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ベネツィ大食い列伝
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一階にある食堂を出たフロア。
味のある光沢を放つ、古びた木材が使用された立派な受付があるエントランス。
その片隅に置かれた休憩用のテーブルセットの椅子に腰掛けた育ちの良さそうなお嬢さん。
「お? やあ、アリシア。おはよう!」
「あっ、おはようございます!」
腰掛けていた椅子から元気良く立ち上がると、深々と頭を下げた。
「よく眠れたかい?」
「……いえ、実はあまりぐっすりと眠れませんでした。初めて家以外の場所で眠るんだと思うと、何だか緊張しちゃって……えへへ。寝よう寝ようと頑張ってたら朝になっちゃいました。タケルさん達はどうでした? よく眠れました?」
「僕はたくさん寝たよ! 夢も見た!」
「にゃー!」
「君達は昨夜からずっと寝っぱなしだったろう。俺は……そうだね、少しは眠れたよ。ただ朝からすごい騒がしくて大変だったけれど」
「あれって、いったいなんだったんですか? もの凄い音がしてましたけど……」
「あぁ、あれはね。料理上手なお爺さんのお茶目だよ。そうだ、アリシアは朝食は済ませたかい?」
「はい、頂きました。眠る前に日が昇り始めたので眠るのは諦めて、早めに食堂へ向かいました。品数豊富でとっても美味しかったです」
「優しい味付けで良かったよねー。是非ともまた食べたいところだよ。と、もう少し待っててね。すぐ用意してくるからっ」
俺とパティは勢いよく階段を駆け上がり、さっさと身支度を済ませアリシアの待つエントランスへと戻った。
「ごめん、お待たせ!」
「忘れ物は大丈夫ですか?」
「ええっと……パティ、君は大丈夫かい?」
「えっと……うん! 大丈夫だよ!」
バッグとポケットをポンポンと軽く叩いてからパティは言う。
「あれ? パティ君、じろうちゃんは?」
アリシアの言葉にパティは自身の頭を触って、
「ん? あれ⁉︎ じろうがいない!」
パティが騒ぎ出すと二階の通路からトトトトトトトトッと、何やらせわしない足音が聞こえてきて、みんなの視線が二階に集まった。少しするとじろうが明らかに焦った様子で階段を駆け下りてきて、パティの足元に寄ってくるやいなや大ジャンプをしてパティの肩に見事着地した。
そのまま所定の位置、つまりはパティの頭頂部に移動しいつものように両の前足を頭頂部へ投げ出すようにして少しもぞもぞと微調整をしたあと、ふんっと鼻息を一つ大きく漏らし、どうやら納得した様子で動きを止めた。
そんなじろうは一拍おいた後、その愛らしい小さな鼻から酸素をめいっぱい吸い込んでから目を力強く閉じて、二本の短くも鋭い牙を露わにして、怒りの感情を豊かに浮かべながら自慢のぶらでぃーくろうをパティの頭に何発も叩きつけた。
「痛たたたた……」
そんな怒り狂ったじろうからは『よくも置いて行こうとしたなっ!』という強い想いがありありと伝わってきた。
数えてはいないが大体、五十発くらいのぶらでぃーくろうがパティの頭頂部に炸裂したあたりでようやく気が済んだのか、じろうはピタリと前足を止めてその場に突っ伏し、寝息をたて始めた。
朝からお腹いっぱいご飯を食べて、いっぱい運動をしたので急に眠くなってしまったのであろう。やはりまだまだ子猫である。
俺達の間に和やかな空気が漂いだしたところで、パティが頭の上のじろうを慎重に触りながら静かに口を開いた。
「よ……よし。準備OK」
クスリ、と笑うアリシアを横目で見てから俺は、
「よっし! じゃあ、出発だ!」
俺達は宿屋を後にした。
外に出ると、ずいぶんと高い位置まで登ってしまった太陽があたりを燦々と照らしており、数時間前は酔っ払いとカップルで溢れていた大通りも多くの人々で賑わっていた。
