122 / 135
ベネツィ大食い列伝
32
しおりを挟む
気が付くと辺りが騒がしかった。
まあ、もともと辺りは騒がしかったし、こういうお祭り事なのだから騒がしいのは当たり前なのだが、だがしかし俺が記憶しているさっきまでの騒ぎとはなんというか種類が違うのだ。
さっきまでは、必死に食べ進める際の気合い入れとか、仲間を鼓舞するような声だとか、選手達に向けられる声援だとか、そんな熱を帯びた騒がしさでごった返していたのだが、今は拍手や褒め称える声が多く行き交っているように感じるのである。
黄色い歓声というやつだろうか?
満腹感がやけに落ち着き、胸に妙な爽快感を感じながら考える。
記憶をーーーー辿る。
確かあの時、俺はラスボスであるカルロス炒飯を食べ終え大食い大会に勝利した、という気持ちには正直言ってならなかった。勝った負けたというよりも、仲間の想いを形にする事が出来たとか、全て食べ終えた事による達成感であの時の俺は満たされていたと思う。
そんな中、虚を衝くように突如として現れた裏ボスーーーー杏仁豆腐。
ほぼほぼ自爆覚悟で挑んだ戦いで、奇跡的に一命を取り留めた直後にあんな裏ボスが登場してしまっては、戦意喪失はやむ方ない。
だから俺は牙を剥く事もせず、どころか唸り声一つあげる事なく、あっさりと負けを認めたのだ。
倒すべき敵を目の前にして、力無く力尽きてしまったのだ。
仲間の想いに、報いる事なく。
だから、
俺達のパーティーはあの瞬間、全滅してしまったのだ。
パーティーを全滅させてしまうだなんてあまりに愚かしく情け無い限りである。
リーダー失格であり、勇者失格の謗りは免れない。
なので、今騒ぎ立てられているのは俺達以外のどこかのチームが見事に裏ボスを含めたあの四天王とも呼ぶべきモンスターメニューを食べ終え会場のみんなから祝福を受けているのだろう。
それに対して俺はと言えば、こんなところで無様に突っ伏し苦汁を嘗めているのだから情けない。
勝者と敗者。
考えてみればーーーーいや、考えるまでもなく現状は完全に勝者と敗者の構図であって、それはもはや言い逃れの余地さえ無かった。
それこそついさっき勝った負けたの話ではないと言ったが、あれは勝利を確信した者の口をついて出た優越感や余裕といったものの表れだろう。
ようするに綺麗事だ。
「…………」
敗者は本当に惨めだ。ぼろぼろの身体に容赦なくのし掛かる罪悪感。
負けた事に対する、支えてくれた仲間達に対する罪悪感。
そんな居ても立っても居られない今の状況の中、なんだか妙に胸がすっきりとする。
先ほどまでの重苦しく、暑苦しく、狭苦しくあった胃の中が空っぽとまでは言わなくとも、半分くらい無くなったような変な爽快感を感じる。
これはなんだ?
俺の身に何が起きた?
身に覚えのない突然の変化に言い知れぬ不安がよぎる。
だがまあ、よくよく考えれば今の状況というのは身体と精神にとって有利になりこそすれ、特にこれといった害もなさそうなのでそこまで不安になる必要もないのか。
俺はパンパンになっている胃の部分を優しく数回撫でながら、顔を少し上げてパティの方を見る。
パティは俺とほぼほぼ同じ姿勢でテーブルに突っ伏し目を閉じている。その顔を見て判断するに特に苦しそうとか辛そうな表情は一切しておらず、どちらかと言えば安らかな表情でいて、なんだか満腹になってそのまま昼寝してしまった、という印象を受けてしまう。
俺から見てもう一つ右隣りにいるじろうはテーブルの上で仰向けのまま幸せ顔で寝ていて、ときおり前足でお腹を撫でている。尻尾は力無くぺたりとテーブルに垂れている。
パティとじろうの様子に、ほっと胸を撫で下ろし次いでアリシアの様子を伺う。
「……ん?」
アリシアの様子を伺うため左側へと視線を向けたが座っている筈の椅子にアリシアの姿は無く、テーブルにはアリシアが使用したカトラリーとお皿が綺麗に置かれている。
「ちょっ……」
驚きのあまり咄嗟にその場に立ち上がり、辺りを見回す。
がしかし、アリシアの姿は見当たらない。
次第に俺の胸が焦りと混乱に支配されていく。
まさか、まさか、まさか、アリシアが誘拐された?
