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ベネツィ大食い列伝
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大食い大会予選は終わり、一時間の休憩時間も終わり、大食い大会決勝戦が遂に始まった。
予選が行われた《コ》の字型に並んだテントとテーブルからかなり実況席側へと近づいた場所。
そこには計五つの長テーブルが横一列に並べられている。
そこに鎮座するは、見事予選を通過した俺達を含める五組のチーム。
俺達のチームは真ん中のテーブルに陣取っていて、一番右側のテーブルから、女性用の衣服に身を包んだ明らかに骨格が男性のそれである謎のチーム、もはや言うまでもなく頭がぶっ飛んでしまっているデュークとシドのコミックリリーフチーム、何を食べてそこまで育ったのか身体から脂肪が流れ落ちそうになっている男女混合チーム、予選突破が奇跡としか思えない老人会チーム。
皆が皆、濃いキャラで、それぞれにただならぬ熱を帯びていた。
俺達の真正面。約2メートルくらい前方に並べられた長テーブルにはベネツィ特別町長たるカルロス様や絶対紳士セバス・チャンタロウさんや副団長デイルさんや揚げ物屋テキーラの店主さんやカルロス食堂店主さんらが一堂に会している。
この町に住んでいる人なら絶対に知っているであろう顔ぶれではあるけれど、やはり中でもカルロス様の存在感は群を抜いている。
というのも、自身が言い出し開催された大食い大会の決勝が行われているのにも関わらず、椅子に座ったまま前のめりになってご就寝なされている。
だが、そこはさすがのカルロス様である。テーブルに突っ伏し眠る、なんて事はしない。
前のめりになり、下を向いたままの顔を鼻ちょうちんの持つ浮力が支えている。
重力と浮力が絶妙な均衡を保っており、カルロス様の身体はときおりふわふわと揺れている。
そんな中、俺は不謹慎にもあの鼻ちょうちんが何かの拍子に割れて欲しいと心の何処かで思ってしまっている。
割れた後、テーブルに倒れ込むのか。
割れた後、その場に留まるのか。
あまりに馬鹿げているのは重々承知しているけれど、どういう結果に終わるのかが知りたくて知りたくて仕方がなかった。
というのも、普段から何か楽しげな事を探しては一人でこっそりと対象物を観察し、笑みを浮かべるのが毎日の日課のようになっている俺であった。
だがしかし。
今は決して悠長に楽しんでいる場合ではないのだ。
前方に広がる楽しそうな光景よりも、今は眼下に広がる料理達をしっかりと視界に捉えて、たとえ僅かでも食を進めなくてはいけない。
ベネツィ大食い大会、その決勝戦。
提供された料理はベネツィの町の一、二、三番街に各一店舗づつ展開されているカルロス食堂の人気メニュー三種が提供される事となった。まずはカルラーの愛称でお馴染みの一番人気メニュー、カルロスラーメン。お次に数種類の香草独特の味と香りがクセになるパンチの効いたカルロス餃子、最後にどんな時も人を虜にしてやまない炭水化物界のレジェンド、カルロス炒飯。以上三種の人気メニューがまるでトップスターのようにテーブルの上に堂々と鎮座している。
ラーメン、餃子、炒飯。いつの日も町の人々から愛され続けてきたカルロス食堂の人気メニュートップ3だが、今現在、今大会においては選手達からかなり迷惑がられ、敵対視されている。
と言うのも、このカルロス食堂、名前からして分かる通り特別町長たるカルロス様の支援を受けており赤字当然の安価で更に量が多いのがこの店の一番の売りとなっている。
《小銭で、家族全員、大満足!》と言えば、カルロス食堂のキャッチコピーとしてはあまりに有名である。
通常のカルロスラーメンでさえ他のお店の物より二倍以上の量があるので、何も知らない素人の旅人が値段の安さから不用意に注文してしまい悪戦苦闘するという事態が日に何度かあるのである。
なので言い換えれば、ある意味大食い大会個人の部が誰も知らないところで勝手に行われているようなものなのである。
そんな、普段から量が多いカルロス食堂のメニュー達なので、いつものサイズの料理が数品出てくるものと思い込んでいた自分がバカであった。
これは考え方によってはかなり当たり前のことなのだが、どうやらカルロス食堂の店主はいつもの、普段通りの大きさ、量を基準としてそこから大食い大会用に料理の量を数倍に増やしてしまったようだ。
つまり、大食いメニューとして一般的に提供される通常の四倍や五倍の量では無く、大まかに言って九倍や十倍といった、もはや一個人が食べられる量ではない領域に達してしまっている。
