まだ余命を知らない息子の進吾へ、親から生まれてきた幸せを…

ひらりくるり

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第1章 親から幸せを…

第15話 不穏な空気

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気づけば退院まで残り1週間となった。それまで穏やかに過ごしていた。そんなある時、息子からの問いかけに、困惑してしまうことがあった。進吾がアイスを食べている際に言われた言葉だ。

「んー、おいしー!しあわせー」
「幸せ……そう、良かった」

あのテレビのインタビューを思い出した。子供にとっての幸せと大人にとっての幸せ、それは違うと言われていた。

「ママはしあわせー?」
「え……うん。幸せだよ?」

なぜか言うことに一瞬の迷いが生じてしまった。進吾が生きてる今が一番楽しく、幸せな時間のはずなのにだ……

「そっか、よかったー」

そう微笑んだ後に、アイスを食べ進める。だが、アイスを食べてる最中の表情は何か考え事をしているようだった。まるで何かを隠すために、このタイミングで食べたかのようにも感じる……私は元々考えすぎてしまう癖がある。だからかこんなことをふと思ってしまう。

「ぼくがたいいんしたらさ、ママとパパのやりたかったことしたら?」
「急になにー?私たちなんて後でいくらでも出来るんだから」

そう答えると進吾はシュンとしてしまった。

「ふーん……さいきんママ元気なかったし、いつもぼくがあそんでるのみてるだけだから……」

それを言われ、思い返したときにハッと気づいた。進吾と一緒に遊んで楽しんだのはいつだったか。旦那にプレゼントを買ってサプライズをした時も、一緒に動物園に行ったときも。私はただただ進吾の姿を眺めていただけだった。けれどそれは当たり前だ。生きていられる時間は私たちより断然短いのだからだ。せめて生まれてきて幸せだったと思って欲しいのだ。

「そう?私は進吾が遊んでるのを見てて楽しいし、一緒にいられるだけでも幸せなんだよ」
「……あー、そうなんだ」

そのまま進吾は横になり、寝てしまった。病室はなんとも言えない気まずい空気に包まれていた。外は晴れていて、窓から熱い風が部屋に吹き込む。蝉の声が部屋に響く。

「急にどうしたの……アイスも食べかけだし……やっぱ寿命とか手術とかで色々大変だったし……それのせいなのかな……」

入院などによるストレスが関係していると思った。普段は平然としていて隠しているが、所々の違和感や状況を照らし合わせると、そう思うほかなかった。

「退院したらストレスが減るといいんだけど」

部屋を一通り片付けた後、私は椅子に座り、スマホで調べものをしていた。ある程度調べ終えるとホーム画面にあるカレンダーが映り、先の予定を確認し始めた。

確認し終えると、スマホをそっと閉じ、天井を見て1人孤独に呟く。

「幸せな時間もあと4ヶ月か……」
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