繰り返される転生劇〜喜劇こそ、笑いこそ世界を救うたった一つの手立てではないかっ!〜

清水花

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ベネツィ大食い列伝

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 時を遡ること、数分。

 カルロス陛下による突然の予選開始から約2分後。

 大食い大会会場である広場は大混乱の中にあったし、何が正しい行動で何が正しい判断なのかなんて分かっている人がいたとはとてもじゃないが思えない。

 視界前方からは揚げ物屋テキーラの従業員数名がトレーを持って急ぎ走ってきており、予選で食べるべき料理が運ばれてくるのを俺達は今か今かと待ち構えていた。そんな俺達の前に従業員が走り込んできて、テーブルの上に運んできたトレーを乗せるやいなや深々と頭を下げた。

「お待たせしましたぁぁぁ!」

「よぉぉぉっしゃー! 予選一位通過は貰っーーーーえっ? 何これ? この空のトレーをどうすればいいんだ? あれか⁉︎ 食べるものは自分で取りに行け的なあれか⁉︎ そうなのかね、君!」

「…………」

「聞けぇぇぇ!」

 俺の質問など全く耳に入っていない様子で揚げ物屋テキーラの従業員は慌てて走り去っていく。

 手元に届けられた空のトレーをじっと見つめて、俺は作戦を練る。

 こちら側もさる事ながら、あちら側つまりは料理を提供してくれるお店側も大混乱の中にある。この空のトレーはだからこその結果なのだ。

 つまりは、選手達に提供される料理がまだ出来上がっておらず、あれほどでかい特設キッチンといえども広場を埋め尽くすほど大勢の選手達が食べる分の揚げ物はそう簡単には出来上がらない。そしてカルロス陛下によって予選はもう開始されている。

 以上の事から、出来上がった料理をいち早く獲得して誰よりも先に食べ始め食べ終えなければいけない。さしずめ早食い大食い争奪戦といったところか。

 カルロス陛下の奇をてらったあの開会の挨拶一つで大食い大会の方向性がかなり大きく傾いてしまった。

 だが、それはよく考えるとチャンスとも言える。

 俺達のチームは少年パティと少女アリシアという大食いとはあまり縁の無い、どちらかと言えばこの大会には不向きなメンバー構成となっている。だから方向性が傾いた今の早食い大食い争奪戦という特殊な状況を逆に利用する事ができれば俺達のチームでも勝算は十分にある。

 もちろん、みんながその事に気付けば状況は一気に変わる。

 つまり、スピードが命だ。

 だから、ただでさえ混乱の中にある今の状況も、今後の展開を考えれば嵐の前の静けさ程度の事なのかもしれない。

 そう思い不意に視線を右に移すと妙に体格の良い中年のおじさん三人が特設キッチンの方へと小走りで走っていくのが見えた。

「あのおじさん達……何かやる気だな」

「何かって何さ? 具体的に何をやる気なのさ?」

「何だか三人共、顔付きが怖いです……。あんな顔付きでキッチンに向かっていったい何をするんでしょうか?」

「詳細は分からないけれど、おじさん達には何かしらの必勝法とも言える作戦があるようだ」

 みんなそれぞれの作戦を立て始めている。

 俺達も急がねば。

 作戦を大まかではあるが形あるものに仕上げてから、広場中央へと視線を投げる。そこには先ほど特設キッチンの方角へと向かった無駄に体格の良い怖い顔をしたおじさん達が凱旋将軍のように胸を張って、もはや若干仰け反り気味に肩で風をきって歩いていた。
 
 そんなおじさん連中の横を直径五十センチはあろうかという大皿を抱えた揚げ物屋テキーラの若い従業員数名が、見事なまでの軽いフットワークでこちらへと向かって駆け抜けてきた。

 従業員の左肩に大事そうに乗せられた、見るからに重そうなそんな大皿の上には遠目からでもはっきりとその存在感、重量感が、ありありと伝わってくる程大量の揚げ物がてんこ盛りになっており、例えるならば揚げ物だけで作られた強固なお城のように見えた。

 そんな見た目の揚げ物を一瞥し、二度見、三度見を華麗に決めてから若干乱された心のリズムを取り戻しつつ、すぐさまウチの機動力担当に指示を飛ばす。

「行きたまえ、パティーくーん! 今こそ君の出番だ!」






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