125 / 135
呪われの旅仕度編
1
しおりを挟む
かくしてベネツィ大食い大会は終わり、俺達のチームは見事優勝を果たす事ができた。
ラストを飾ったまさかの出来事に選手諸君はもちろんの事、観客や調理スタッフ、実況担当のデイルさんまでもが会場全体に漂うそのあまりに重々しく気まずい空気感に苛まれ、まるで蜘蛛の子を散らしたように皆、その場を後にした。
そして、今大会の優勝者であるところの俺達は今現在、一番街の水路の縁に三人で立って、水没してしまった屋台(博多一号)を見つめている。
水中でゆらゆらとその輪郭を歪ませている屋台は俺達の視線に答えるように、ときおりその鈍色の身体に陽の光を反射させ、ゆったりと流れる水の中で天を仰いでいる。
そんな鈍くも輝かしく光る屋台の様子を見ていると、なんだか屋台が『俺の事は気にしないで、もう行ってくれ』と言っているように思えてきて、俺の胸には言い知れぬ想いが込み上げてくる。
だって、それは仕方のない事だ。
かなり際どいところではあるけれど、たとえほんの一瞬だったとは言え、俺達は旅を共にする仲間だったのだから。
「…………」
「あ、あの……アニキ? あんまり気を落とさないでね……本当、あの、あれ、うん……また、頑張ろう?」
「タケルさんあんなに屋台、欲しがっていたのに……辛いですよね……」
「おほほー、ふほほー」
「ーーーーはぁっ……うん、ありがとう、みんな。もう大丈夫!」
今までの全ての努力が水泡に帰した感じだが、それでも俺達の努力が全くのムダだったとはどうしても思えなかった。
今大会で仲間として支え励ましあった数々の場面は紛れも無い青春のそれなのだ。
大冒険の大切な記憶の一ページ。
今日の日の体験がいつか必ずどこかで、活かされるはずなのである。
とか、
そんな風に自分の中でどうにか折り合いをつけないと、どうにもやってられないのである。
はぁ……。
本当、すっごい楽しみにしてたのに……戦闘中の仲間交代システムと休憩システム。
村長、パティ、じろう、アリシアの他にガッチガッチの本命バトル専用の仲間を数人加えて、そのまま大魔王討伐を成し遂げようと密かに夢見ていたのに……。
俺の夢は脆くも儚く、ベネツィの優しくも雄大な水の流れに飲み込まれてしまったか……。
しかしまあ、過ぎ去った物事をああだこうだといつまでも感傷に浸っている場合でもないだろう。
俺にはやるべき事があるのだから。
そもそも思い返してみれば、俺達は装備品を整えるために武器防具屋を目指して町中を歩いていたわけで、それでたまたま壁に貼られたポスターを見つけ優勝商品に目がくらみ(俺だけ)大食い大会に参加して、そして今に至る訳なのだけれど、いったい買い物を済ませるだけの事でどれだけの時間を割けば気が済むのだ、という話である。
おふざけと言う名の寄り道はここまでにして、しっかりと装備品を整えて早く村長を迎えに行かないと……。
俺は屋台に最後の別れを済ませて、踵を返しパティ達に改めてお礼をしてから一番街の水路を背にして歩き出した。
後日、事情を知らない一番街の子供達の間では『水路に化け物がいる!』や『戦車だ! いや、オーパーツだ!』などの噂が瞬く間に子供ネットワークを中心にベネツィの町に広がった。
そんな馬鹿げた噂が功を奏したのか、雄大に流れる水の中に沈んだ屋台が、のちにベネツィの町きっての観光名所として人気が高まる事は、この時はまだ誰も知るよしもないことである。
つまりこれがベネツィ七不思議の一つ《一番街水路に沈む謎の古代兵器》の正体である。
ずいぶんと冬の気配が近づいてきたベネツィの町に冷たい風がふわりと舞った。
ラストを飾ったまさかの出来事に選手諸君はもちろんの事、観客や調理スタッフ、実況担当のデイルさんまでもが会場全体に漂うそのあまりに重々しく気まずい空気感に苛まれ、まるで蜘蛛の子を散らしたように皆、その場を後にした。
そして、今大会の優勝者であるところの俺達は今現在、一番街の水路の縁に三人で立って、水没してしまった屋台(博多一号)を見つめている。
水中でゆらゆらとその輪郭を歪ませている屋台は俺達の視線に答えるように、ときおりその鈍色の身体に陽の光を反射させ、ゆったりと流れる水の中で天を仰いでいる。
そんな鈍くも輝かしく光る屋台の様子を見ていると、なんだか屋台が『俺の事は気にしないで、もう行ってくれ』と言っているように思えてきて、俺の胸には言い知れぬ想いが込み上げてくる。
