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ベネツィ大食い列伝
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「シドの捜索中なのだ」
あぁ、なるほど。
何かしらの理由でこの森に来たはいいが、はぐれてしまって困っていたのか。
「ふむ……」
見方を変えると憎めない奴と言うか、やっぱりこう……可愛らしい一面があるんだよな。デュークって。
鋭い目つきとクールな性格だがどこか抜けていて、その落差から母性本能をくすぐられる何とも言えない愛嬌を感じてしまう。
年上の女性にモテる資質があるのかもしれない。
「…………」
ここだけの話、俺は今まで一度たりともモテた事がない。だいたいが良い人、良き理解者、第二の父親または兄といった彼氏よりも近い立ち位置に立たされて、それで終わる。
家族では恋人にはなれないのだ。
家族ではなく恋人になりたいのだ。
「はぁ……」
こんな時にいったい何を考えているんだ、俺は。
「タケルはシドの奴を見なかったか?」
「んー。残念だけど力にはなれそうにないね。見ても聞いてもいないよ」
「そうか……いったいどこに行ったのだ。シドの奴め」
「ちなみに、シドとはどこではぐれたのさ?」
「昨日の昼間、タイクーン城でな」
昨日の昼間、タイクーン城。
身に覚えのある二つの情報に、昨日の記憶を辿り頭の中に当時の光景を思い浮かべてみる。
「ーーーーって、あの時じゃねぇか!」
タイクーン城広場にて開催されたベネツィ武道大会。
子供達のための大会なのに、なぜか奇跡的にデュークは出場していた。
そして恐らくは出場にあたり、デュークは選手として試合会場に、シドは応援のために俺と同じく観客席にいたのであろう。
つまり、二人は二手に分かれていた訳だ。
そして?
第一試合でボロ負けして?
大人気なく腹を立てて?
会場を後にして?
町から少し離れたこの帰らずの森にやって来たと?
「ほう、タケル。シドの居場所に心当たりでもあるような様子だが?」
「心当たりというか、それは普通に会場にいるだろぉぉぉー!」
何で勝手に会場から出てんだよデューク……。
普通に会場の中をくまなく探せよ……。
「ははは! 甘いなタケル。町の中を散々探した後、夕方になってもう一度武道大会の会場を探したが兵士達がちらほらいるだけで、シドのシの字も見当たらなかったんだぞ?」
「そこは普通に宿屋を探せよぉぉぉー!」
夕方になるまでずっと会場で一人ぽつんと待ってる仲間なんて普通いないって!
いまどきどんな忠犬でもそんな事しないって!
主人に対して忠実すぎるだろう。
しかも『甘いなタケル』って、何で俺に勝ったみたいなドヤ顔してんだよ、コイツは。
大丈夫なのかよ……本当。
そしてシドはきっと今頃、宿屋のベッドの上で未だ帰らないデュークの事をあれやこれやと考えているのだ。
自分が何か悪いことでもしてしまったのか?
とか、
まさかデューク様の身に何かがあったのやもしれん!
とか、
ワシが目を離したばっかりに!
とか、
次から次に自身を責めるような事ばかりが思い浮かんできて、シドの胸は今にもはり裂けそうになっているに違いない。
可哀想に。
そんなシドの献身的な心配をよそにデューク本人はと言えば、こんなにも陽気に、おバカさんであるのだ。
これではシドの想いが報われない。
そもそもシドにそこまで肩入れする義理もないのだけれど。
いちいち俺に突っかかってくる恩知らずな奴だし。
「ふむ。タケルとしてはシドは今現在、宿に戻って私の帰りを待っていると言うのだな?」
「う、うん……。あくまで恐らくって話なんだけど」
少なくとも深夜の森の中には絶対にいないと思う。
「ふむ。確かにシドは夜の八時を迎える頃には就寝の準備を整えてベッドに入る癖があるからな、その可能性は否定できない」
「それ、癖じゃなくて、習慣だろ⁉︎ シドのライフスタイル! 今で言えばシドを探し出すためのかなり重要な情報じゃねぇか!」
時間的に宿に戻ってるはずだ。って皆が思うところだろう。
「しかしタケルよ。よくシドの癖を知っていたな、俺の知らないところで親交を深めていたか……ふふふ。そうなのだシドの奴ときたら、たとえ戦闘中だろうが移動中だろうが夜八時になったら就寝の準備を始める頑固者でな少し手を焼いている。ははは、全く困った奴だよ」
「クビにしちまえそんな奴っ!」
戦闘中に寝るとかどんな度胸してんだよ。ある意味、憧れるよ。
そしてそれは頑固者じゃなく、ただの変人だよ。
うちのパティ君はちゃんと寝ながら歩いてくれてるぞ。
「ふむ。それでは一旦宿に戻ってみるとするか」
「是非ともそうしてくれ……」
「うむ。ではタケルよ、またな」
デュークは俺に背を向けて歩き出す。
ありがとうデューク。君のおかげで楽しい時間が過ごせたよ。
と、
視界の隅に別の人影を見つけ視線を投げるとそこにはアリシアがいて、
「お待たせしました、タケルさん」
