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呪われの旅仕度編
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最強の武器? を手に入れすっかりと呪われてしまったパティとアリシアを連れた俺は、二人に掛かってしまった呪いを解くため教会を目指し歩みを進める。
と、少し歩いたところでパティがふらふらと勝手に何かのお店の中に入っていってしまったので、仕方なく俺はアリシアの手を引いてパティの後を追う。
「いらっしゃいませ、本日はどういった商品をお探しでしょうか?」
黒を基調としたフリフリ付きのエプロンがなんともたまらない、元気いっぱい若さが溢れまくりの、看板娘と思しき可愛い子ちゃんが出迎えてくれた。
「ーーーーって、あれ? カトレアちゃん?」
一瞬、誰だか分からなかったけれど、よくよく見てみると俺のよく知る女の子、カトレアちゃんだった。
ついこの前までベネツィで、いや。この世界で一番可愛いと思っていた美少女カトレアちゃん。
ベネツィ七不思議の一つにも数えられる《幸せ顔の腐男子》発生の元凶になってしまうほどの容姿である彼女だが、様子が変である。
心がときめかない。
俺自身、何度もハピネスゾンビ化してしまう身だったのだが、今は何も感じないのである。
カトレアちゃんはいつも通り、かなり整った容姿でいてお店の制服と明るいその性格も相まってとても可愛らしいのだが、ただそれだけなのである。
普通に可愛いくて、それだけなのである。
以前のように、心が奪われるような感覚が全くない。
なんとも不思議な感覚に陥っていたのだが、そうなった原因についてはすぐに見当がついた。
俺は勢いで繋いだままだった手を見つめ、そのまま視線を上げていき手を繋いでいる相手を確認する。
「アリシア」
根拠はないが、たぶん正解なのであろう俺の考えはこうだ。
未だかつてない絶世の美少女たるアリシアの本当の素顔を見てしまった俺であるから、今までとは可愛いと思うレベルが違ってきているのだ。
新たなステージが、世界がある事を知ってしまった。
可愛いさに対しての耐性がついたと言うべきか……あるいは免疫か。
毎日美味しい物を食べているから、舌が肥えてしまった。みたいな現象だろう。
と、突然、俺の左足を凄まじい攻撃が襲う。
店内全体を揺るがす程の振動を生み出したその踏み込みは容赦なく俺の左足を捉え、床板と俺の足を木っ端みじんに呆気なく粉砕した。
「あっ……」
カトレアちゃんの表情が笑顔のまま一瞬にして固まる。
「……アリシアちゃん? 何が始まったのかは分からないのだけれど、君は手加減といった言葉を知らないのかね? 足、砕けたぜ?」
「手加減? 何それ?」
「あっははは……、知らないならいいんだ……」
武器の呪いのせいなのか、アリシアはとても危険な状態だ。
「パティ、手を貸してくれ! 床から足を引き抜きたい」
「…………」
パティの手を借り足の付け根まで床に突き刺さった左足を慎重に引き抜いていく、ようやく足首辺りまで抜けかかったその時。
「えいっ!」
「あっ……」
パティが急に手を離し、なおかつ俺を床穴に押し込むようにしたので、俺はまた最初の状態に逆戻りしてしまった。
「「いえーい!」」
パティとアリシアは喜び勇んでハイタッチを交わす。
……何はしゃいでんだ。仲良いな! 楽しそうだな!
俺もまぜろよ。
二人のはしゃぎっぷりに触発されたのか、通りを挟んだ向かいの店からとてつもなくデカい声で『いええええええええええええええええええええええええええええええええええええい!』と聞こえてきた。
街の外、あるいはドイルさんの家まで聞こえたかも知れない大声だったが、通りを行く人々は何事も無かったかのように、歩を進めている。
「何だ、誰だあれ……」
俺の呟きは誰の耳にも入る事は無く、宙を彷徨い消えていった。
「はあ……」
俺は自力で足を引き抜き足についた木屑を手で払い落としていると、両の膝が背後から突如として折れた、否。折られた。
アリシアだった。
子供の頃によくやった《膝カックン》ようはあれだ。だが、一般的なそれとは大きく異なり物理的攻撃力を伴って放たれた一撃は、見事に俺の下半身の機能を奪いさり、俺の上半身は支えを失ってその場に崩れ落ちていく。その刹那、崩れ落ちる俺の身体に更なる追撃が襲う。
パティだった。
鞘こそしていたが例の細身の剣、スターダストなんとかの切っ先で右の肩辺りを突かれ、俺の身体はカトレアちゃんの胸元へと押し込まれる形となった。
胸元へ顔からダイブして、カトレアちゃんに抱きつくような形となってしまった。
瞬間、ラッキーと思ってしまった自分をどうにか押し殺し、現実をしっかりと理解する。
覚悟を決める。
束の間の幸せの、その対価を支払わなければなるまい。
俺は歯を食いしばり、グッと目を閉じた。やがて、
「きゃぁぁぁー!」
カトレアちゃんの悲鳴が耳に入るのと同時ぐらいに、カトレアちゃんの右の掌が俺の左頬を捉え、身体ごと右方向に吹き飛ばす――筈だったのだが、俺の身体は最初の位置から動かない。カトレアちゃんの力を反対側から押し返す力が働いたのだ。
アリシアだった。
