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ベネツィ大食い列伝
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まだ七割程度の揚げ物が鎮座する大皿を持ち上げたデュークは、何を思ったのかそれをシドの方へとずいっと差し出すと、
「ーーーーシドォォォ!」
と、急にデュークにしてはかなり珍しい大声をあげながらシドの名前を叫んだかと思うと傾けた大皿から滑り落ちてくる揚げ物を右手に持ったナイフで器用に縦一列に整え、整列させるとそのままの勢いでシドの口へと流し込み始めたのだ。
シドは無言で、あくまで真剣な面持ちで、大皿に対して大きく口を開いており、まるで人形のように無感情に口の中に揚げ物を詰め込んでいく。
それはつい先ほど、食事のマナーがどうとか言っていた人物とはとても思えない光景だった。
食事のマナーよりも主人の命令の方が優先されるという事なのであろうか。
傾けられた大皿の上から次々と揚げ物が滑り落ち、綺麗に整列させられ、シドの口へと降り積もっていく。
そうなのである。
いくら大量の揚げ物を口に放り込んだところで、次のステップには進めないのである。
そうーーーー噛む事が出来ない。
大量に詰め込む事で口は大きく開かれ、逆に閉じる事が困難になる。
まして弾力に富んだお肉類ともなれば尚のこと。
それではダメなのだ。
そんな事も分からないのか、このおバカさん達は……。
その証拠に見てみろ。シドの口の中は今や大量の揚げ物で満たされているではーーーー
「なっ、なにぃ⁉︎」
シドの口の中に揚げ物が無い⁉︎ あれほど大量に流し込まれた揚げ物達が忽然と姿を消しているだと⁉︎ あり得ない。
なんだ、何が起きた?
いったい何がどうなっているんだ!
まさか……魔法か? 魔法を使ったのか。
シドの奴、口の中の揚げ物が一つ残らず姿を消すような、そんなご都合主義よろしくのふざけた魔法を使ったとでも言うのかっ⁉︎
ちなみにその魔法は何て名前なのだ。
「ん?」
気付く。
シドをよくよく観察していると揚げ物は間違いなくシドの口の中へと入っており、口の中に入るやいなやシドの細くもシワだらけの首が力強く躍動している事に気付いたのだ。
それに気付いた事で先ほどまでのシドが何かしらの魔法を使ってズルをしたという可能性は儚くも消え去り、代わりに俺の脳裏には普通ではまずあり得ないであろう、とある可能性が浮上していた。
「ま……まま、まさ……か……嘘だ……そんな訳が……ない……」
今現在、目の前で起こっている現実をありのまま素直に受け入れてしまうのをどうやら俺の脳は拒んでいるようだ。
だが、それも仕方の無い事だろう?
だって、
シドは大量に流し込まれている揚げ物全てを一噛みもする事なく飲み込み続けているのだから。
無感情に、無反応に、非人道的に、非現実的に、まるでポッカリと口を開けた道具袋のように次々と揚げ物を飲み込んでいく。
その光景は見ようによってはさながら大魔王の城近辺に現れるアイテムイーターというモンスターのように、冒険者の装備品や道具類を奪っては食べてしまう超迷惑な嫌われもののモンスターのようにも見えてしまう。
また、シドだけに注目せずに少し視野を広げてシドとデュークが織りなす構図という観点から観察してみると、デュークが振るう右手のナイフが大皿の底をカツンカツンとリズム良く叩くと、シドはングッングッという生々しい音を立てて揚げ物を飲み込んでいくので、なんだか世界各地を転々と渡り歩いてはどこかの町にときおりふらりと現れ、町の人々に妙技を披露する曲芸師のようにも思えてしまう。
などと、
現実を回避するため色々な例え方をしてはみたがやはりどれもしっくりとくる比喩ではなく、どうにも釈然としない。
だからここはあえて語弊を恐れずに目の前に広がる凄惨な光景をありのままに伝えようと心に決める。
シドとデュークが作り出したあまりにカオスな今の状況を有り体に言ってしまえば、性格の悪そうな鋭い目つきの若者が、うっすらと目に涙を湛えるか細い老人に対して否応無く揚げ物を口の中に詰め込み、流し込み食べさせているというあまりに凄惨で惨たらしい異常としか言えない光景なのだ。
そんな狂いに狂った光景を周りの選手達も凝視し、警戒し、固唾を飲んで見守った。
異常発生から約一分が経過した頃。
デュークは抱えていた大皿を持ち直し、頭の上に垂直に掲げてシニカルな笑みを浮かべつつ、