「げっ……激かわ……」
あぁ、なるほど。
何かしらの理由でこの森に来たはいいが、はぐれてしまって困っていたのか。
「ふむ……」
見方を変えると憎めない奴と言うか、やっぱりこう……可愛らしい一面があるんだよな。デュークって。
鋭い目つきとクールな性格だがどこか抜けていて、その落差から母性本能をくすぐられる何とも言えない愛嬌を感じてしまう。
年上の女性にモテる資質があるのかもしれない。
「…………」
ここだけの話、俺は今まで一度たりともモテた事がない。だいたいが良い人、良き理解者、第二の父親または兄といった彼氏よりも近い立ち位置に立たされて、それで終わる。
家族では恋人にはなれないのだ。
家族ではなく恋人になりたいのだ。
「はぁ……」
こんな時にいったい何を考えているんだ、俺は。
「タケルはシドの奴を見なかったか?」
「んー。残念だけど力にはなれそうにないね。見ても聞いてもいないよ」
「そうか……いったいどこに行ったのだ。シドの奴め」
「ちなみに、シドとはどこではぐれたのさ?」
「昨日の昼間、タイクーン城でな」
昨日の昼間、タイクーン城。
身に覚えのある二つの情報に、昨日の記憶を辿り頭の中に当時の光景を思い浮かべてみる。
「ーーーーって、あの時じゃねぇか!」
タイクーン城広場にて開催されたベネツィ武道大会。
子供達のための大会なのに、なぜか奇跡的にデュークは出場していた。
そして恐らくは出場にあたり、デュークは選手として試合会場に、シドは応援のために俺と同じく観客席にいたのであろう。
つまり、二人は二手に分かれていた訳だ。
そして?
第一試合でボロ負けして?
大人気なく腹を立てて?
会場を後にして?
町から少し離れたこの帰らずの森にやって来たと?
「ほう、タケル。シドの居場所に心当たりでもあるような様子だが?」
「心当たりというか、それは普通に会場にいるだろぉぉぉー!」
何で勝手に会場から出てんだよデューク……。
普通に会場の中をくまなく探せよ……。
「ははは! 甘いなタケル。町の中を散々探した後、夕方になってもう一度武道大会の会場を探したが兵士達がちらほらいるだけで、シドのシの字も見当たらなかったんだぞ?」
「そこは普通に宿屋を探せよぉぉぉー!」
夕方になるまでずっと会場で一人ぽつんと待ってる仲間なんて普通いないって!
いまどきどんな忠犬でもそんな事しないって!
主人に対して忠実すぎるだろう。
しかも『甘いなタケル』って、何で俺に勝ったみたいなドヤ顔してんだよ、コイツは。
大丈夫なのかよ……本当。
そしてシドはきっと今頃、宿屋のベッドの上で未だ帰らないデュークの事をあれやこれやと考えているのだ。
自分が何か悪いことでもしてしまったのか?
とか、
まさかデューク様の身に何かがあったのやもしれん!
とか、
ワシが目を離したばっかりに!
とか、
次から次に自身を責めるような事ばかりが思い浮かんできて、シドの胸は今にもはり裂けそうになっているに違いない。
可哀想に。
そんなシドの献身的な心配をよそにデューク本人はと言えば、こんなにも陽気に、おバカさんであるのだ。
これではシドの想いが報われない。
そもそもシドにそこまで肩入れする義理もないのだけれど。
いちいち俺に突っかかってくる恩知らずな奴だし。
「ふむ。タケルとしてはシドは今現在、宿に戻って私の帰りを待っていると言うのだな?」
「う、うん……。あくまで恐らくって話なんだけど」
少なくとも深夜の森の中には絶対にいないと思う。
「ふむ。確かにシドは夜の八時を迎える頃には就寝の準備を整えてベッドに入る癖があるからな、その可能性は否定できない」
「それ、癖じゃなくて、習慣だろ⁉︎ シドのライフスタイル! 今で言えばシドを探し出すためのかなり重要な情報じゃねぇか!」
時間的に宿に戻ってるはずだ。って皆が思うところだろう。
「しかしタケルよ。よくシドの癖を知っていたな、俺の知らないところで親交を深めていたか……ふふふ。そうなのだシドの奴ときたら、たとえ戦闘中だろうが移動中だろうが夜八時になったら就寝の準備を始める頑固者でな少し手を焼いている。ははは、全く困った奴だよ」
「クビにしちまえそんな奴っ!」
戦闘中に寝るとかどんな度胸してんだよ。ある意味、憧れるよ。
そしてそれは頑固者じゃなく、ただの変人だよ。
うちのパティ君はちゃんと寝ながら歩いてくれてるぞ。
「ふむ。それでは一旦宿に戻ってみるとするか」
「是非ともそうしてくれ……」
「うむ。ではタケルよ、またな」
デュークは俺に背を向けて歩き出す。
ありがとうデューク。君のおかげで楽しい時間が過ごせたよ。
と、
視界の隅に別の人影を見つけ視線を投げるとそこにはアリシアがいて、
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「げっ……激かわ……」
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