繰り返される転生劇〜喜劇こそ、笑いこそ世界を救うたった一つの手立てではないかっ!〜

清水花

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呪われの旅仕度編

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 かくしてベネツィ大食い大会は終わり、俺達のチームは見事優勝を果たす事ができた。

 ラストを飾ったまさかの出来事に選手諸君はもちろんの事、観客や調理スタッフ、実況担当のデイルさんまでもが会場全体に漂うそのあまりに重々しく気まずい空気感に苛まれ、まるで蜘蛛の子を散らしたように皆、その場を後にした。

 そして、今大会の優勝者であるところの俺達は今現在、一番街の水路の縁に三人で立って、水没してしまった屋台(博多一号)を見つめている。

 水中でゆらゆらとその輪郭を歪ませている屋台は俺達の視線に答えるように、ときおりその鈍色の身体に陽の光を反射させ、ゆったりと流れる水の中で天を仰いでいる。

 そんな鈍くも輝かしく光る屋台の様子を見ていると、なんだか屋台が『俺の事は気にしないで、もう行ってくれ』と言っているように思えてきて、俺の胸には言い知れぬ想いが込み上げてくる。

 だって、それは仕方のない事だ。

 かなり際どいところではあるけれど、たとえほんの一瞬だったとは言え、俺達は旅を共にする仲間だったのだから。

「…………」

「あ、あの……アニキ? あんまり気を落とさないでね……本当、あの、あれ、うん……また、頑張ろう?」

「タケルさんあんなに屋台、欲しがっていたのに……辛いですよね……」

「おほほー、ふほほー」

「ーーーーはぁっ……うん、ありがとう、みんな。もう大丈夫!」

 今までの全ての努力が水泡に帰した感じだが、それでも俺達の努力が全くのムダだったとはどうしても思えなかった。

 今大会で仲間として支え励ましあった数々の場面は紛れも無い青春のそれなのだ。

 大冒険の大切な記憶の一ページ。

 今日の日の体験がいつか必ずどこかで、活かされるはずなのである。

 とか、
 
 そんな風に自分の中でどうにか折り合いをつけないと、どうにもやってられないのである。

 はぁ……。

 本当、すっごい楽しみにしてたのに……戦闘中の仲間交代システムと休憩システム。

 村長、パティ、じろう、アリシアの他にガッチガッチの本命バトル専用の仲間を数人加えて、そのまま大魔王討伐を成し遂げようと密かに夢見ていたのに……。

 俺の夢は脆くも儚く、ベネツィの優しくも雄大な水の流れに飲み込まれてしまったか……。

 しかしまあ、過ぎ去った物事をああだこうだといつまでも感傷に浸っている場合でもないだろう。

 俺にはやるべき事があるのだから。

 そもそも思い返してみれば、俺達は装備品を整えるために武器防具屋を目指して町中を歩いていたわけで、それでたまたま壁に貼られたポスターを見つけ優勝商品に目がくらみ(俺だけ)大食い大会に参加して、そして今に至る訳なのだけれど、いったい買い物を済ませるだけの事でどれだけの時間を割けば気が済むのだ、という話である。

 おふざけと言う名の寄り道はここまでにして、しっかりと装備品を整えて早く村長を迎えに行かないと……。

 俺は屋台に最後の別れを済ませて、踵を返しパティ達に改めてお礼をしてから一番街の水路を背にして歩き出した。

 後日、事情を知らない一番街の子供達の間では『水路に化け物がいる!』や『戦車だ! いや、オーパーツだ!』などの噂が瞬く間に子供ネットワークを中心にベネツィの町に広がった。

 そんな馬鹿げた噂が功を奏したのか、雄大に流れる水の中に沈んだ屋台が、のちにベネツィの町きっての観光名所として人気が高まる事は、この時はまだ誰も知るよしもないことである。

 つまりこれがベネツィ七不思議の一つ《一番街水路に沈む謎の古代兵器》の正体である。

 ずいぶんと冬の気配が近づいてきたベネツィの町に冷たい風がふわりと舞った。






 
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