後方からのビンタは俺の右頬を正確に捉えていた、二人のビンタに挟まれる形となった俺の顔面では、強力な力同士がぶつかり合い大爆発を起こしたように火花が散り、もたらされた深刻な大ダメージは俺の頭部を駆け巡り、刻みつけやがて俺の視界はふっつりと閉じていった。
と、少し歩いたところでパティがふらふらと勝手に何かのお店の中に入っていってしまったので、仕方なく俺はアリシアの手を引いてパティの後を追う。
「いらっしゃいませ、本日はどういった商品をお探しでしょうか?」
黒を基調としたフリフリ付きのエプロンがなんともたまらない、元気いっぱい若さが溢れまくりの、看板娘と思しき可愛い子ちゃんが出迎えてくれた。
「ーーーーって、あれ? カトレアちゃん?」
一瞬、誰だか分からなかったけれど、よくよく見てみると俺のよく知る女の子、カトレアちゃんだった。
ついこの前までベネツィで、いや。この世界で一番可愛いと思っていた美少女カトレアちゃん。
ベネツィ七不思議の一つにも数えられる《幸せ顔の腐男子》発生の元凶になってしまうほどの容姿である彼女だが、様子が変である。
心がときめかない。
俺自身、何度もハピネスゾンビ化してしまう身だったのだが、今は何も感じないのである。
カトレアちゃんはいつも通り、かなり整った容姿でいてお店の制服と明るいその性格も相まってとても可愛らしいのだが、ただそれだけなのである。
普通に可愛いくて、それだけなのである。
以前のように、心が奪われるような感覚が全くない。
なんとも不思議な感覚に陥っていたのだが、そうなった原因についてはすぐに見当がついた。
俺は勢いで繋いだままだった手を見つめ、そのまま視線を上げていき手を繋いでいる相手を確認する。
「アリシア」
根拠はないが、たぶん正解なのであろう俺の考えはこうだ。
未だかつてない絶世の美少女たるアリシアの本当の素顔を見てしまった俺であるから、今までとは可愛いと思うレベルが違ってきているのだ。
新たなステージが、世界がある事を知ってしまった。
可愛いさに対しての耐性がついたと言うべきか……あるいは免疫か。
毎日美味しい物を食べているから、舌が肥えてしまった。みたいな現象だろう。
と、突然、俺の左足を凄まじい攻撃が襲う。
店内全体を揺るがす程の振動を生み出したその踏み込みは容赦なく俺の左足を捉え、床板と俺の足を木っ端みじんに呆気なく粉砕した。
「あっ……」
カトレアちゃんの表情が笑顔のまま一瞬にして固まる。
「……アリシアちゃん? 何が始まったのかは分からないのだけれど、君は手加減といった言葉を知らないのかね? 足、砕けたぜ?」
「手加減? 何それ?」
「あっははは……、知らないならいいんだ……」
武器の呪いのせいなのか、アリシアはとても危険な状態だ。
「パティ、手を貸してくれ! 床から足を引き抜きたい」
「…………」
パティの手を借り足の付け根まで床に突き刺さった左足を慎重に引き抜いていく、ようやく足首辺りまで抜けかかったその時。
「えいっ!」
「あっ……」
パティが急に手を離し、なおかつ俺を床穴に押し込むようにしたので、俺はまた最初の状態に逆戻りしてしまった。
「「いえーい!」」
パティとアリシアは喜び勇んでハイタッチを交わす。
……何はしゃいでんだ。仲良いな! 楽しそうだな!
俺もまぜろよ。
二人のはしゃぎっぷりに触発されたのか、通りを挟んだ向かいの店からとてつもなくデカい声で『いええええええええええええええええええええええええええええええええええええい!』と聞こえてきた。
街の外、あるいはドイルさんの家まで聞こえたかも知れない大声だったが、通りを行く人々は何事も無かったかのように、歩を進めている。
「何だ、誰だあれ……」
俺の呟きは誰の耳にも入る事は無く、宙を彷徨い消えていった。
「はあ……」
俺は自力で足を引き抜き足についた木屑を手で払い落としていると、両の膝が背後から突如として折れた、否。折られた。
アリシアだった。
子供の頃によくやった《膝カックン》ようはあれだ。だが、一般的なそれとは大きく異なり物理的攻撃力を伴って放たれた一撃は、見事に俺の下半身の機能を奪いさり、俺の上半身は支えを失ってその場に崩れ落ちていく。その刹那、崩れ落ちる俺の身体に更なる追撃が襲う。
パティだった。
鞘こそしていたが例の細身の剣、スターダストなんとかの切っ先で右の肩辺りを突かれ、俺の身体はカトレアちゃんの胸元へと押し込まれる形となった。
胸元へ顔からダイブして、カトレアちゃんに抱きつくような形となってしまった。
瞬間、ラッキーと思ってしまった自分をどうにか押し殺し、現実をしっかりと理解する。
覚悟を決める。
束の間の幸せの、その対価を支払わなければなるまい。
俺は歯を食いしばり、グッと目を閉じた。やがて、
「きゃぁぁぁー!」
カトレアちゃんの悲鳴が耳に入るのと同時ぐらいに、カトレアちゃんの右の掌が俺の左頬を捉え、身体ごと右方向に吹き飛ばす――筈だったのだが、俺の身体は最初の位置から動かない。カトレアちゃんの力を反対側から押し返す力が働いたのだ。
アリシアだった。
後方からのビンタは俺の右頬を正確に捉えていた、二人のビンタに挟まれる形となった俺の顔面では、強力な力同士がぶつかり合い大爆発を起こしたように火花が散り、もたらされた深刻な大ダメージは俺の頭部を駆け巡り、刻みつけやがて俺の視界はふっつりと閉じていった。
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