繰り返される転生劇〜喜劇こそ、笑いこそ世界を救うたった一つの手立てではないかっ!〜

清水花

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ベネツィ大食い列伝

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 ガガガガガガガガガガガゴゴゴン!

 未だ爆音は続く中、ベッドの上でこれでもかと手足を存分に伸ばす少年と子猫。

 目がうっすらと開いており伸びをしたまま左右に身体を捻っている。

 よしっ! いいぞ。そのまま起きろ!

 そして伸びが最高潮に達し身体が再び収縮するタイミングで、まるで事切れたようにぱたりとベッドに沈み込んだ。

「寝るなぁぁぁ!」

「ーーはっ⁉︎」

「ーーにゃっ⁉︎」

 ついツッコミの要領で言い放った心からの叫びに少年と子猫は身体をビクつかせ目を大きく開いた。

 やっと起きたのかよ……。考えてみりゃ10話分くらい寝っぱなしじゃねぇか。

 せめて寝た子は育ってろよ?

「ふぁ……あ……」

「にゃ……は……ん」

 少年と子猫は上体を起こして両の目を擦りながらあくびをして部屋の中をぐるりと見渡す。

 そして俺と目が合ったところで、

「何だよ父ちゃん……ラグナロクは……勝ったじゃねぇか……」

「にゃはは……はん……」

「誰が父ちゃんだ。おい起きろ、いい加減目を覚ませ。なんか知らんがお爺さんが怒ってるぞ」

「爺ちゃん……?」

 と、そこでようやく気付いたが、俺を苦しめていた例の爆音はいつの間にかすっかり消え去っており部屋の中は小鳥達のさえずりが優しく響いていた。

 やはりパティ達が目を覚ましたのでお爺さんの爆音も止んだという事なのだろうか。

 とりあえず良かった。

「あ……あの、ありがとうございます。おかげさまでバッチリ目が覚めました」

「…………」

「…………」

 なぜ、何も喋らない。

「…………」

「…………」

 なぜ、そこまで頑なに俺を凝視し続ける。

「あ……あの……何か?」

「…………」

 お爺さんはまるで俺の瞳を射貫くかのような力のこもった目で、真っ直ぐにじっと俺を睨んでいる。

 何だよこれ。俺なんか悪い事した?

「…………」

「…………」

 お爺さんはなおも俺を睨みつけており、時間の経過と共に目が大きく開かれていっている気がする。

 男は目で語る、的なやつだろうか。

 だが、昨日今日出会ったばかりのお爺さんの思いが俺に伝わるなんて事は全くなく、ただただ気まずい時間だけが流れた。

 刻一刻と時は流れ、もはや気まずい時間そのものが全身にねっとりと絡みつくような、いやらしさが漂う空気の中まるで神が遣わせた救いの使者のようにパティとじろうが口を開いた。

「ふぁーあ……お腹空いたな……」

「にゃあ……」

 パティ達はお腹をさすりながらぽつりと呟いた。

 起きたら起きたで忙しい奴らだな。

 しかし、年端もいかない子供達をこのまま飢えさせておくのも忍びない。さっさと宿を後にしてどこかで朝食にしよう。

「…………」

「……ん?」

 気付く。

「そ……そう言えば……朝食付いてるんでしたっけ?」

 ーーーーガァン!

 両手に持った調理器具が一発だけ鳴らされた。

「うわぁ⁉︎ びっくりした! 急に何⁉︎」

「ふぉっ⁉︎ ほっほっほっほ!」

 なぜ、このタイミングでそれを鳴らすのだ。

 そして、なぜ俺の問いはフル無視なのだ。

 まあいい。今はとにかく朝食だ。

 思い返せば昨日、正確には数時間前か。泊まるための受付をしている際に、確か朝食付きで一人100Gと言っていた気がする。

 ならばわざわざ外に出なくても、この宿で朝食にありつけるではないか。

 もう一度、確認の意味を込めて質問してみよう。

「あの……朝食はパンですか? お米ですか?」

「…………」

 だから何で無視なんだよ! 何で睨むんだよっ!

 全く意味が分からない。俺の聞き方がダメなのか?

「あの……朝食は今からでも大丈夫ですか?」

 ーーーーガァン!

 再び鳴らされる調理器具。

 ふむ。ふむふむふむ。

 なるほど、分かってきたぞ。

 仮説が立ったのなら、お次は検証だ。

 俺の仮説が正しければ次の質問はたぶん無視、というかあの鍋は叩かない筈だ。

「朝食はどこで食べられるんですか?」

「…………」

 ほう。ほうほうほう。

 じゃあ、次の質問でお爺さんは鍋を叩く筈だ。

「朝食は急いだ方が良いですか?」

 ーーーーッガァン!

 今日一番ではなかろうかと言う程に大きく鳴らされた鉄鍋に俺はニヤリとして、とある確信を持った。

 読めたぜ、理解したぜ! 宿屋の爺さん!

 



 
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