繰り返される転生劇〜喜劇こそ、笑いこそ世界を救うたった一つの手立てではないかっ!〜

清水花

文字の大きさ
上 下
93 / 135
ベネツィ大食い列伝

しおりを挟む
「シドの捜索中なのだ」

 あぁ、なるほど。

 何かしらの理由でこの森に来たはいいが、はぐれてしまって困っていたのか。

「ふむ……」

 見方を変えると憎めない奴と言うか、やっぱりこう……可愛らしい一面があるんだよな。デュークって。

 鋭い目つきとクールな性格だがどこか抜けていて、その落差から母性本能をくすぐられる何とも言えない愛嬌を感じてしまう。

 年上の女性にモテる資質があるのかもしれない。

「…………」

 ここだけの話、俺は今まで一度たりともモテた事がない。だいたいが良い人、良き理解者、第二の父親または兄といった彼氏よりも近い立ち位置に立たされて、それで終わる。

 家族では恋人にはなれないのだ。

 家族ではなく恋人になりたいのだ。

「はぁ……」

 こんな時にいったい何を考えているんだ、俺は。

「タケルはシドの奴を見なかったか?」

「んー。残念だけど力にはなれそうにないね。見ても聞いてもいないよ」

「そうか……いったいどこに行ったのだ。シドの奴め」

「ちなみに、シドとはどこではぐれたのさ?」

「昨日の昼間、タイクーン城でな」

 昨日の昼間、タイクーン城。

 身に覚えのある二つの情報に、昨日の記憶を辿り頭の中に当時の光景を思い浮かべてみる。

「ーーーーって、あの時じゃねぇか!」

 タイクーン城広場にて開催されたベネツィ武道大会。

 子供達のための大会なのに、なぜか奇跡的にデュークは出場していた。

 そして恐らくは出場にあたり、デュークは選手として試合会場に、シドは応援のために俺と同じく観客席にいたのであろう。

 つまり、二人は二手に分かれていた訳だ。

 そして?

 第一試合でボロ負けして?

 大人気なく腹を立てて?

 会場を後にして?

 町から少し離れたこの帰らずの森にやって来たと?

「ほう、タケル。シドの居場所に心当たりでもあるような様子だが?」

「心当たりというか、それは普通に会場にいるだろぉぉぉー!」

 何で勝手に会場から出てんだよデューク……。

 普通に会場の中をくまなく探せよ……。

「ははは! 甘いなタケル。町の中を散々探した後、夕方になってもう一度武道大会の会場を探したが兵士達がちらほらいるだけで、シドのシの字も見当たらなかったんだぞ?」

「そこは普通に宿屋を探せよぉぉぉー!」

 夕方になるまでずっと会場で一人ぽつんと待ってる仲間なんて普通いないって!

 いまどきどんな忠犬でもそんな事しないって!

 主人に対して忠実すぎるだろう。

 しかも『甘いなタケル』って、何で俺に勝ったみたいなドヤ顔してんだよ、コイツは。

 大丈夫なのかよ……本当。

 そしてシドはきっと今頃、宿屋のベッドの上で未だ帰らないデュークの事をあれやこれやと考えているのだ。

 自分が何か悪いことでもしてしまったのか? 

 とか、

 まさかデューク様の身に何かがあったのやもしれん!

 とか、

 ワシが目を離したばっかりに!

 とか、

 次から次に自身を責めるような事ばかりが思い浮かんできて、シドの胸は今にもはり裂けそうになっているに違いない。

 可哀想に。

 そんなシドの献身的な心配をよそにデューク本人はと言えば、こんなにも陽気に、おバカさんであるのだ。

 これではシドの想いが報われない。

 そもそもシドにそこまで肩入れする義理もないのだけれど。

 いちいち俺に突っかかってくる恩知らずな奴だし。

「ふむ。タケルとしてはシドは今現在、宿に戻って私の帰りを待っていると言うのだな?」

「う、うん……。あくまで恐らくって話なんだけど」

 少なくとも深夜の森の中には絶対にいないと思う。

「ふむ。確かにシドは夜の八時を迎える頃には就寝の準備を整えてベッドに入るがあるからな、その可能性は否定できない」

「それ、じゃなくて、だろ⁉︎ シドのライフスタイル! 今で言えばシドを探し出すためのかなり重要な情報じゃねぇか!」

 時間的に宿に戻ってるはずだ。って皆が思うところだろう。

「しかしタケルよ。よくシドの癖を知っていたな、俺の知らないところで親交を深めていたか……ふふふ。そうなのだシドの奴ときたら、たとえ戦闘中だろうが移動中だろうが夜八時になったら就寝の準備を始める頑固者でな少し手を焼いている。ははは、全く困った奴だよ」

「クビにしちまえそんな奴っ!」

 戦闘中に寝るとかどんな度胸してんだよ。ある意味、憧れるよ。

 そしてそれは頑固者じゃなく、ただの変人だよ。

 うちのパティ君はちゃんと寝ながら歩いてくれてるぞ。

「ふむ。それでは一旦宿に戻ってみるとするか」

「是非ともそうしてくれ……」

「うむ。ではタケルよ、またな」

 デュークは俺に背を向けて歩き出す。

 ありがとうデューク。君のおかげで楽しい時間が過ごせたよ。

 と、

 視界の隅に別の人影を見つけ視線を投げるとそこにはアリシアがいて、

「お待たせしました、タケルさん」

「げっ……激かわ……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

回帰した貴公子はやり直し人生で勇者に覚醒する

真義あさひ
ファンタジー
名門貴族家に生まれながらも、妾の子として虐げられ、優秀な兄の下僕扱いだった貴公子ケイは正妻の陰謀によりすべてを奪われ追放されて、貴族からスラム街の最下層まで落ちぶれてしまう。 絶望と貧しさの中で母と共に海に捨てられた彼は、死の寸前、海の底で出会った謎のサラマンダーの魔法により過去へと回帰する。 回帰の目的は二つ。 一つ、母を二度と惨めに死なせない。 二つ、海の底で発現させた勇者の力を覚醒させ、サラマンダーの望む海底神殿の浄化を行うこと。 回帰魔法を使って時を巻き戻したサラマンダー・ピアディを相棒として、今度こそ、不幸の連鎖を断ち切るために── そして母を救い、今度こそ自分自身の人生を生きるために、ケイは人生をやり直す。 第一部、完結まで予約投稿済み 76000万字ぐらい ꒰( ˙𐃷˙ )꒱ ワレダイカツヤクナノダ~♪

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

転生したら王族だった

みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。 レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...