16 / 42
第1章 親から幸せを…
第16話 祭りの明かり
しおりを挟む
「入院長かったね~、お疲れ様」
進吾はやっと退院できることになり、私たちは病院の外に出たところだ。
「もうびょういんはやだ」
「そう言われてもなー…少しは症状楽になったか?」
「うん。ありがと」
「進吾も頑張ったし、この後何か食べに行くか」
「やったー」
そうして近くにあったレストランに入ることにした。席に座り、注文を終え、料理が運ばれてくるのを待っていた。その間進吾は小学生限定でもらえるおもちゃで遊んでいた。それを見てると、子供らしさがあって安心する。私は1週間前に調べたあることを進吾に言うことにした。
「進吾ー、花火見たいって言ってたじゃん?また近いうちに花火大会やるらしいんだけど行く?」
「いくー」
進吾は目をキラキラさせながら答えた。
「そのためにしゅじゅつうけたんだもーん」
「がんばったもんなー」
ゆっくりと食事を摂り、店を出た。そしてせっかくのお祭りに行くのだからと、法被を買いに行くことにした。
「ぼくこれにするー」
「え……それにするの?」
「うん」
手に取ったのは、みんなもよく見たことがあるであろう青色の法被。背中には"祭"と赤い文字で大きく書かれている。
「進吾がそれで良いなら……」
私には着ていく勇気は全くないのだが、進吾が思いの外気に入っていたため、買うことにした。
そして花火大会当日、意気揚々と進吾は青の法被を着て、気分もウキウキな様子だ。
「おっ、祭り男だ。かっこいいー」
「わっしょーい」
どこか聞き覚えのあるセリフを発したが、気にしないことにした。きっと青の法被もこのセリフも入院中のテレビでハマったのだろう。
「よーし、車に乗って出発だー」
「わっしょーい」
かけ声と共にアクセルを踏み、車が動き出した。
「うわーおまつりだー!やたいだー!」
到着したお祭りの会場には、屋台がずらっと左右に並んでいて、暗い夜の中、屋台の明かりで光の道が出来ている。セミの鳴き声、人々の会話で声も通りづらくなっている。
「離れたらダメよ?」
「はーい」
そう言って進吾と手を繋いだ。一方隣にいた旦那は屋台を覗き込み、食欲と闘っていた。
「やきそばうまそー。あっ、ビールと焼き鳥もあんじゃん」
「今日は運転するんだからビールは飲まないの」
「はーい……」
進める道をかき分けながら、前へ前へ進んでいく。進めば進むほど、お肉の香ばしい匂いが漂ってくる。
「なんか食べたいものがある?」
「じゃああれ食べたい!」
進吾の指し示す先はたこ焼きの店だった。お肉だと思っていたが、相変わらずの少食だ。興味はないようだった。
「じゃあ俺も」
「はいはい、買ってくるから」
たこ焼きを買い、2人に渡す。ついでに私の分も買ってきたので一緒に食べることにした。食べ終えると次はりんご飴を、その次はわたあめ、そして、アイスクリームを買い、ペロリと食べ尽くした。進吾の純粋に楽しんでいる笑顔に私たちも癒されていた。前にいた旦那は腕時計で時刻を確認すると、こちらを振り返って言った。
「そろそろ花火の時間が近いな。綺麗に見える良い場所取りに行こうか」
「いこー」
進吾はスキップをしながら打ち上げ予定地に向かい、見る場所を探し始めた。
「川の方で打ち上げるらしいから、河川敷なら座ってみれそうね」
「ここら辺にするか」
傾斜になっている草地に腰を下ろし、川の向こうに見えるビルの明かりを眺めていた。打ち上げ開始5分前になると人も続々と集まり始め、座るスペースがなくなったように見える。
「早く座っといてよかったね」
「だな。そろそろ始まるぞ」
「たのしみー」
光る線が空を昇り、大きく弾けた。花火大会が遂に始まったのである。
「うわぁぁぁ!きれー!」
暗い空を彩る綺麗な星の花が大きく咲いていた。夢にまで見た花火が辺り一帯を明るく照らした。その明かりに照らされた進吾の表情は目と口を大きく開け、今までで1番というほど喜んでいた。打ち上げが始まって少し経った頃、私はカメラを取り出した。
「はい、進吾。こっち向いてー」
「いぇーい」
本来鳴るはずのカシャというシャッター音も花火の音で打ち消されてしまっている。
「せっかくなら家族3人で撮ろうか」
そう旦那が言い、シャッターを切る。私たちの笑顔の後ろには、色とりどりの花火が満開に咲いている。
「今回は誰も変じゃないよ。よかったね」
「えー、パパのかおふつうー」
「じゃあ、変顔するか?」
進吾は大きくうなずき、旦那は仕方なく全力の変顔をした。これには進吾もご満悦の様子。
