繰り返される転生劇〜喜劇こそ、笑いこそ世界を救うたった一つの手立てではないかっ!〜

清水花

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エピソード・オブ・お嬢ちゃん

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 アリシアの口から放たれる、予想だにしない刺激的な一言。

「ゆーーーー誘拐っ⁉︎」

「しー……」

 ぬぅ。つい声がでかくなってしまった。

「誘拐って、どう言う事……?」

「私がまた、うじうじして気が変わらない内に強引に連れ出して欲しいんです」

 ダメですか? と、俺の顔を覗き込んで来るアリシア。

 仕草までもがドストライク過ぎる。

「んー……。ダメでは無いんだけどね。一つ、条件がある」

「条件?」

「これはパティにも聞いた事なんだけど、アリシア。君はお年寄りは好きかい?」

「お年寄り、ですか?」

 条件という言葉にやや身構えてしまっていたのか、拍子抜けしたようにアリシアは聞き返してくる。

「ちなみにお爺さんです」

「は……い。特別に大好きって訳じゃ無いですけど、お爺ちゃんもお婆ちゃんも普通に好きですよ?」

「それは良かった。じゃあ何の問題もないよ」

「それじゃあ……」

「うん」

 俺はその場で片膝をついて右手を差し出し言う、

「美しきアリシア姫。身分もわきまえず、あなたに心を奪われた愚かな私は自分勝手な理由でこれから貴方を誘拐致します。どうぞこちらへ……」

 そんな俺の言葉に、アリシアはクスリと笑い、

「はい」

「貴方が望む夢を叶えるその日まで私、勇者タケルが絶対にお守り致します」

「よろしくお願いします。勇者様」

 俺の右手を取ってアリシアは微笑む。

「さて……」

 立ち上がり、辺りを見回すとアリシアの少し後方にはパティが立っていてうつむき、寝息を立てている。

 そんなパティの頭の上にはもちろんじろうが乗っていて、こちらも頭に突っ伏して寝ているようである。

 そんな光景を見ていると、何だかパティ達の行動パターンが全て連動しているように思えてきて面白かった。

「あ……無理矢理連れて来ちゃったから……」

「おーい、パティくーん。起きろー」

 パティの両頬を引っ張り起こしてみる。

「ふがっ⁉︎」

「ほにょ⁉︎」

 両頬を襲う刺激に一旦は顔を上げたのだが、両者はまたうつむき寝息を立て始めた。

 やっぱり連動してるんだね……。

「パティくん、ごめんね起きて?」

 アリシアはパティの両肩を優しく揺さぶり起こそうと試みる。

「……何だよ母ちゃん……ラグナロクは……明日だぜ……」

「……にゃ……あ……」

「誰が母ちゃんだ、キャラが変わってんじゃねぇか。ほらっ、起きろ」

 そしていったい何の夢を見てるんだこの子は。

 明日。遂に世界が滅ぶのだろうか?

 その後、あれこれ試してみた結果。パティ達は一向に起きないが、手を引けばちゃんと歩く事が判明したので仕方なくそのまま手を引いて行くことにした。

 アリシアに先導してもらいベネツィの森、通称帰らずの森を三人と一匹で歩いていく。

 風で揺れる枝葉の音が、夜を好む動物達の息遣いが、夢を描くハーフエルフの少女の旅立ちを祝福しているようだった。

 今まで自身を支えてきた大切な存在を全て置き去りにし、望む未来に向かい一歩一歩力強く大地を踏みしめ歩を進める少女。心の迷いか、はたまた幼心の表れか、不意に後ろを振り返った少女の目は大粒の涙で濡れていた。

 こうして、勇者によるハーフエルフの少女誘拐事件は静かに幕を降ろした。

 


 エピソード・オブ・お嬢ちゃん

 終わり。


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