まだ余命を知らない息子の進吾へ、親から生まれてきた幸せを…

ひらりくるり

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第1章 親から幸せを…

第12話 窓から見た花

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翌日、今日は本来ならば花火大会に行く予定だった。しかし、進吾の入院と余命を知ったことで行けるような状態ではない。そのため旦那と私で朝から進吾のケアをしている。そんな中、いつもの看護師さんが扉をノックして部屋に入ってきた。

「進吾さんも連れて診察室の方に来ていただけますか?」

そう言われたため、進吾を連れて診察室に入ることにした。部屋に入り椅子に座ったところ、医者がこちらを向き、背筋を伸ばして座り直した。

「まずは先日のこと、深くお詫び申し上げます。申し訳ありませんでした」
そう言うと進吾の担当医師は深く頭を下げた。
「あの人は法律違反で懲戒処分となりました。後々賠償もされるかと思います」
「そうですか……それで話って…?」

あのおばさん看護師のことなど心底どうでも良かった。今は進吾のことしか考えていない。いや、あの人のことなど考える暇が無いのだ。

「まず、どこまで進吾さんにお話されているでしょうか?」
「進吾は余命のことと自分ががんと言うことだけは知ってるとのことでした。」
「承知しました。今から話す内容は安心して聞いてもらって大丈夫です」

それを聞いただけでかなり肩の荷が軽くなったように感じた。

「最近小児がん悪化抑制の治療法が発見されました。治療の安全性に関しても問題はないようです」
「え……」

夢にまで見た話が突然舞い降りた。がん自体は治せなくとも、悪化を遅くさせることは私たちにとって魅力的だった。

「ただ実際に効果が発揮されるかどうかが懸念点となっています。もしご本人様がよろしければ、こちらの治療をすることも視野にいれたいと考えています」
「副作用とかは…?」
「今のところ確認されていません。ただ手術自体にはリスクがあります」

詳しく聞いてみると、不安なところも多々あった。手術のリスク、副作用の有無、治療の効果、生活への影響……それを考えると私は今のままが幸せなのではないかと思い始めた。それは旦那も同じ考えだったようだ。

「俺としてはリスクがあるならやめたほうが良いと思います」
「えぇ、私としても強くおすすめすることはできません。今回一つの選択肢としてご提示させていただきました。最終的な判断は進吾さんご自身にありますので、我々はそれに従うべきかと」

その話の回答は少し待ってもらうことにした。その間進吾はずっと真剣な表情をしていて、一言も話さなかった。


時は過ぎてすっかり夜になっていた。夕食はもうとっくに食べ終わり、静かな病室でただ一緒に過ごしていた。すると外から大きな破裂音が聞こえた。窓の方に目をやると、そこには赤く鮮やかに煌めく大きな火の花が咲いていた。

「あっ、進吾。花火ここから見れるよ」

進吾はサッと視点を窓の外に合わせた。目を少し大きく開け、ジッと眺めていた。暑い日の夜空をカラフルに彩り、音も大きく遠くから見ていても迫力があった。

「綺麗だねー」

そうボソッと呟いた。旦那はそれに対しウンウンと静かにうなずいていた。

たくさんの色鮮やかな花火が咲いてはキラキラと散っていった。始まってから十分は経った頃ぐらいだろうか。先ほどからじっとしていた進吾は、ついに口を開いた。

「ぼく……しゅじゅつしたい…」
「え?」
「で、おまつりにもいきたいし、うんどう会で1いをとりたい」

進吾は下を向き、小さな声で気持ちを伝えた。きっと勇気を振り絞って言ったのだろう。

「でも手術は危ないこともあるんだし__」
「じゃあこれをやりたいことノートにかく。そうすればいいでしょ?」

私たち2人はきょとんとした。お互い目を見合わせ、旦那はハハハと少し笑った後、私の背中をトントンと叩いた。

「頭良くなったな、進吾。それなら俺らはやってあげないとな」
「そんなすぐに決めなくたって__」
「だから返事は数日待とう。ゆっくり考えて進吾が後悔しないと思ったら医者に言えば良い」
「……そうだね、いいよ。2日後ぐらいにもっかい聞くからちゃんと考えといてね」
「うん」

進吾の返事と同時に、大きく花火が暗い空を黄色に輝かせ、花火の打ち上げの終わりを知らせた。
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