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ベネツィ大食い列伝
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その後、俺達は順調に食べ進め他の選手達が揚げ物を手に入れテント内へと戻ってくる頃には、およそ半分の量を食べ終えていた。
なので、予選一位通過は間違いないと思うのだが、結果が出るまでは手を止めないし、油断はしない。
「うむぅ! いい感じに揚げ物が冷めてきて食べやすくなってきたね!」
「うん。最初は揚げたてだったからなかなかペースが上がらなかったけれど、このくらいの温度になってくれればどんどん食べられちゃうね」
「だからと言って早く食べ過ぎて、ノドに詰まらせないように注意してくれたまえよ? 君達」
「分かってるよ! 十歳くらいの子供じゃないんだから」
「あまり変わらないと思うのだが……」
「全っ然、違うよ!」
「そ……そうかね……」
理屈は理解しがたいが、とにかくノドに詰まらせない自信があるらしい。
それはまあ、いいとして。
だがしかし、大食いには不向きだとばかり思っていたパティとアリシアが思いのほか頑張ってくれている。この二人の頑張りがあったからこその今の結果だ。
と、口いっぱいに揚げ物を頬張ってパティをぼんやりと眺めていると、頭の上に鎮座したじろうと目が合った。
瞬間、ゾクッとしてすぐに目を逸らした。
まだ短い付き合いだが初めてみるじろうの泣き顔。
もともと猫らしからぬ一面があって、喜怒哀楽の表情が豊かすぎるほどに顔に咲くじろうである。
そんなじろうが目に大粒の涙を湛えて、こちらを見ている。
どうしたのだろう? とは思わない。
なぜ、そうなっているのかは明らかだから。
じろうがまぶたを閉じると目にたっぷりと湛えていた涙が頬を伝い落ちた。毛先についた数粒の雫に揚げ物を頬張ったアホ面が映り込む。
予選通過のため今までひたすら揚げ物だけを見て、食らい付いていたので全く気が付かなかったけれど、じろうはこの予選において何も口にしていない。
じろうの眼下にいる三人は無言でひたすら揚げ物を食べ続けていて、じろうのもとには美味しそうな匂いだけが届いていたのだろう。自分も食べたい! と、いつもの変な鳴き声をあげていたのかもしれない、自慢のぶらっでぃーくろうをパティの頭に叩きつけていたのかもしれない。けれど、皆まるで自分の事を忘れてしまったかのように無視して、ただひたすらに揚げ物に夢中になっていたのだ。
きっとそんな思いが、あの小さな胸の中で渦をまいて結果、あの泣き顔に至ったという事なのであろう。
だがしかし、味付けの濃い揚げ物をじろうに食べさせるのは如何ともしがたいものがある。
ここまで猫離れ(猫離れって何だ?)したじろうならば、人間と同じモノを食べることが出来たとしてもなんら不思議はないのだけれど、それでも猫が食べると中毒を起こす食品も少なからずあるのも事実なのだ。当然の事ながら、なるべく危険は避けたいものである。
そこで俺は今朝までお世話になった宿屋の主人に心の中でお礼を言う。
左の腰にぶら下げた道具袋からあるモノを取り出し、じろうがよく見える位置にそっと置く。
だが、じろうは相変わらず目を閉じたまま、短く尖った牙をちらつかせ、パティの頭にぶらっでぃーくろうを必死に繰り出している。
なので俺はじろうの鼻先とつんつんっと突いて、じろうの顔の前であるモノを振って注意を引く。箱の中からカラカラと小さく音が鳴った。
「ーーーーほっ⁉︎」
さすがに異変に気付いたじろうは、いつもの変な鳴き声とともに目を大きく開いてカラカラと音を立てるそれを凝視する。
音を奏でる箱にはこう記してある。
《20種の野菜と青魚を練り込んだ特製キャットフードMサイズ》
「おっほほー!」
記憶に新しいその箱を見たじろうは、先ほどまでの怒りと絶望が入り混じった表情はどこかへと消え去り、尻尾を限りなく真っ直ぐに伸ばして、一瞬にして愛らしい喜びの花が咲いた。
「しゅっ!」
じろうはパティの頭から飛び降り、お目当てのキャットフードへと飛びついた。
テーブルに備え付けてあった紙の取り皿にキャットフードを盛り付けてやると、とても嬉しそうに俺の事を見上げて笑っている。
「さあさあ、遠慮なくお食べ。宿屋のおじいさんからじろうのお昼ご飯だって、頂いていたんだ」
じろうはすぐさま山盛りとなったキャットフードへと詰め寄り食べ始めた。
うむ。
これで良しっと。
じろうの食事の支度を終えて、再び大皿に盛られた揚げ物へと意識を向けると、半壊状態だった揚げ物のお城はもはや全壊状態となっており大皿の上には鳥の唐揚げが三つばかり転がっているだけだった。
「うおっ⁉︎ いつの間に……」
若者の食欲は俺の想像をはるかに凌駕していたようだ。