お祭り騒ぎに乗じて、満腹で動けなくなったアリシアに医療スタッフの振りをして近付き連れ去った?
さすがに考えすぎか? いや、でも。いくらミエザリストの魔法を掛けているとは言えアリシアのあの可愛いさは誘拐するには十分な動機となるはずだ。
くそっ、油断した。
パーティーを全滅させたあげく仲間を連れ去られてしまうなんて、どこまでバカなんだ俺は。
これではデューク達の事をとやかく言ってはいられない。
どこにいるとも分からないアリシアを探して、走り出そうとしたまさにその瞬間、
「ーーーー皆様、今一度盛大な拍手を! コメディアン勇者御一行チームのアリシア選手に盛大な拍手を!」
「ーーーーぬっ⁉︎」
アリシア、とな?
まあ、もともと辺りは騒がしかったし、こういうお祭り事なのだから騒がしいのは当たり前なのだが、だがしかし俺が記憶しているさっきまでの騒ぎとはなんというか種類が違うのだ。
さっきまでは、必死に食べ進める際の気合い入れとか、仲間を鼓舞するような声だとか、選手達に向けられる声援だとか、そんな熱を帯びた騒がしさでごった返していたのだが、今は拍手や褒め称える声が多く行き交っているように感じるのである。
黄色い歓声というやつだろうか?
満腹感がやけに落ち着き、胸に妙な爽快感を感じながら考える。
記憶をーーーー辿る。
確かあの時、俺はラスボスであるカルロス炒飯を食べ終え大食い大会に勝利した、という気持ちには正直言ってならなかった。勝った負けたというよりも、仲間の想いを形にする事が出来たとか、全て食べ終えた事による達成感であの時の俺は満たされていたと思う。
そんな中、虚を衝くように突如として現れた裏ボスーーーー杏仁豆腐。
ほぼほぼ自爆覚悟で挑んだ戦いで、奇跡的に一命を取り留めた直後にあんな裏ボスが登場してしまっては、戦意喪失はやむ方ない。
だから俺は牙を剥く事もせず、どころか唸り声一つあげる事なく、あっさりと負けを認めたのだ。
倒すべき敵を目の前にして、力無く力尽きてしまったのだ。
仲間の想いに、報いる事なく。
だから、
俺達のパーティーはあの瞬間、全滅してしまったのだ。
パーティーを全滅させてしまうだなんてあまりに愚かしく情け無い限りである。
リーダー失格であり、勇者失格の謗りは免れない。
なので、今騒ぎ立てられているのは俺達以外のどこかのチームが見事に裏ボスを含めたあの四天王とも呼ぶべきモンスターメニューを食べ終え会場のみんなから祝福を受けているのだろう。
それに対して俺はと言えば、こんなところで無様に突っ伏し苦汁を嘗めているのだから情けない。
勝者と敗者。
考えてみればーーーーいや、考えるまでもなく現状は完全に勝者と敗者の構図であって、それはもはや言い逃れの余地さえ無かった。
それこそついさっき勝った負けたの話ではないと言ったが、あれは勝利を確信した者の口をついて出た優越感や余裕といったものの表れだろう。
ようするに綺麗事だ。
「…………」
敗者は本当に惨めだ。ぼろぼろの身体に容赦なくのし掛かる罪悪感。
負けた事に対する、支えてくれた仲間達に対する罪悪感。
そんな居ても立っても居られない今の状況の中、なんだか妙に胸がすっきりとする。
先ほどまでの重苦しく、暑苦しく、狭苦しくあった胃の中が空っぽとまでは言わなくとも、半分くらい無くなったような変な爽快感を感じる。
これはなんだ?
