繰り返される転生劇〜喜劇こそ、笑いこそ世界を救うたった一つの手立てではないかっ!〜

清水花

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ベネツィ大食い列伝

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 宿屋の爺さん! あんたの謎に包まれた行動、理解したぜ!

 まず、俺の問いに対する答えが『はい』ならあの鉄鍋を一発叩く、『いいえ』もしくは『はい、いいえ』で答えられない問いの場合には鉄鍋は叩かない。そしてほぼ間違いないとは思うけれど、外の陽の高さを見るに今は日の出から随分と時間が経っていて、お爺さんとしては片付かないから早く朝食を食べて欲しいのだ。だが待てども待てども俺達が食堂に現れないので、ついに居ても立っても居られなくなり手に持って待ちかまえていた鉄鍋とオタマを持ったまま今、こうしてわざわざ起こしに来てくれたのではなかろうか。

 きっとそうだ。そうに違いない。

 寝起きでそんな謎解きをやらされるのも結構辛い部分があるので、今後は是非とも普通に口で語って起こして欲しいところではある。

 俺は何とも言えない爽快感を感じつつ、すっくとベッドから立ち上がり、

「さあ! パティ、じろうちゃん。さっそく朝食にしよう。お爺さんが心を込めて作ってくださるようだよ!」

「はぁい」

「にゃあ」

 俺達はお爺さんに案内されて一階にある食堂へと向かった。

 しばらく待っていると朝食が運ばれてきて、その品数の多さにびっくりした。山菜のお浸し、小魚の佃煮、焼き目が綺麗な卵焼き、ネギと豆腐のお味噌汁、葉物野菜のサラダ、焼き魚、ゆで卵などなど、朝食にはもってこいの身体に優しい献立だった。

 じろうにはお爺さんの飼い猫に与えるために買っておいた物なのか、20種の野菜と青魚を練り込んだ特製キャットフードMサイズが箱の中から、からからと音をたててお皿にたんまりと盛られ、その隣には牧場しぼり特濃ミルクが添えられた。

 暖かな、美味しそうな湯気が立ち上る料理の数々をぐるりと見回していると視覚的情報が俺のお腹へと伝わったのか、途端にお腹の虫がぎゅるりと産声を上げた。

 じろうは特製キャットフードと特濃ミルクの匂いを交互に嗅いで『お! ほ! ほー!』と、今まで聞いたことのない嬉々とした声を上げた。

 パティは椅子から腰を少し浮かせてテーブルに手をつき、料理の数々を一通り見て、

「卵焼きと味噌汁とゆで卵だけでいいや」

 と、なんとも興醒めな一言を放ち再び椅子に腰を下ろした。

 せっかく作ってくれたのに、好き嫌いしてんじゃねぇよ。

 とは言っても、年齢的に考えて気持ちは分からなくもないのだが。事実、俺も山菜や佃煮なんかが普通に食べられるようになったのは、結構最近の事だしな。

 まぁまぁ。好き嫌いも、得意不得意も、俺と旅をする中で少しでも成長して一つでも少なく出来りゃ万々歳なんだろうけどな。

 剣術だけではなく、生活においての心構えとか知識とか教えてあげなきゃいけない事はたくさんあるはずだ。だけど俺自身、まだ未熟なので教えてあげられる事はそんなに多くはないのだけれど。

 俺もパティに負けじと頑張らないとな。

 それは今後の課題として、今は朝食だ。朝食を頂こう。

 俺達は揃って手を合わせ一礼し、さっそく朝食を頂く事にした。

「「頂きまーす」」

「にゃー」

 猫も食事の前は手を合わせるんだな。新たな発見だ。

 因みに食事の際、まずは汁物から攻めるのが俺流である。

 湯気が立ち上る味噌汁が入ったお碗を手に取り慎重に口に運び一口頂く。

 小魚からとった出汁が利いたとても美味しいお味噌汁だった。

 皆、思い思いに朝食を済ませて再び手を合わせ、

「「ご馳走様でしたー」」

「にゃあー」

 食堂を後にする際、厨房の中で恐らく夕食の仕込みをしているあのお爺さんに『とても美味しい朝食でした、ありがとうございました』と、声を掛けたところ、

「あぁ、はいはい。これはこれはご丁寧にどうも、お粗末様でした。お連れ様ほどお召し上がりになりませんでしたが、お口に合いませんでしたでしょうか?」

「いえいえとんでもない! とっても美味しかったですよ⁉︎」

「にゃう!」

「それならよろしゅうございました。それでは道中お怪我などなされぬよう十分ご注意下さい。是非ともまた、いらしてくださいね」

 と、優しい笑みを浮かべて手を振るお爺さん。さっきあれほどの爆音を奏でた人とは思えない変わりようである。

 だからと言うか。俺の身に起こった事なので、いつものボケ的な展開が朝一から起こった、と。自分の中で納得し食堂を後にした。




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