「ーーーー待たせたな」
と、かなり得意げに言い放った。
隣でそれを見ていた俺は、普通にイラッとした。
「ーーーーシドォォォ!」
と、急にデュークにしてはかなり珍しい大声をあげながらシドの名前を叫んだかと思うと傾けた大皿から滑り落ちてくる揚げ物を右手に持ったナイフで器用に縦一列に整え、整列させるとそのままの勢いでシドの口へと流し込み始めたのだ。
シドは無言で、あくまで真剣な面持ちで、大皿に対して大きく口を開いており、まるで人形のように無感情に口の中に揚げ物を詰め込んでいく。
それはつい先ほど、食事のマナーがどうとか言っていた人物とはとても思えない光景だった。
食事のマナーよりも主人の命令の方が優先されるという事なのであろうか。
傾けられた大皿の上から次々と揚げ物が滑り落ち、綺麗に整列させられ、シドの口へと降り積もっていく。
そうなのである。
いくら大量の揚げ物を口に放り込んだところで、次のステップには進めないのである。
そうーーーー噛む事が出来ない。
大量に詰め込む事で口は大きく開かれ、逆に閉じる事が困難になる。
まして弾力に富んだお肉類ともなれば尚のこと。
それではダメなのだ。
そんな事も分からないのか、このおバカさん達は……。
その証拠に見てみろ。シドの口の中は今や大量の揚げ物で満たされているではーーーー
「なっ、なにぃ⁉︎」
シドの口の中に揚げ物が無い⁉︎ あれほど大量に流し込まれた揚げ物達が忽然と姿を消しているだと⁉︎ あり得ない。
なんだ、何が起きた?
いったい何がどうなっているんだ!
まさか……魔法か? 魔法を使ったのか。
シドの奴、口の中の揚げ物が一つ残らず姿を消すような、そんなご都合主義よろしくのふざけた魔法を使ったとでも言うのかっ⁉︎
ちなみにその魔法は何て名前なのだ。
「ん?」
気付く。
シドをよくよく観察していると揚げ物は間違いなくシドの口の中へと入っており、口の中に入るやいなやシドの細くもシワだらけの首が力強く躍動している事に気付いたのだ。
それに気付いた事で先ほどまでのシドが何かしらの魔法を使ってズルをしたという可能性は儚くも消え去り、代わりに俺の脳裏には普通ではまずあり得ないであろう、とある可能性が浮上していた。
「ま……まま、まさ……か……嘘だ……そんな訳が……ない……」
今現在、目の前で起こっている現実をありのまま素直に受け入れてしまうのをどうやら俺の脳は拒んでいるようだ。
だが、それも仕方の無い事だろう?
だって、
シドは大量に流し込まれている揚げ物全てを一噛みもする事なく飲み込み続けているのだから。
無感情に、無反応に、非人道的に、非現実的に、まるでポッカリと口を開けた道具袋のように次々と揚げ物を飲み込んでいく。
その光景は見ようによってはさながら大魔王の城近辺に現れるアイテムイーターというモンスターのように、冒険者の装備品や道具類を奪っては食べてしまう超迷惑な嫌われもののモンスターのようにも見えてしまう。
また、シドだけに注目せずに少し視野を広げてシドとデュークが織りなす構図という観点から観察してみると、デュークが振るう右手のナイフが大皿の底をカツンカツンとリズム良く叩くと、シドはングッングッという生々しい音を立てて揚げ物を飲み込んでいくので、なんだか世界各地を転々と渡り歩いてはどこかの町にときおりふらりと現れ、町の人々に妙技を披露する曲芸師のようにも思えてしまう。
などと、
現実を回避するため色々な例え方をしてはみたがやはりどれもしっくりとくる比喩ではなく、どうにも釈然としない。
だからここはあえて語弊を恐れずに目の前に広がる凄惨な光景をありのままに伝えようと心に決める。
シドとデュークが作り出したあまりにカオスな今の状況を有り体に言ってしまえば、性格の悪そうな鋭い目つきの若者が、うっすらと目に涙を湛えるか細い老人に対して否応無く揚げ物を口の中に詰め込み、流し込み食べさせているというあまりに凄惨で惨たらしい異常としか言えない光景なのだ。
そんな狂いに狂った光景を周りの選手達も凝視し、警戒し、固唾を飲んで見守った。
異常発生から約一分が経過した頃。
デュークは抱えていた大皿を持ち直し、頭の上に垂直に掲げてシニカルな笑みを浮かべつつ、
「ーーーー待たせたな」
と、かなり得意げに言い放った。
隣でそれを見ていた俺は、普通にイラッとした。
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