繰り返される転生劇〜喜劇こそ、笑いこそ世界を救うたった一つの手立てではないかっ!〜

清水花

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ベネツィ大食い列伝

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 気が付くと辺りが騒がしかった。

 まあ、もともと辺りは騒がしかったし、こういうお祭り事なのだから騒がしいのは当たり前なのだが、だがしかし俺が記憶しているさっきまでの騒ぎとはなんというか種類が違うのだ。

 さっきまでは、必死に食べ進める際の気合い入れとか、仲間を鼓舞するような声だとか、選手達に向けられる声援だとか、そんな熱を帯びた騒がしさでごった返していたのだが、今は拍手や褒め称える声が多く行き交っているように感じるのである。

 黄色い歓声というやつだろうか?

 満腹感がやけに落ち着き、胸に妙な爽快感を感じながら考える。

 記憶をーーーー辿る。

 確かあの時、俺はラスボスであるカルロス炒飯を食べ終え大食い大会に勝利した、という気持ちには正直言ってならなかった。勝った負けたというよりも、仲間の想いを形にする事が出来たとか、全て食べ終えた事による達成感であの時の俺は満たされていたと思う。

 そんな中、虚を衝くように突如として現れた裏ボスーーーー杏仁豆腐。

 ほぼほぼ自爆覚悟で挑んだ戦いで、奇跡的に一命を取り留めた直後にあんな裏ボスが登場してしまっては、戦意喪失はやむ方ない。

 だから俺は牙を剥く事もせず、どころか唸り声一つあげる事なく、あっさりと負けを認めたのだ。

 倒すべき敵を目の前にして、力無く力尽きてしまったのだ。

 仲間の想いに、報いる事なく。

 だから、

 俺達のパーティーはあの瞬間、全滅してしまったのだ。

 パーティーを全滅させてしまうだなんてあまりに愚かしく情け無い限りである。

 リーダー失格であり、勇者失格の謗りは免れない。

 なので、今騒ぎ立てられているのは俺達以外のどこかのチームが見事に裏ボスを含めたあの四天王とも呼ぶべきモンスターメニューを食べ終え会場のみんなから祝福を受けているのだろう。

 それに対して俺はと言えば、こんなところで無様に突っ伏し苦汁を嘗めているのだから情けない。

 勝者と敗者。

 考えてみればーーーーいや、考えるまでもなく現状は完全に勝者と敗者の構図であって、それはもはや言い逃れの余地さえ無かった。

 それこそついさっき勝った負けたの話ではないと言ったが、あれは勝利を確信した者の口をついて出た優越感や余裕といったものの表れだろう。

 ようするに綺麗事だ。

「…………」

 敗者は本当に惨めだ。ぼろぼろの身体に容赦なくのし掛かる罪悪感。

 負けた事に対する、支えてくれた仲間達に対する罪悪感。

 そんな居ても立っても居られない今の状況の中、なんだか妙に胸がすっきりとする。

 先ほどまでの重苦しく、暑苦しく、狭苦しくあった胃の中が空っぽとまでは言わなくとも、半分くらい無くなったような変な爽快感を感じる。

 これはなんだ?

 俺の身に何が起きた?

 身に覚えのない突然の変化に言い知れぬ不安がよぎる。

 だがまあ、よくよく考えれば今の状況というのは身体と精神にとって有利になりこそすれ、特にこれといった害もなさそうなのでそこまで不安になる必要もないのか。

 俺はパンパンになっている胃の部分を優しく数回撫でながら、顔を少し上げてパティの方を見る。

 パティは俺とほぼほぼ同じ姿勢でテーブルに突っ伏し目を閉じている。その顔を見て判断するに特に苦しそうとか辛そうな表情は一切しておらず、どちらかと言えば安らかな表情でいて、なんだか満腹になってそのまま昼寝してしまった、という印象を受けてしまう。

 俺から見てもう一つ右隣りにいるじろうはテーブルの上で仰向けのまま幸せ顔で寝ていて、ときおり前足でお腹を撫でている。尻尾は力無くぺたりとテーブルに垂れている。

 パティとじろうの様子に、ほっと胸を撫で下ろし次いでアリシアの様子を伺う。

「……ん?」

 アリシアの様子を伺うため左側へと視線を向けたが座っている筈の椅子にアリシアの姿は無く、テーブルにはアリシアが使用したカトラリーとお皿が綺麗に置かれている。

「ちょっ……」

 驚きのあまり咄嗟にその場に立ち上がり、辺りを見回す。

 がしかし、アリシアの姿は見当たらない。

 次第に俺の胸が焦りと混乱に支配されていく。

 まさか、まさか、まさか、アリシアが誘拐された?

 お祭り騒ぎに乗じて、満腹で動けなくなったアリシアに医療スタッフの振りをして近付き連れ去った?

 さすがに考えすぎか? いや、でも。いくらミエザリストの魔法を掛けているとは言えアリシアのあの可愛いさは誘拐するには十分な動機となるはずだ。

 くそっ、油断した。

 パーティーを全滅させたあげく仲間を連れ去られてしまうなんて、どこまでバカなんだ俺は。

 これではデューク達の事をとやかく言ってはいられない。

 どこにいるとも分からないアリシアを探して、走り出そうとしたまさにその瞬間、

「ーーーー皆様、今一度盛大な拍手を! コメディアン勇者御一行チームのアリシア選手に盛大な拍手を!」

「ーーーーぬっ⁉︎」

 アリシア、とな?



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