「うちの家はどんなに上手く撮れても、必ず撮り直さなきゃいけないのね……」
数十分も続いた、夏の祭りを象徴する花火、それは直に終わりを迎えてしまう。クライマックスに大量の花火がキラキラと空一面を輝かせ、最終的には儚く消えていってしまった。
「おわっちゃった……」
「綺麗だったなー。久々にこんな間近で花火見たよ……」
「そうね……」
花火が終わってしまうとしんみりとした気持ちになってしまう。これは花火大会あるあるなのだろうが、私たちの場合、家族みんなで見る花火はこれが最後だ。考えたくなくても考えてしまう。
「なんかはなびってかんじだね」
「え?どういうこと?」
進吾はニコっと笑った。
「なんかさびしいかんじがするから」
その回答に旦那と2人で目を合わせ、笑う。
「そうだよな、花火って感じだよ」
美しくも儚い時間は一瞬にして過ぎてしまった。
進吾はやっと退院できることになり、私たちは病院の外に出たところだ。
「もうびょういんはやだ」
「そう言われてもなー…少しは症状楽になったか?」
「うん。ありがと」
「進吾も頑張ったし、この後何か食べに行くか」
「やったー」
そうして近くにあったレストランに入ることにした。席に座り、注文を終え、料理が運ばれてくるのを待っていた。その間進吾は小学生限定でもらえるおもちゃで遊んでいた。それを見てると、子供らしさがあって安心する。私は1週間前に調べたあることを進吾に言うことにした。
「進吾ー、花火見たいって言ってたじゃん?また近いうちに花火大会やるらしいんだけど行く?」
「いくー」
進吾は目をキラキラさせながら答えた。
「そのためにしゅじゅつうけたんだもーん」
「がんばったもんなー」
ゆっくりと食事を摂り、店を出た。そしてせっかくのお祭りに行くのだからと、法被を買いに行くことにした。
「ぼくこれにするー」
「え……それにするの?」
「うん」
手に取ったのは、みんなもよく見たことがあるであろう青色の法被。背中には"祭"と赤い文字で大きく書かれている。
「進吾がそれで良いなら……」
私には着ていく勇気は全くないのだが、進吾が思いの外気に入っていたため、買うことにした。
そして花火大会当日、意気揚々と進吾は青の法被を着て、気分もウキウキな様子だ。
「おっ、祭り男だ。かっこいいー」
「わっしょーい」
どこか聞き覚えのあるセリフを発したが、気にしないことにした。きっと青の法被もこのセリフも入院中のテレビでハマったのだろう。
「よーし、車に乗って出発だー」
「わっしょーい」
かけ声と共にアクセルを踏み、車が動き出した。
「うわーおまつりだー!やたいだー!」
到着したお祭りの会場には、屋台がずらっと左右に並んでいて、暗い夜の中、屋台の明かりで光の道が出来ている。セミの鳴き声、人々の会話で声も通りづらくなっている。
「離れたらダメよ?」
「はーい」
そう言って進吾と手を繋いだ。一方隣にいた旦那は屋台を覗き込み、食欲と闘っていた。
「やきそばうまそー。あっ、ビールと焼き鳥もあんじゃん」
「今日は運転するんだからビールは飲まないの」
「はーい……」
進める道をかき分けながら、前へ前へ進んでいく。進めば進むほど、お肉の香ばしい匂いが漂ってくる。
「なんか食べたいものがある?」
「じゃああれ食べたい!」
進吾の指し示す先はたこ焼きの店だった。お肉だと思っていたが、相変わらずの少食だ。興味はないようだった。
「じゃあ俺も」
「はいはい、買ってくるから」
たこ焼きを買い、2人に渡す。ついでに私の分も買ってきたので一緒に食べることにした。食べ終えると次はりんご飴を、その次はわたあめ、そして、アイスクリームを買い、ペロリと食べ尽くした。進吾の純粋に楽しんでいる笑顔に私たちも癒されていた。前にいた旦那は腕時計で時刻を確認すると、こちらを振り返って言った。
「そろそろ花火の時間が近いな。綺麗に見える良い場所取りに行こうか」
「いこー」
進吾はスキップをしながら打ち上げ予定地に向かい、見る場所を探し始めた。
「川の方で打ち上げるらしいから、河川敷なら座ってみれそうね」
「ここら辺にするか」
傾斜になっている草地に腰を下ろし、川の向こうに見えるビルの明かりを眺めていた。打ち上げ開始5分前になると人も続々と集まり始め、座るスペースがなくなったように見える。
「早く座っといてよかったね」
「だな。そろそろ始まるぞ」
「たのしみー」
光る線が空を昇り、大きく弾けた。花火大会が遂に始まったのである。