味のある光沢を放つ、古びた木材が使用された立派な受付があるエントランス。
その片隅に置かれた休憩用のテーブルセットの椅子に腰掛けた育ちの良さそうなお嬢さん。
「お? やあ、アリシア。おはよう!」
「あっ、おはようございます!」
腰掛けていた椅子から元気良く立ち上がると、深々と頭を下げた。
「よく眠れたかい?」
「……いえ、実はあまりぐっすりと眠れませんでした。初めて家以外の場所で眠るんだと思うと、何だか緊張しちゃって……えへへ。寝よう寝ようと頑張ってたら朝になっちゃいました。タケルさん達はどうでした? よく眠れました?」
「僕はたくさん寝たよ! 夢も見た!」
「にゃー!」
「君達は昨夜からずっと寝っぱなしだったろう。俺は……そうだね、少しは眠れたよ。ただ朝からすごい騒がしくて大変だったけれど」
「あれって、いったいなんだったんですか? もの凄い音がしてましたけど……」
「あぁ、あれはね。料理上手なお爺さんのお茶目だよ。そうだ、アリシアは朝食は済ませたかい?」
「はい、頂きました。眠る前に日が昇り始めたので眠るのは諦めて、早めに食堂へ向かいました。品数豊富でとっても美味しかったです」
「優しい味付けで良かったよねー。是非ともまた食べたいところだよ。と、もう少し待っててね。すぐ用意してくるからっ」
俺とパティは勢いよく階段を駆け上がり、さっさと身支度を済ませアリシアの待つエントランスへと戻った。
「ごめん、お待たせ!」
「忘れ物は大丈夫ですか?」
「ええっと……パティ、君は大丈夫かい?」
「えっと……うん! 大丈夫だよ!」
バッグとポケットをポンポンと軽く叩いてからパティは言う。
「あれ? パティ君、じろうちゃんは?」
アリシアの言葉にパティは自身の頭を触って、
「ん? あれ⁉︎ じろうがいない!」
パティが騒ぎ出すと二階の通路からトトトトトトトトッと、何やらせわしない足音が聞こえてきて、みんなの視線が二階に集まった。少しするとじろうが明らかに焦った様子で階段を駆け下りてきて、パティの足元に寄ってくるやいなや大ジャンプをしてパティの肩に見事着地した。
そのまま所定の位置、つまりはパティの頭頂部に移動しいつものように両の前足を頭頂部へ投げ出すようにして少しもぞもぞと微調整をしたあと、ふんっと鼻息を一つ大きく漏らし、どうやら納得した様子で動きを止めた。
そんなじろうは一拍おいた後、その愛らしい小さな鼻から酸素をめいっぱい吸い込んでから目を力強く閉じて、二本の短くも鋭い牙を露わにして、怒りの感情を豊かに浮かべながら自慢のぶらでぃーくろうをパティの頭に何発も叩きつけた。
「痛たたたた……」
そんな怒り狂ったじろうからは『よくも置いて行こうとしたなっ!』という強い想いがありありと伝わってきた。
数えてはいないが大体、五十発くらいのぶらでぃーくろうがパティの頭頂部に炸裂したあたりでようやく気が済んだのか、じろうはピタリと前足を止めてその場に突っ伏し、寝息をたて始めた。
朝からお腹いっぱいご飯を食べて、いっぱい運動をしたので急に眠くなってしまったのであろう。やはりまだまだ子猫である。
俺達の間に和やかな空気が漂いだしたところで、パティが頭の上のじろうを慎重に触りながら静かに口を開いた。
「よ……よし。準備OK」
クスリ、と笑うアリシアを横目で見てから俺は、
「よっし! じゃあ、出発だ!」
俺達は宿屋を後にした。
外に出ると、ずいぶんと高い位置まで登ってしまった太陽があたりを燦々と照らしており、数時間前は酔っ払いとカップルで溢れていた大通りも多くの人々で賑わっていた。
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