繰り返される転生劇〜喜劇こそ、笑いこそ世界を救うたった一つの手立てではないかっ!〜

清水花

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ベネツィ大食い列伝

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 頭上に掲げられる大皿。

 まさかの事態に静まりかえる会場。

 誰かのカトラリーが皿の上に落ちてカランッと音を立てた。

 大会スタッフがその音でハッと我に返り、慌ててデュークの元へと駆け寄る。

 大会スタッフは震える両手で大皿とテーブル周辺、そしてシドの口を指差し確認してから実況席に向かって必死に合図を送る。

 実況席からは拡声器を通したひび割れた声が広場全体に響き渡った。

「どうやら最期の予選通過チームが決定した模様です。資料によりますとチーム名は《大食い王デューク様》二十歳と八十歳の男性二人組みのようです。親子……ではないですねさすがに。お祖父さんとお孫さんのコンビなのでしょうか? 仲睦まじく今大会に出場したのでしょう、微笑ましい限りです。今入った情報によりますと、お祖父さんが驚異的な追い上げをみせて予選通過最後の席を勝ち取ったらしいのですが、お孫さんのためにお祖父さん張り切っちゃったのでしょうか。あまり無理をなされないように十分注意していただきたいものです。さて、これで上位五チームが出揃った訳ですが……どうですかドイルさん。この後の決勝戦はどんな試合運びになりそうですか? って、あれ? ドイルさん? どこ行った……えー……。それでは予選通過された上位五チームの方々はこれより一時間の休憩に入ります。決勝戦開始の十分前にまたお知らせしますので、それまで各自ゆっくりと休憩なされて下さい」

 拡声器の割れた音声が鳴り止むと、止まっていた時がようやく動き出したかのように予選通過を逃した選手達がガヤガヤと騒ぎ出して、いつもの賑やかなベネツィの町の雰囲気が戻ったようだった。

「ーーーーで、シドは大丈夫なの?」

「…………」

 俺の問いかけに対してシドはトレードマークの大きなウィザードハットをいつもより深く被っていて何も喋ろうとはしない。

「ほら、やっぱり。あんな無茶するからだよ……」

 と、ここでついつい意地悪したくなってしまい、

「悪いけど今のシドはどこからどう見ても普通の使にしか見えないよ」

 と、わざとシドの気を逆撫でするような発言をしてみる。

 まあ、元気をなくしてしまったシドに対してのいわゆるショック療法のようなものである。

「…………」

 だが、そんな俺の思惑も虚しくシドは相変わらず黙り込んだままでいて一向に喋る気配は無く、もちろんあの日のように俺を睨みつけ舌打ちをするような悪態をつく事もなかった。

「…………」

「…………」

 いつもはとんでもない発言や行動で俺を刺激しては苛立たせてくれるシドではあるが、あれほどの無茶をやってのけそしてその結果ここまであからさまに弱ってしまったシドの姿を見ていると、まさかこれ以上の憎まれ口など叩く気にもなれず、それどころか普通に心配になってしまう。

 シドがここまで衰弱しきってしまうほど、大量の揚げ物を丸呑みにするあの食事方法は身体に相当深刻なダメージを与えるという事なのであろう。

 大逆転を可能にしたあの爆発的なスピードを得た代償は、それほどまでに大きい。

 しかし、いくら大逆転のためとは言え無茶しすぎだろう……。

 喉に詰まらせて大事に至ったらどうするつもりだったんだよ。

 そもそもデュークの方がシドより遥かに若いんだから、あの場面ではデュークが身体を張るのが正解だろうに。

 しかもチーム名が《大食い王デューク様》って、これ完全にシドがつけてくれてんじゃん。パーティーの中心であるデュークの事を立てようとするシドの粋な計らいじゃんか。自分の為にそこまで気を使ってくれてるシドに対してあいつはいったい何をやっているんだ……。

 ーーーーシドォォォ!

 じゃねぇんだよ。全く……。

「ん?」

 今、唐突に思ったのだが万が一俺がデュークのパーティーに入っていたとしたら、そういった役回りは全部俺に回ってきていたんじゃないだろうか? 

 魚探しに必死になり、ベネツィの湖に落ちて溺れたデュークとシドを助けたり。

 管理を任されてもいない財布を落とした犯人だと仕立て上げられたり。

 その結果、無一文となり食事もまとも出来ず空腹だからと言って、何とか食べられそうな物を探しに行かせられたり。

 デュークが子供達の武道大会に出場出来るよう裏で暗躍したり。

 一回戦敗退となり、すっかりナーバスになってしまったデュークのアフターケアに手を焼いたり。

 方向音痴なのか、ただのおバカさんなのか、仲間と合流するため武道大会会場から勝手に抜け出し、遠く離れたベネツィの森で勝手に迷子になってしまったデュークを躍起になって探し回ったり。

 そして、ようやく合流出来たと思ったら大食い大会に駆り出され、逆転のためとは言え大量の揚げ物を口の中に流し込まれる始末。

 とてもではないが身が持ちそうではないし、命がいくつあっても足りそうではない。

 それこそずいぶん前にデュークに提案した事だが、落ち着きと常識を持ち合わせ更に仲間の蘇生能力を持つ神父さんを仲間にするぐらいの事をしないとデュークのパーティーは成り立たないのかもしれない。

「…………」
 
 と、衰弱したシドを見ながらあれやこれやと思いを巡らせていると、パティが口を開いた。





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