俺の身に何が起きた?
身に覚えのない突然の変化に言い知れぬ不安がよぎる。
だがまあ、よくよく考えれば今の状況というのは身体と精神にとって有利になりこそすれ、特にこれといった害もなさそうなのでそこまで不安になる必要もないのか。
俺はパンパンになっている胃の部分を優しく数回撫でながら、顔を少し上げてパティの方を見る。
パティは俺とほぼほぼ同じ姿勢でテーブルに突っ伏し目を閉じている。その顔を見て判断するに特に苦しそうとか辛そうな表情は一切しておらず、どちらかと言えば安らかな表情でいて、なんだか満腹になってそのまま昼寝してしまった、という印象を受けてしまう。
俺から見てもう一つ右隣りにいるじろうはテーブルの上で仰向けのまま幸せ顔で寝ていて、ときおり前足でお腹を撫でている。尻尾は力無くぺたりとテーブルに垂れている。
パティとじろうの様子に、ほっと胸を撫で下ろし次いでアリシアの様子を伺う。
「……ん?」
アリシアの様子を伺うため左側へと視線を向けたが座っている筈の椅子にアリシアの姿は無く、テーブルにはアリシアが使用したカトラリーとお皿が綺麗に置かれている。
「ちょっ……」
驚きのあまり咄嗟にその場に立ち上がり、辺りを見回す。
がしかし、アリシアの姿は見当たらない。
次第に俺の胸が焦りと混乱に支配されていく。
まさか、まさか、まさか、アリシアが誘拐された?
お祭り騒ぎに乗じて、満腹で動けなくなったアリシアに医療スタッフの振りをして近付き連れ去った?
さすがに考えすぎか? いや、でも。いくらミエザリストの魔法を掛けているとは言えアリシアのあの可愛いさは誘拐するには十分な動機となるはずだ。
くそっ、油断した。
パーティーを全滅させたあげく仲間を連れ去られてしまうなんて、どこまでバカなんだ俺は。
これではデューク達の事をとやかく言ってはいられない。
どこにいるとも分からないアリシアを探して、走り出そうとしたまさにその瞬間、
「ーーーー皆様、今一度盛大な拍手を! コメディアン勇者御一行チームのアリシア選手に盛大な拍手を!」
「ーーーーぬっ⁉︎」
アリシア、とな?
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説


三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

回帰した貴公子はやり直し人生で勇者に覚醒する
真義あさひ
ファンタジー
名門貴族家に生まれながらも、妾の子として虐げられ、優秀な兄の下僕扱いだった貴公子ケイは正妻の陰謀によりすべてを奪われ追放されて、貴族からスラム街の最下層まで落ちぶれてしまう。
絶望と貧しさの中で母と共に海に捨てられた彼は、死の寸前、海の底で出会った謎のサラマンダーの魔法により過去へと回帰する。
回帰の目的は二つ。
一つ、母を二度と惨めに死なせない。
二つ、海の底で発現させた勇者の力を覚醒させ、サラマンダーの望む海底神殿の浄化を行うこと。
回帰魔法を使って時を巻き戻したサラマンダー・ピアディを相棒として、今度こそ、不幸の連鎖を断ち切るために──
そして母を救い、今度こそ自分自身の人生を生きるために、ケイは人生をやり直す。
第一部、完結まで予約投稿済み
76000万字ぐらい
꒰( ˙𐃷˙ )꒱ ワレダイカツヤクナノダ~♪

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
転生したら王族だった
みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。
レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる