まだ余命を知らない息子の進吾へ、親から生まれてきた幸せを…

ひらりくるり

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第1章 親から幸せを…

第9話 パニック

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7月末、この日も穏やかに過ごせるはずだった。進吾が昼になっても起きてこないため、様子を見に行った。ドアを開けてみると、ベッドに横になって、ボーッと天井を眺めていた。目は涙目になっていて、なにか様子がおかしいと感じた。

「どうしたの?進吾?」

進吾の元まで駆け寄り、そっと額に手をあてた。その途端、原因が分かったのである。

「えっ、すごい熱いよ?体調悪い?」

すると進吾はゆっくりと首を縦に振った。しっかり聞いてみると、急激に上がった高熱、関節の痛みを訴えてきたのだ。ひとまず、病院に連れて行くことにした。


「少しこちらでお待ちください」
待合室で待っていた。その時、ふと昨日のことを思い出した。2人で昼ご飯を食べている時の話だ。

「そういえばさ、花火大会そろそろ近くでやるらしいよー」
「えっ、ほんと!?みたーい」
「じゃあ家族皆で見に行こうね」

そう、昨日花火を見に行くと約束をしたばかりだった。その出来事の次の日に体調が悪くなってしまった。不安に思うのも無理はない。

「こちらへどうぞ」

看護師さんに案内され、診察室の扉を開ける。しばらく診断を受け、結果を待っていた。鼓動が今まで以上に大きく、速くなっていることが分かる。嫌なことばかり考えながら待っていた。

「診断結果が出ました。お入りください」
「はい。失礼します」

開けた時に瞬時に感じ取った、部屋の空気が重かったのだ。私の気のせいなのかもしれない。そう思い続け、椅子に座る。

「えー、進吾さんについてのお話ですが……」

間を空けながら医師はゆっくりと、診断書を見て言った。嫌なことに、部屋に入ってから目が1度も合っていないことに気づいた。

「言い難いのですが……がんが悪化しているようです…」
「えっ……」

それを聞いて、何も考えられなかった。むしろ考えたくなかった。昨日まではとても元気だった。どうやら気づかない内に症状は悪化していたようだ。ずっと側にいたのに気づいてあげられなかったことに苛立ちと後悔で胸がいっぱいになった。

「えー、この状況ですと、がん自体の治療は難しいでしょう。ですが、がんの悪化を抑えることはできるかもしれません」
「そう……ですか……」
「その場合手術を行う必要があります。最低でも3週間は入院になってしまいますね」

3週間……もし仮にこの期間入院をするとしたら夏休みはとっくに終わってしまう。夏も終盤に迫るため、開催しているお祭りも減っている。そうすると"花火"も見れない。もしかしたら"運動会の出場"すら怪しくなるかもしれない。

「少しだけ電話で旦那と話し合わせてもらえますか?」
「えぇ、どうぞ」

私は席を外した。頭の中は完全にパニックだ。急いで今までのことを旦那に相談した。旦那もこのことには動揺し、僅かに声が震えていた。しかしいつも通り冷静に戻り、決断を下した。

「手術をしよう」
「でも花火は__」
「花火は夏でも秋でもやってるとこはやってる。遠かったら俺が連れていく。なければ手持ち花火を家族でしよう。一旦落ち着いて冷静に考えよう」

落ち着けと言われて落ち着けるわけがない。後から思い出すとあの時は相当慌てていて、荒れていた。焦りが言葉にも声にも表れていたと思う。

「とりあえず、進吾を入院させることにするわ」
「あぁ、花火とかのことは後で話し合おう」

診察室に戻ると、医師に入院をする旨を話し、手続きを始めた。
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