だって、それは仕方のない事だ。
かなり際どいところではあるけれど、たとえほんの一瞬だったとは言え、俺達は旅を共にする仲間だったのだから。
「…………」
「あ、あの……アニキ? あんまり気を落とさないでね……本当、あの、あれ、うん……また、頑張ろう?」
「タケルさんあんなに屋台、欲しがっていたのに……辛いですよね……」
「おほほー、ふほほー」
「ーーーーはぁっ……うん、ありがとう、みんな。もう大丈夫!」
今までの全ての努力が水泡に帰した感じだが、それでも俺達の努力が全くのムダだったとはどうしても思えなかった。
今大会で仲間として支え励ましあった数々の場面は紛れも無い青春のそれなのだ。
大冒険の大切な記憶の一ページ。
今日の日の体験がいつか必ずどこかで、活かされるはずなのである。
とか、
そんな風に自分の中でどうにか折り合いをつけないと、どうにもやってられないのである。
はぁ……。
本当、すっごい楽しみにしてたのに……戦闘中の仲間交代システムと休憩システム。
村長、パティ、じろう、アリシアの他にガッチガッチの本命バトル専用の仲間を数人加えて、そのまま大魔王討伐を成し遂げようと密かに夢見ていたのに……。
俺の夢は脆くも儚く、ベネツィの優しくも雄大な水の流れに飲み込まれてしまったか……。
しかしまあ、過ぎ去った物事をああだこうだといつまでも感傷に浸っている場合でもないだろう。
俺にはやるべき事があるのだから。
そもそも思い返してみれば、俺達は装備品を整えるために武器防具屋を目指して町中を歩いていたわけで、それでたまたま壁に貼られたポスターを見つけ優勝商品に目がくらみ(俺だけ)大食い大会に参加して、そして今に至る訳なのだけれど、いったい買い物を済ませるだけの事でどれだけの時間を割けば気が済むのだ、という話である。
おふざけと言う名の寄り道はここまでにして、しっかりと装備品を整えて早く村長を迎えに行かないと……。
俺は屋台に最後の別れを済ませて、踵を返しパティ達に改めてお礼をしてから一番街の水路を背にして歩き出した。
後日、事情を知らない一番街の子供達の間では『水路に化け物がいる!』や『戦車だ! いや、オーパーツだ!』などの噂が瞬く間に子供ネットワークを中心にベネツィの町に広がった。
そんな馬鹿げた噂が功を奏したのか、雄大に流れる水の中に沈んだ屋台が、のちにベネツィの町きっての観光名所として人気が高まる事は、この時はまだ誰も知るよしもないことである。
つまりこれがベネツィ七不思議の一つ《一番街水路に沈む謎の古代兵器》の正体である。
ずいぶんと冬の気配が近づいてきたベネツィの町に冷たい風がふわりと舞った。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説


三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

回帰した貴公子はやり直し人生で勇者に覚醒する
真義あさひ
ファンタジー
名門貴族家に生まれながらも、妾の子として虐げられ、優秀な兄の下僕扱いだった貴公子ケイは正妻の陰謀によりすべてを奪われ追放されて、貴族からスラム街の最下層まで落ちぶれてしまう。
絶望と貧しさの中で母と共に海に捨てられた彼は、死の寸前、海の底で出会った謎のサラマンダーの魔法により過去へと回帰する。
回帰の目的は二つ。
一つ、母を二度と惨めに死なせない。
二つ、海の底で発現させた勇者の力を覚醒させ、サラマンダーの望む海底神殿の浄化を行うこと。
回帰魔法を使って時を巻き戻したサラマンダー・ピアディを相棒として、今度こそ、不幸の連鎖を断ち切るために──
そして母を救い、今度こそ自分自身の人生を生きるために、ケイは人生をやり直す。
第一部、完結まで予約投稿済み
76000万字ぐらい
꒰( ˙𐃷˙ )꒱ ワレダイカツヤクナノダ~♪

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
転生したら王族だった
みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。
レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる