。旦那の勘違い、あるいはたまたま旦那と話す機会が多かっただけのことだと結論付けた。

そのまま何事もなく夕食を食べ終え、各々の時間を過ごしていた。進吾がゲームをしている間、私と旦那は病院のテレビで見た神社に行く計画を立てていた。

「この時間帯なら人も少なくて、進吾も疲れないんじゃない?」
「そーだな。後は車をどこに止めるかだな。遠いと移動だけで大変だしな…」
「あと、行くのは神社だけにするの?他にどっか寄ってかない?」
「行きたい気持ちはあるが体力があるかどうか……行けそうだったらどこか寄って行こうか」

数十分間話し、当日の流れを決めたところで私は寝ることにした。

「2人ともおやすみ」
「ママおやすみー」
「おつかれー」

"おやすみ"やっと家で聞けた言葉だ。
今では何度か聞いているが、それでも特別な感覚を覚える。きっとこれからも"当たり前"と思うようなことはないだろう。
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