長きに渡り、町の人々から愛され続けてきたカルロス食堂の人気メニュートップ3は今日この日、さじ加減を間違えた店主によって悪魔の如き変貌を遂げ選手達の前に立ちはだかったのだ。
予選が行われた《コ》の字型に並んだテントとテーブルからかなり実況席側へと近づいた場所。
そこには計五つの長テーブルが横一列に並べられている。
そこに鎮座するは、見事予選を通過した俺達を含める五組のチーム。
俺達のチームは真ん中のテーブルに陣取っていて、一番右側のテーブルから、女性用の衣服に身を包んだ明らかに骨格が男性のそれである謎のチーム、もはや言うまでもなく頭がぶっ飛んでしまっているデュークとシドのコミックリリーフチーム、何を食べてそこまで育ったのか身体から脂肪が流れ落ちそうになっている男女混合チーム、予選突破が奇跡としか思えない老人会チーム。
皆が皆、濃いキャラで、それぞれにただならぬ熱を帯びていた。
俺達の真正面。約2メートルくらい前方に並べられた長テーブルにはベネツィ特別町長たるカルロス様や絶対紳士セバス・チャンタロウさんや副団長デイルさんや揚げ物屋テキーラの店主さんやカルロス食堂店主さんらが一堂に会している。
この町に住んでいる人なら絶対に知っているであろう顔ぶれではあるけれど、やはり中でもカルロス様の存在感は群を抜いている。
というのも、自身が言い出し開催された大食い大会の決勝が行われているのにも関わらず、椅子に座ったまま前のめりになってご就寝なされている。
だが、そこはさすがのカルロス様である。テーブルに突っ伏し眠る、なんて事はしない。
前のめりになり、下を向いたままの顔を鼻ちょうちんの持つ浮力が支えている。
重力と浮力が絶妙な均衡を保っており、カルロス様の身体はときおりふわふわと揺れている。
そんな中、俺は不謹慎にもあの鼻ちょうちんが何かの拍子に割れて欲しいと心の何処かで思ってしまっている。
割れた後、テーブルに倒れ込むのか。
割れた後、その場に留まるのか。
あまりに馬鹿げているのは重々承知しているけれど、どういう結果に終わるのかが知りたくて知りたくて仕方がなかった。
というのも、普段から何か楽しげな事を探しては一人でこっそりと対象物を観察し、笑みを浮かべるのが毎日の日課のようになっている俺であった。
だがしかし。
今は決して悠長に楽しんでいる場合ではないのだ。
前方に広がる楽しそうな光景よりも、今は眼下に広がる料理達をしっかりと視界に捉えて、たとえ僅かでも食を進めなくてはいけない。
ベネツィ大食い大会、その決勝戦。
提供された料理はベネツィの町の一、二、三番街に各一店舗づつ展開されているカルロス食堂の人気メニュー三種が提供される事となった。まずはカルラーの愛称でお馴染みの一番人気メニュー、カルロスラーメン。お次に数種類の香草独特の味と香りがクセになるパンチの効いたカルロス餃子、最後にどんな時も人を虜にしてやまない炭水化物界のレジェンド、カルロス炒飯。以上三種の人気メニューがまるでトップスターのようにテーブルの上に堂々と鎮座している。
ラーメン、餃子、炒飯。いつの日も町の人々から愛され続けてきたカルロス食堂の人気メニュートップ3だが、今現在、今大会においては選手達からかなり迷惑がられ、敵対視されている。
と言うのも、このカルロス食堂、名前からして分かる通り特別町長たるカルロス様の支援を受けており赤字当然の安価で更に量が多いのがこの店の一番の売りとなっている。
《小銭で、家族全員、大満足!》と言えば、カルロス食堂のキャッチコピーとしてはあまりに有名である。
通常のカルロスラーメンでさえ他のお店の物より二倍以上の量があるので、何も知らない素人の旅人が値段の安さから不用意に注文してしまい悪戦苦闘するという事態が日に何度かあるのである。
なので言い換えれば、ある意味大食い大会個人の部が誰も知らないところで勝手に行われているようなものなのである。
そんな、普段から量が多いカルロス食堂のメニュー達なので、いつものサイズの料理が数品出てくるものと思い込んでいた自分がバカであった。
これは考え方によってはかなり当たり前のことなのだが、どうやらカルロス食堂の店主はいつもの、普段通りの大きさ、量を基準としてそこから大食い大会用に料理の量を数倍に増やしてしまったようだ。
つまり、大食いメニューとして一般的に提供される通常の四倍や五倍の量では無く、大まかに言って九倍や十倍といった、もはや一個人が食べられる量ではない領域に達してしまっている。
長きに渡り、町の人々から愛され続けてきたカルロス食堂の人気メニュートップ3は今日この日、さじ加減を間違えた店主によって悪魔の如き変貌を遂げ選手達の前に立ちはだかったのだ。
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