「うわぁぁぁ!きれー!」
暗い空を彩る綺麗な星の花が大きく咲いていた。夢にまで見た花火が辺り一帯を明るく照らした。その明かりに照らされた進吾の表情は目と口を大きく開け、今までで1番というほど喜んでいた。打ち上げが始まって少し経った頃、私はカメラを取り出した。
「はい、進吾。こっち向いてー」
「いぇーい」
本来鳴るはずのカシャというシャッター音も花火の音で打ち消されてしまっている。
「せっかくなら家族3人で撮ろうか」
そう旦那が言い、シャッターを切る。私たちの笑顔の後ろには、色とりどりの花火が満開に咲いている。
「今回は誰も変じゃないよ。よかったね」
「えー、パパのかおふつうー」
「じゃあ、変顔するか?」
進吾は大きくうなずき、旦那は仕方なく全力の変顔をした。これには進吾もご満悦の様子。
「うちの家はどんなに上手く撮れても、必ず撮り直さなきゃいけないのね……」
数十分も続いた、夏の祭りを象徴する花火、それは直に終わりを迎えてしまう。クライマックスに大量の花火がキラキラと空一面を輝かせ、最終的には儚く消えていってしまった。
「おわっちゃった……」
「綺麗だったなー。久々にこんな間近で花火見たよ……」
「そうね……」
花火が終わってしまうとしんみりとした気持ちになってしまう。これは花火大会あるあるなのだろうが、私たちの場合、家族みんなで見る花火はこれが最後だ。考えたくなくても考えてしまう。
「なんかはなびってかんじだね」
「え?どういうこと?」
進吾はニコっと笑った。
「なんかさびしいかんじがするから」
その回答に旦那と2人で目を合わせ、笑う。
「そうだよな、花火って感じだよ」
美しくも儚い時間は一瞬にして過ぎてしまった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ぼくたちは異世界に行った
板倉恭司
ファンタジー
偶然、同じバスに乗り合わせた男たち──最強のチンピラ、最凶のヤクザ、最狂のビジネスマン、最弱のニート──は突然、異世界へと転移させられる。彼らは元の世界に帰るため、怪物の蠢く残酷な世界で旅をしていく。
この世界は優しくない。剥き出しの残酷さが、容赦なく少年の心を蝕んでいく……。
「もし、お前が善人と呼ばれる弱者を救いたいと願うなら……いっそ、お前が悪人になれ。それも、悪人の頂点にな。そして、得た力で弱者を救ってやれ」
この世界は、ぼくたちに何をさせようとしているんだ?
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
【短編集2】恋のかけらたち
美和優希
恋愛
魔法のiらんどの企画で書いた恋愛小説の短編集です。
甘々から切ない恋まで
いろんなテーマで書いています。
【収録作品】
1.百年後の未来に、きみと(2020.04.24)
→誕生日に、彼女からどこにでも行ける魔法のチケットをもらって──!?
魔法のiらんど企画「#つながる魔法で続きをつくろう」 で書いたSSです。
2.優しい鈴の音と鼓動(2020.11.08)
→幼なじみの凪くんは最近機嫌が悪そうで意地悪で冷たい。嫌われてしまったのかと思っていたけれど──。
3.歌声の魔法(2020.11.15)
→地味で冴えない女子の静江は、いつも麗奈をはじめとしたクラスメイトにいいように使われていた。そんなある日、イケメンで不真面目な男子として知られる城野に静江の歌と麗奈への愚痴を聞かれてしまい、麗奈をギャフンと言わせる作戦に参加させられることになって──!?
4.もしも突然、地球最後の日が訪れたとしたら……。(2020.11.23)
→“もしも”なんて来てほしくないけれど、地球消滅の危機に直面した二人が最後に見せたものは──。
5.不器用なサプライズ(2021.01.08)
→今日は彼女と付き合い始めて一周年の記念日。それなのに肝心のサプライズの切り出し方に失敗してしまって……。
*()内は初回公開・完結日です。
*いずれも「魔法のiらんど」で公開していた作品になります。サービス終了に伴い、ページ分けは当時のままの状態で公開しています。
*現在は全てアルファポリスのみの公開です。
アルファポリスでの公開日*2025.02.11
表紙画像は、イラストAC(がらくった様)の画像に文字入れをして使わせていただいてます。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる