繰り返される転生劇〜喜劇こそ、笑いこそ世界を救うたった一つの手立てではないかっ!〜

清水花

文字の大きさ
上 下
91 / 135
ベネツィ大食い列伝

しおりを挟む
 森の中を少し歩いた俺達は、とある広場に来ていた。

 他と違い木々の間隔が広く、ぽつんと存在する森の中のちょっとした広場。

 俺はその広場にあるでっかい切り株の上に腰を下ろして月を見上げている。

 満月は明日あたりだろうか?

 隣ではパティが大の字になって寝ていて、パティの顔の上ではじろうが大の字になって寝ている。

 あれから数十分の時が経つ。

 アリシアはお母さんに旅立ちの挨拶をする為、エルフの里へと向かっており俺達はその間お留守番という訳だ。

「…………」

 暇である。

 隣で眠るパティとじろうを羨ましく横目で見つめ、一緒に寝ようかと何度も思いはしたもののどうにも目が冴えてしまっているので、うまく寝る事が出来ないでいる。

「…………」

 だから暇なのである。

 しかし、こうしてのんびりと月を眺めていると思ってしまう。

 近日中にくるであろう満月の夜に、ドイルさんとアイシャさんは一ヶ月ぶりの再会を果たし、互いを気遣い、家族の話に花を咲かせて、愛を育むのであろう。

 満月の夜の一家団欒。

 人目を忍び、交わされる数々の言葉達。

 それでも家族3人で過ごす時間というのは少し前までの事で、最近はと言えばドイルさんとアイシャさんの夫婦水入らずで過ごすのが主流らしい。というのは、お年頃のアリシアが両親に気を遣い満月の夜にはたまにしか姿を見せていないからだとか。

「…………」

 だからと言うか、暇なのである。

 アリシアは今頃、エルフの里のアイシャさんに旅に出る旨を伝えしばしの別れを惜しんでいる頃だろう。

 アリシアはまた泣いているのかもしれない。

 いくら自分で望んだ事とはいえ、まだ幼い彼女が両親と離ればなれになるというのは精神的にかなり辛い筈である。

 夢を投げ出して家に帰ってもいいくらいに。

 それでもあの子はきっと寂しさに耐えて旅に出るのである。

 家族の為、自分の為。

 夢を叶えるために茨の道を行くのである。

 思えばみんなそうだ。

 自身と同じ悲しみが再び起こらぬよう、モンスターから人々を守りたい温かな老人。

 強く正しい立派な騎士になりたい少年。

 家族を一つに、本来あるべき姿にしたいと夢見る少女。

 それぞれがそれぞれの夢を思い描き、夢に向かって突っ走る。

 だから俺は、そんな夢を追いかけ頑張っている人を精一杯応援したくなり、協力したくなるのである。

 ようはモノ好きであり、お節介焼きであり、酔狂であり、お人好しのような偽善者なのである。

「…………」

「……らえ、必殺……ニュー……エリオン」

「……にゃはは……にゃあ……」

 何やら楽しげな夢でも見ているのであろうか、この子達はとても幸せそうにしている。

 と、

「ん? お前は……タケルか?」

 聞き覚えのある声にドキリとする。

 状況が状況だけに歓喜し、まぶたを大きく開いて声がした方へ視線を投げる。

 そこには予想通りのお方がいらっしゃった。

 目にかかるくらいまで伸びた黒髪、その奥から放たれる人の心までも見透かしてしまいそうなほど冷たい眼差し、感情が一切読み取れない表情、全身から漂う怪しげな雰囲気、見るからに上品な素材で作られたデザインの衣服、見ようによってはどこかの国の王子様にも見える。

 と、最初は確かそんな風な印象を受けたものだけれど、これまで散々おバカなやり取りを繰り広げてきた今となっては、そんな印象に加えてどこか愛嬌があって、ふわふわとしていて、一波乱起こしそうな危険度と期待度を内包した印象を感じてしまう。

「ふむ。やはりタケルか」

「ンデューク! デュークちゃん!」

 暇すぎる今の状況を必ず打破してくれるであろうデューク様の登場に、期待度と興奮度は一気に沸点を超える。

 実を言うと、しばらく出て来ていなかったから心配してたんだ。

 最後に会ったのは……飢えてる二人にご飯を奢ってあげたあの時か。

 財布を落として所持金ゼロだったから、モンスターでも倒してお金稼げば? って助言したけど、あれ以来一向に現れないから、もしかしてモンスターにやられちゃったのかなって思ってたんだ。

 いや、違う違う。

 ベネツィ武道大会だ。

 子供達の武道大会になぜか出場できたデュークは対戦相手の子から1ポイントを先制し得意げに剣の手ほどきをした後、その子にボッコボコにやられて真剣に悔しがって会場を後にしたんだ。

 うん。あれは見るに耐えない光景だった。

「こんなところでいったい何をしているのだ? タケルよ」

 デュークはゆっくりとこちらへ歩み寄りながら問う。

「君を心の底から待っていたのさー!」

 満面の笑みを浮かべて言う。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

回帰した貴公子はやり直し人生で勇者に覚醒する

真義あさひ
ファンタジー
名門貴族家に生まれながらも、妾の子として虐げられ、優秀な兄の下僕扱いだった貴公子ケイは正妻の陰謀によりすべてを奪われ追放されて、貴族からスラム街の最下層まで落ちぶれてしまう。 絶望と貧しさの中で母と共に海に捨てられた彼は、死の寸前、海の底で出会った謎のサラマンダーの魔法により過去へと回帰する。 回帰の目的は二つ。 一つ、母を二度と惨めに死なせない。 二つ、海の底で発現させた勇者の力を覚醒させ、サラマンダーの望む海底神殿の浄化を行うこと。 回帰魔法を使って時を巻き戻したサラマンダー・ピアディを相棒として、今度こそ、不幸の連鎖を断ち切るために── そして母を救い、今度こそ自分自身の人生を生きるために、ケイは人生をやり直す。 第一部、完結まで予約投稿済み 76000万字ぐらい ꒰( ˙𐃷˙ )꒱ ワレダイカツヤクナノダ~♪

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

転生したら王族だった

みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。 レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...