俺は二人に若干以上の申し訳ない気持ちを感じつつ、言う。
「さあ、最後の一口だ! せーので行くよ。せーのっ!」
三人一緒に唐揚げを口に運び、大皿を掲げて完食の意を示した。
なので、予選一位通過は間違いないと思うのだが、結果が出るまでは手を止めないし、油断はしない。
「うむぅ! いい感じに揚げ物が冷めてきて食べやすくなってきたね!」
「うん。最初は揚げたてだったからなかなかペースが上がらなかったけれど、このくらいの温度になってくれればどんどん食べられちゃうね」
「だからと言って早く食べ過ぎて、ノドに詰まらせないように注意してくれたまえよ? 君達」
「分かってるよ! 十歳くらいの子供じゃないんだから」
「あまり変わらないと思うのだが……」
「全っ然、違うよ!」
「そ……そうかね……」
理屈は理解しがたいが、とにかくノドに詰まらせない自信があるらしい。
それはまあ、いいとして。
だがしかし、大食いには不向きだとばかり思っていたパティとアリシアが思いのほか頑張ってくれている。この二人の頑張りがあったからこその今の結果だ。
と、口いっぱいに揚げ物を頬張ってパティをぼんやりと眺めていると、頭の上に鎮座したじろうと目が合った。
瞬間、ゾクッとしてすぐに目を逸らした。
まだ短い付き合いだが初めてみるじろうの泣き顔。
もともと猫らしからぬ一面があって、喜怒哀楽の表情が豊かすぎるほどに顔に咲くじろうである。
そんなじろうが目に大粒の涙を湛えて、こちらを見ている。
どうしたのだろう? とは思わない。
なぜ、そうなっているのかは明らかだから。
じろうがまぶたを閉じると目にたっぷりと湛えていた涙が頬を伝い落ちた。毛先についた数粒の雫に揚げ物を頬張ったアホ面が映り込む。
予選通過のため今までひたすら揚げ物だけを見て、食らい付いていたので全く気が付かなかったけれど、じろうはこの予選において何も口にしていない。
じろうの眼下にいる三人は無言でひたすら揚げ物を食べ続けていて、じろうのもとには美味しそうな匂いだけが届いていたのだろう。自分も食べたい! と、いつもの変な鳴き声をあげていたのかもしれない、自慢のぶらっでぃーくろうをパティの頭に叩きつけていたのかもしれない。けれど、皆まるで自分の事を忘れてしまったかのように無視して、ただひたすらに揚げ物に夢中になっていたのだ。
きっとそんな思いが、あの小さな胸の中で渦をまいて結果、あの泣き顔に至ったという事なのであろう。
だがしかし、味付けの濃い揚げ物をじろうに食べさせるのは如何ともしがたいものがある。
ここまで猫離れ(猫離れって何だ?)したじろうならば、人間と同じモノを食べることが出来たとしてもなんら不思議はないのだけれど、それでも猫が食べると中毒を起こす食品も少なからずあるのも事実なのだ。当然の事ながら、なるべく危険は避けたいものである。
そこで俺は今朝までお世話になった宿屋の主人に心の中でお礼を言う。
左の腰にぶら下げた道具袋からあるモノを取り出し、じろうがよく見える位置にそっと置く。
だが、じろうは相変わらず目を閉じたまま、短く尖った牙をちらつかせ、パティの頭にぶらっでぃーくろうを必死に繰り出している。
なので俺はじろうの鼻先とつんつんっと突いて、じろうの顔の前であるモノを振って注意を引く。箱の中からカラカラと小さく音が鳴った。
「ーーーーほっ⁉︎」
さすがに異変に気付いたじろうは、いつもの変な鳴き声とともに目を大きく開いてカラカラと音を立てるそれを凝視する。
音を奏でる箱にはこう記してある。
《20種の野菜と青魚を練り込んだ特製キャットフードMサイズ》
「おっほほー!」
記憶に新しいその箱を見たじろうは、先ほどまでの怒りと絶望が入り混じった表情はどこかへと消え去り、尻尾を限りなく真っ直ぐに伸ばして、一瞬にして愛らしい喜びの花が咲いた。
「しゅっ!」
じろうはパティの頭から飛び降り、お目当てのキャットフードへと飛びついた。
テーブルに備え付けてあった紙の取り皿にキャットフードを盛り付けてやると、とても嬉しそうに俺の事を見上げて笑っている。
「さあさあ、遠慮なくお食べ。宿屋のおじいさんからじろうのお昼ご飯だって、頂いていたんだ」
じろうはすぐさま山盛りとなったキャットフードへと詰め寄り食べ始めた。
うむ。
これで良しっと。
じろうの食事の支度を終えて、再び大皿に盛られた揚げ物へと意識を向けると、半壊状態だった揚げ物のお城はもはや全壊状態となっており大皿の上には鳥の唐揚げが三つばかり転がっているだけだった。
「うおっ⁉︎ いつの間に……」
若者の食欲は俺の想像をはるかに凌駕していたようだ。
俺は二人に若干以上の申し訳ない気持ちを感じつつ、言う。
「さあ、最後の一口だ! せーので行くよ。せーのっ!」
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